02 協力 本寺の農村を守るため 支え合う人たち

東京・国学院大の学生と地元の人たちによる稲刈りが10月16日、骨寺村荘園遺跡内の小区画水田で行われた。
農業農村を守るために支え合うその姿から見えたものとは?

人と自然が共生し、長い年月をかけてはぐくまれてきた本寺の農村景観は、全国的にもまれだ。

東京・国学院大文学部教授の吉田敏弘さんは大学院時代、骨寺絵図の論文をまとめるために2年間、本寺地区を調査した。
以来、30年以上にわたって本寺地区の小区画水田や曲線状の水路などの保全に関わってきた。
その特徴について▼中尊寺に残された絵図に描かれた史跡が今も姿をとどめている▼曲線状の農道、用水路や畦畔が残されている―ことを挙げ、「大区画の圃場(ほ じょう)整備が実施されなかったために現存する本寺の伝統的農村景観は全国的にも稀少」と語る。

一方で、「特筆すべきは(本寺の)制約された地形を生かした水田開発史を今に伝えていること。
景観保全を地区住民だけに任せず、行政や都市住民など、みんなで協力していかなければならない」と訴えてきた。

06年からは「都市住民が保全に協力できる方法を探りたい」と、荘園内の休耕田を国学院大の学習田に借りて、学生たちと農作業体験に汗を流している。

骨寺村荘園遺跡内の国学院大学習田で10月16日、恒例の稲刈りが行われた。

稲刈りには同大の学生、本寺小の児童、厳美中の生徒と地元農家ら約40人が参加。
農家の指導を受けながら、佐藤正人さん(75)の15アールと鈴木勇さん(59)の7アールで無農薬栽培された酒米の「亀の尾」6アール、「ひとめぼれ」8アール、「こがねもち」8アールを一株ずつ鎌で刈った。
刈り取った稲は「ほんにょ」に掛けて乾燥。
作業後はもちつきをして交流を深めた。

初めて参加した厳美中3年の佐藤光君は「足を取られて転びそうになった。早く収穫した米を食べたい」とにっこり。
2回目という本寺小3年の佐藤由奈さんは「稲を束ねるのが難しかったけど、刈るのは上手にできた」と満足そう。
国学院大大学院3年の鈴木修一郎さんは「今年で6年目。土とふれあい、人と出会うことで五感が磨かれている。食への感謝の心も持てるようになった」と言葉を弾ませた。

今回から、本寺地区だけでなく厳美町全体で重要文化的景観を保全していくため、「本寺地区小区画水田保存会」(佐藤正人会長)を設立。
中世の風景を地域全体で保全していく。
学習田を提供した佐藤正人さんは「重要文化的景観の選定は吉田教授抜きには語れない。恩返しのつもりで協力した。これからも学生たちとの親交を深めていきたい」と思いを込めた。

吉田教授は「厳美町全体で本寺の景観を守る趣旨に賛同してもらい、今回初めて厳美中の3年生らに協力してもらった。
本寺だけでなく照井堰(てるいぜき)や大江堰(おおえぜき)など磐井川流域の農業資産の研究を通して厳美町全体の景観を保全していきたい」と意欲を見せている。

*圃場…水田や農地のこと

保存会の会員から刈った稲の束ね方を教わる学生
(1)保存会の会員から刈った稲の束ね方を教わる学生

無農薬栽培された酒米の「亀の尾」。通常の稲より黒っぽいのが特徴
(2)無農薬栽培された酒米の「亀の尾」。通常の稲より黒っぽいのが特徴

稲は一株ずつ鎌で刈った。明治時代と同じ手法だ
(3)稲は一株ずつ鎌で刈った。明治時代と同じ手法だ

足を取られて転んだ厳美中の生徒。泥だらけになっても笑顔
(4)足を取られて転んだ厳美中の生徒。泥だらけになっても笑顔

みんなで食べる昼食は格別。会話も弾み、親交は深まる
(5)みんなで食べる昼食は格別。会話も弾み、親交は深まる

国学院大の学生、本寺小の児童、厳美中の生徒と地元農家ら約40人が参加。まさに地域を挙げての収穫となった
(6)国学院大の学生、本寺小の児童、厳美中の生徒と地元農家ら約40人が参加。
まさに地域を挙げての収穫となった

本寺から厳美全体の景観保全へ

吉田敏弘さん
吉田敏弘さん 国学院大文学部教授

92年から学生らと調査に訪れている。
本寺の小区画水田は、明治の地割りを残している。
一生懸命生きてきた人たちは、故郷への愛着や農業への思いが強い。
農村調査をしながら感じた。
日本の水田農業は圃場整備によって大規模化された。
一方で、品種、結いの精神、家族労働など古くから伝わる大切なものが失われている。
かつての農村の豊かさを取り戻してこそ、地域の文化ははぐくまれていく。
本寺の取り組みは景観行政の起爆剤。
本寺地区から厳美町全体へと、その輪を広げたい。

佐藤由奈さん 一関市立本寺小学校 佐藤由奈さん 3年

稲刈りは2回目。今日はお母さんと一緒に参加した。とても楽しかった。
田んぼの中は歩くのが大変だったけど、上手に刈ることができた。
来年も参加したい。自分で刈ったお米を食べてみたい。

佐藤光さん一関市立厳美中学校 佐藤光さん 3年

キャベツやトマトなど野菜の収穫を手伝ったことはあるが、稲刈りは初めて。
足を取られて転びそうになった。自分で収穫した米は格別だと思う。
学校では野球部の投手。将来は消防士になりたい。

鈴木修一郎さん国学院大大学院文学研究科史学専攻 鈴木修一郎さん 大学院3年

米づくりに関わって6年目。生産者によって同じ米でも味は違う。
本寺の人たちとの交流は自分にとって心の支え。
ここに来て、水の冷たさ、土の温かさを感じる人間になることができた。

(広報いちのせき 平成23年12月1日号)