博物館だより 11 現代の国語辞書の原点 『言海』と『大言海』

「言海」と「大言海」、ともに初版です。「言海」初版本は10年ぶりの公開。1月いっぱいテーマ展示室「文彦と言海」にてんじしています

明治24(1891)年、日本初の近代的な体裁を整えた国語辞書が完成しました。大槻文彦による『言海』です。文彦が考えた辞書とは発音、語別(品詞)、語原(単語のもともとの形や意義)、語釈、出典の五つが示された50音順の普通語辞書でした。この辞書の完成のために文彦は日本語文法を考え、言葉をたずね歩き、一語一語執筆と推敲を繰り返していったのです。着手から16年かかっています。そして『言海』完成直後からその体裁を規範とした国語辞書が続々と世に出されるようになり、その系譜を受けて現代も国語辞書は出版され続けているのです。国語辞書の原点、それが『言海』なのです。
それから21年後、すでに66歳に達していた文彦はもう一度新たな国語辞書作りを開始します。この時には国語辞書が数多く出版されていたこともあって、文彦は別な視点で辞書を作る決意をしました。語原に重きを置く、というものでした。それからは寸暇を惜しんで新しい辞書作りに没頭しますが、昭和3(1928)年、82歳で志半ばに世を去りました。くしくも『言海』完成に要した年月と同じ16年後のことです。
この時完成稿は「あ、か、さ」の3行でしたが、文彦の兄如電がこの仕事を引き継ぐに当たって語った通り(※)、この3行で言葉全体の3分の2に当たるので、残りは文彦の草稿を整理して昭和10年に辞書を完成させました。これが『大言海』です。今でも語原を語る場合には、『大言海』がよく引用されます。文彦は生涯2種類の国語辞書を独力で作り上げたのです。言葉に対する愛着と執念がそこには感じられます。
 今年は文彦が亡くなって80年目に当たります。日々生み出される新しい言葉、静かに忘れられていく言葉、めまぐるしく変わっていく現代の言葉を、文彦はどのような想いで眺めているのでしょうか。※大槻如電「大言海刊行緒言」(『大言海』所収)

 (広報いちのせき平成20年1月1日号)