博物館だより 18

はるかな時間と空間を感じさせる
森本仁平 河口夕凪

森本仁平 河口夕凪

《河口夕凪》 森本仁平 1991年 油彩  72.7×116.7センチメートル 

森本仁平は1932(昭和7)年から岩手県立一関高等女学校に、また1947(昭和22)年から一関市立山目中学校にそれぞれ4年間教諭として勤務し、当地方では今でも大変親しまれている画家です。
1911(明治44)年石川県大聖寺町(現加賀市)に生まれた森本は、東京美術学校(現東京藝術大学)師範科を卒業し、一関に赴任します。その後も各地の学校で教壇に立ち、傍ら油絵の制作を続け、自由美術協会会員としても作品発表を続けました。教員を定年退職してからは自由美術協会を退会し、どの美術団体にも所属することなく、個展を主な発表の場としました。晩年まで千葉県鎌ケ谷市のアトリエで精力的に制作活動を続け、2004(平成16)年に没しました。
森本の作品は風景画が多く、中でも停泊する船や水田、野原や野の道、小川、海辺の光景などが目立ちます。
《河口夕凪》は80歳近くに描かれた作品です。大きさは横幅が1メートルを超え、絵の前に立つと、水平線が私たちの視線とちょうど重なり、まるで作品の中に入り込んだかのような感覚にとらわれます。そこには、干潟にたたずむ数艘の船が描かれています。波の静かな水面の向こうにはうっすらと工場らしき影を望むことができ、わずかに湿り気を帯びた澄んだ空気は、海と空が接するさらに先まで続いているようです。流れる時間はゆったりとして、まるで時が止まったかとさえ思えます。黄金色の日差しは景色を穏やかな輝きで包み、一方で表情豊かな陰影を作り出しています。画面のどこにも人影はありませんが、そこに暮らしが息づいていることを思わない人はないでしょう。
森本の作品に、奇をてらった題材や過激な表現はありません。この画家のまなざしは身近な自然とそこに生きる人々に向けられています。いくつもの作品に繰り返し描かれる水平線や地平線は、人間の生を超えたはるかな時間と、空間を感じさせます。

一関博物館案内

展覧会 静謐なる世界へようこそ ―所蔵の美術作品から―

《カキとブドウ》  孔版画 福井良之助 1962年ごろ

《カキとブドウ》  孔版画 福井良之助 1962年ごろ

博物館で所蔵する美術作品から森本仁平の油彩画のほか、矢野茫土の日本画、福井良之助の孔版画を紹介しています。
いずれも静寂、静謐な世界を表現しているのが特徴で、しみじみとした味わいを醸し出しています。
■会期…2月1日(日)まで

ギャラリートーク

学芸員が展示作品を解説します。
■日時…1月4日(日)・18日(日)14時※通常入館料で参加いただけます


※休館日
年末年始(20年12月29日(月)~1月3日(土))および毎週月曜日。ただし1月12日(月)は開館し、翌日休館します。

 

問い合わせ先
一関市博物館 TEL 0191-29-3180

(広報いちのせき 平成21年1月1日号)