未来を拓く人づくり

人づくりをテーマに多くのヒントが示された座談会の模様。左から佐藤公一さん、小野仁志さん、勝部市長、永澤由利さん、鈴木須美子さん

さまざまな分野で活躍する4人の皆さんと勝部市長が、新しい年への抱負を語り合いました。
「未来を拓く人づくり」をテーマに、夢に向かって未来を切り開けるような子供たちや若者たちを育てるために、地域で必要なことについて語り合った座談会の模様をご紹介します。

司会・進行 勝部修市長(59)

司会・進行 勝部修市長

地元に人を残す鍵は人材育成
キャリア教育を地域にシフト

一年の初めに、市民の皆さんにメッセージを送りたいと本日お集まりいただきました。テーマは「人づくり」です。
市内大手企業の工場閉鎖などにより雇用は危機的な状況で、地元に若者が残れません。なんとかして人材を残したい。既存の企業だけでなく、新たな働き方、新しいビジネスにも期待しますが、人材育成が大きな鍵。具体的には「キャリア教育」を、学校現場だけでなく地域で行う方にシフトしなければなりません。
地域で人を育成するにはどうしたら良いのか、皆さんの日ごろの活動を通じてお話しいただきたい。はじめに、皆さんがどのような活動を行っているか、自己紹介を兼ねて一人ずつお願いします。

佐藤公一さん(55)

佐藤公一さん

「なぜ」と疑問を持って勉強し夢を持ってほしいですね

大東町出身。

「 いわいの里」ふるさとづくり研究会副会長で桑に着目した産業おこしを実践。

農業。

大東町で地域資源の桑と出合って、桑茶の製造販売やその他の商品開発などさまざまな活動をしています。人づくりでは、大東高校情報ビジネス科の生徒たちを桑畑に連れて行く機会がありました。高校生は、何を勉強したいかが分かっていないようで、「夢を持ってほしい」と話しました。子供たちにはなぜという疑問を持って勉強してほしい。若者がUターンで帰ってくるようにするのは、地元の人間の責任です。

鈴木須美子さん(43)

鈴木須美子さん

才能の芽を持つ子供たち
大人の導き方、接し方が大切

東山町出身。

11月に上演された音楽劇「たいしたもんだ」制作実行委員会委員長。

音楽教室主宰。

作詞家。

11月1日に上演した音楽劇「たいしたもんだ」を若い人たちと一緒に作り上げました。東山町長坂にある宮沢賢治詩碑の謎に迫る内容の音楽劇で、ここまでに10年以上かかりました。
平成5年、結婚して東山町に来ました。コンサートに行きたかったけれど、なかなか行けないので友達をつくり、この町にもホールがほしいねと呼びかけるため「東山音楽振興会」を組織。音楽を通じて楽しくなれるような活動を行っています。東山は賢治を身近に感じられる場所。「東山賢治の会」に入会し、賢治に会ったことのある人からも実際に話を聞き、誕生したのが「たいしたもんだ」です。

小野仁志さん(48)

小野仁志さん

話し合いの手法を学んで
子供たち支える輪を作る

平泉町。

NPO法人レスパイトハウス・ハンズ会長。いちのせき市民活動促進会議インアーチ代表。

知的障害者の施設に勤務した後、平成11年から事業所を一関に立ち上げ、障がい者の一時預かりでスタートしました。市の委託を受けて市民活動センターの運営も行い、市民活動の支援と地域づくりも行っています。
一関をもっとよくしたいと考える若い人たちが集まる「未来塾」事務局も務め、最近ではキャラクター「関殿」を提案したほか、「全国わんこもち大会」でもちをアピールしています。まちを元気にしたいというエネルギーが点から線となって、線から面になればと考えています。

永澤由利さん(55)

永澤由利さん

子供と共有する時間を大切に
世代間交流を積み重ねる

千厩町。

千厩1-2区自治会長。

千厩地区まちづくり協議会長。

㈲永沢家具店代表取締役。

身近な組織である自治会長となって5年目で、千厩町の自治会協議会長、千厩地区婦人会会長、さまざまな団体からなる千厩地区まちづくり協議会長も務めています。少ない赤ちゃんを大切に育てたいと願って赤ちゃん相撲を行う愛宕花相撲保存会の事務局長、中国人のお嫁さんをボランティアガイドに養成する「ニイハオ千厩観光クラブ」の代表、商店街の活性化につなげたいと千厩夜市の企画委員も務めています。地域を愛し、次に伝えていきたいとの思いから、誇りを持ってさまざまな活動にかかわっています。

若者の置かれた状況を踏まえどのように周囲が応援するか

市長

ありがとうございました。ここからは、最近の若者と接して、皆さん自身の若いころのことを思い出しながら、何が違うか、その違いがこの社会情勢の中で弱みになっていないか、弱みになっているならばどうやって埋めていったらいいかお聞きしたい。二つ目は、若者は世代が違うとコミュニケーションがとれないようだが、どうしたら応援してやれるのか。三つ目は、雇用の場が少ないが、どうやって働く場を確保すればいいのか。そのあたりを、自由にお話しいただきます。

佐藤

生徒が悪いのではなく、親の問題。今、親子のコミュニケーションがなく、親の仕事を知らない子もいます。親の問題は、地域の問題で、親たちがいろいろな話をする場所がありません。
高校生には、一人一人が事業主という意識が大切だと話しています。一次産業に携わる人は、自分が事業主。雇用されるという意識では仕事はないのかもしれませんが、自分が社長という意識があれば仕事はあります。あとはやる気とひらめき、人とのつながりが大切で、今はむしろビジネスチャンスのときです。

鈴木

佐藤さんの話すように、大人の心の問題は大きいですね。子供の質が低下しているといわれますが、子供はいろいろな才能の芽を持っていて、大人の接し方一つで変わります。以前は大人にかまってもらえ、優しいだけでなく、しかったり褒めたりしてくれました。
今の子供は怒られてばっかりで、褒められていません。音楽でも、豊かな感情が音楽表現につながります。子供はその先に楽しいことがあれば、どんどん伸びていきます。世の中が騒ぐほど、今の子は捨てたものではないと思っています。

小野

今はやる気があれば何でもできる時代。みんな、「言いだしっぺ」になるのを恐れているので、一人が言ったことを、みんなでやる話し合いの場が大切。それが協働のまちづくりに通じます。そのプロセスを共有すれば、一関は何でもできるまちになります。
解決方法をみんなで学べば、キャリア教育につながります。ファシリテーション※という話し合いの手法があって、小学生の時からからグループ討議を行うことで、発想力、論理力などが伸びます。相手の立場に立って話せるのがコミュニケーション。何でもできる時代だからこそ、できる、支える輪を作るのが、子供たちを伸ばすポイントではないでしょうか。

※ファシリテーション 会議、ミーティングなどの場で、発言や参加を促したり、話の流れを整理したり、参加者の認識の一致を確認したりする行為で介入し、合意形成や相互理解をサポートすることにより、組織や参加者の活性化、協働を促進させる手法

永澤

自治会活動は地域コミュニティーの一番の基本。大変なこともありますが、それらを踏まえ、ここはいい地域だよ、この地域を作ってくれたのは先輩たちがあってこそという感謝の気持ちを繰り返して話すように努めています。各自治会で世代間交流にかなり力を入れていると思いますが、子供たちが忙しいので時間の調整が大変。しかし機会づくりをし、共有する時間を持つことが大切だと考えます。
自治会活動では、子供や親以外の何にも属さない若者を取り込むのが難しいですが、スポーツ大会や運動会などで参加する機会を作ろうとしています。千厩夜市では、ハロウィーン仮装大会に人気があるので、行事の持ち方も工夫次第と実感しています。地域全体で若い人たちを温かく見つめていきたいですね。

市長

4人からそれぞれ重要なキーワードをお話しいただきました。佐藤さんからは、父親がキーマンであること。以前に高校生と話した時、母親とは話すけれど、父親とは母親経由でしか話さないとの話を聞いたことを思い出しました。
鈴木さんからは褒める、しかる、の話。今、地域ではそれがありません。わたしが小さいころは、身近に怖いお兄さんがいたもの。お年寄りパワーを借りて、団塊の世代に、隠居でなくて、地域のためにもうひと働きしてほしいと考えています。
小野さんからは「やろうと思えば何でもできる」ですが、わたしもよく、そう話しています。何でもやれる、やるかやらないかだということを真剣に教えなければならない。その機会づくりが大切です。
永澤さんの「共有できる時間が大切」という言葉に感銘しました。これがコミュニケーションの根幹。基本は、そこに一緒にいること。地域文化の継承を、自治会できちんと行っていきたいものですね。

今後の人口減少を見据えて組織のスリム化が不可欠に

小野

少子高齢化で、本市も10年間で1万人ずつ人口が減る見込みの中、行政とコミュニティー組織のスリム化が必要です。住民の意識も変化しているので、それらを踏まえて準備をしなければなりません。地域の役員はたくさんいますが、事業仕分けをして、何が大切か、リセットしないと、次の世代に引き継げません。自治会長さんは忙しくて四苦八苦し、若者を育てる余裕がないように思えます。

永澤

小野さんの発言は大切な問題。現在の一関市になって、12万市民をまとめることが大切な一方、旧市町村の文化や特性を、自分たちが考えるスローガン的なフレーズで、新たな目標が地域に生まれればいいのではと思っています。

市長

未来を若い人たちに引き継ぐために重要なキーワードを伺いました。
短期的な視点から見て、行政に今何を望むのか、当面やってほしいことなどがありましたら、お話しください。

永澤

自治会では補助金を頼りにしているところが多いですが、補助金は制約が多いので、交付金の形がいいとどこの自治会でも感じていると思います。

また、秋に産業文化祭というような行事を各地域で行っていると思いますが、テーマのメッセージ性はあるのでしょうか。テーマがかなり重要だと感じています。

市長

補助金に対する依存度がとても大きいので、補助金をもらっている間に自分たちで運営する力を蓄える必要があります。やれるところは地域でやって、やれないところは行政の力を借りる、という考え方に移行していく必要があります。

小野

市役所関係の市民がかかわる委員会などは、夜間の会議が多く、参加者に大きな負担がかかっています。企業に従業員を派遣してもらう形で、昼間に行うことも考えてはどうでしょうか。ボランティアといっても、毎夜会議が続くと疲労感、責任感で疲れ果ててしまいます。

鈴木

予算は「やる気度」でお願いしたいですね。地域おこし事業では3年間大変お世話になりました。窓口担当職員にも親身に対応していただきました。市内で中高生の吹奏楽のジョイントコンサートがありますが、有名な指揮者を呼んで、指導一つで演奏が変わることを体験させられれば、子供たちにとって忘れられない経験になるはず。ぜひ実現できればと夢見ています。

地域というオーケストラをコンダクターが最高の音に

市長

オーケストラも異なる楽器で構成されるように、地域にも多様な人がいて、コンダクターがそれをまとめて最高の音を出す。地域の総合力はそういうところにありますね。
最後に、新しい年にかける、皆さん自身の意気込みをお願いします。

永澤

「笑ったら勝ち」と例年10月上旬に行われているみちのく千厩赤ちゃん相撲大会

地域とのつながりをさらに深めるために必要なことはと考えていますが、みんなで取り組んでいく「横断的」の言葉になるほどと思いました。「消化」行事の見直しは必要な一方で、地域が誇れる行事を鮮明にして作り上げ、「これ」とわかるようにしたいですね。共有できるものをみんなで作り上げたいですね。

小野

一関を元気にしたいと考える若者が集う「未来塾」が特産のもちを全国に発信する「全国わんこもち大会」。今年は2月7日(日)に開催

協働を市民と行政でもっと共有し、協働の仕組みをどのように作り上げるか、行政の人たちと一緒に学びたいです。
地域のことでは、10年後の地域計画を作るような支援活動を、どこかをモデル地区として行っていきたいですね。自分たち自身が計画づくりを手がけることで、自分たちがこの地域に住んでいるという意識が芽生えてくると思います。「住民自治」が重要になってきます。

鈴木

宮沢賢治詩碑の建立に奮闘した東山町の青年たちを描いた音楽劇「たいしたもんだ」は脚本、曲、キャストともに市民によるもの

東山地域交流センターが開所したので、もっと若い人たちが出入りできるように、よりどころとなる施設になるように働きかけていきたいです。
この取り組みが、他のホールのある地域に飛び火すれば、いい連携になると思います。ホールの規模も違うので、ネットワーク化できれば、催しによって適したホールでのイベントを行えるはず。その第一歩の足元を固めたいですね。

佐藤

かつて養蚕が盛んだった市内には多くの遊休桑畑が存在。その桑を 資源にしようとする産業おこしが進んでいます

「桑王国岩手一関」を全国に発信する年にします。全国桑サミットを一関で開催したいと考えています。
「すぐやる、かならずやる、できるまでやる」という市長の言葉が好きなので、わたしもこれを実践していきます。自分が「コンダクター」を務めて、葉先から根っこまで使え、どの世代も携われる桑で地域をおこしていきます。

「はぐくむ、支える、つくる」で若者の地域への定着を支援

市長

本日のテーマは、幅広いものの、地域のことを考えると避けて通れません。正面からしっかり向き合い、みんなの力で若い人たちを地域に残し定着させたい。そのために自分たちが何をすればいいか、ヒントをたくさんいただきました。  
若者が地域に定着するためには、「はぐくむ、支える、つくる」▽はぐくむは地域の力で職業観を育てる▽支えるは地域の力で若者の就業を後押し▽つくるは地域の力で若者の働き方を生み出す―です。この三つがクリアできれば、地域の人口減少に歯止めがかかると思います。
皆さんのご活躍を期待します。本日はありがとうございました。

(広報いちのせき 平成22年1月1日号)