山村の価値観を変えた 京津畑の「絆」

市の北端に元気で快適なコミュニティーがある。
わずか53 世帯、高齢化率45%の大東町京津畑集落だ。
高齢者の豊かなスキル、女性たちの機動力、若い世代のエネルギーを結集し、家族のような「愛と絆で夢をつなぐ」が京津畑の流儀。
集落の限界を「元快」へと変えた起死回生の突破口とは?

地域の総力を結集した食の文化祭

市の中心部から約40キロ。
奥州市江刺区と気仙郡住田町に接する大東町の北端に京津畑集落はある。
53世帯150人が暮らす山間の小規模集落で、高齢化率は45%に達している。

加速する過疎化への危機感から自治会を立ち上げたのは91年。
会長の菊池建さん(79)は「自分たちのことは自分たち守らなければ。そんな意識で(自治会を)立ち上げた」と思いを語る。
以来、自治会が中心となって食文化の伝承、環境保全活動や高齢者の除雪支援など、さまざまな活動に取り組んできた。

山里の食文化を発信する「京津畑まつり食の文化祭」は同自治会の代表的な活動の一つ。
旧京津畑小を再生した会場の京津畑交流館「山がっこ」には自慢の家庭料理、おやつや行事食など250点ものごちそうがずらりと並ぶ。
古里の味を求めて、市内外から大勢の来場者が訪れる。

地元の小学生からお年寄りまで、地域の総力を結集した一大イベントのモットーは「おもてなし」。
回を重ねるたびにリピーターが増えているほか、「地域づくりの手本に」と、その取り組みを学びに来る人も少なくない。

「過去は未来のみちしるべ」食を見直し元気を発信

食の文化祭をきっかけに02年、集落の女性たちが中心となって「京津畑郷土食研究会やまあい工房」(10年に法人化。現在は「農事組合法人京津畑やまあい工房」)を設立。
▼郷土食の製造・販売▼高齢者への弁当宅配▼贈答品の通信販売―などに取り組んでいる。

工房事務局の伊東靖子さん(53)は「年中無休です。
11人のスタッフが交代で製造、販売しています。
工房のほかに道の駅やスーパーなどにも出していて、いずれも販売は好調。
贈答品(漬け物や切り餅のギフト)の注文も増えています」とにっこり。
原料の8割は地元産。
安全・安心にこだわった「新鮮でうまい無添加の食」は、郷土食としてだけでなく、京津畑のPRにも一役買っている。

「食の文化祭」は、楽しくて、魅力いっぱいの祭りだ。
京津畑の食を求めて訪れる人はもちろん、迎える側の表情も輝いている。
京津畑に生きる喜びを感じているからだろう。

菊池会長は「京津畑は共助の地域づくりを進めている。『温故知新︱過去は未来のみちしるべ』を合言葉に、昔の食事、足元にある食を見直しながら元気を生み出していく祭りだ。震災は私たちに、大切なことを気付かせてくれた。その一つが絆。絆こそコミュニティーの原点。これからも大切にしていきたい」と人と人とのつながりを強調する。

自治会事務局長の伊東鉄郎さん(57)は「コミュニティー機能を高めるためには、活動の場や交流の機会を増やして住民の出番を多くすることが大事。一人一人に役割があればみんなが主役になれるし、みんなで責任を共有できる」と成功の秘訣を明かす。

京津畑には郷土愛がある。
協働の精神が息づいている。
強固な絆で結ばれた人たちが共鳴しあって理想のコミュニティーを築いている。
山がっこには、今日も元気な声が響きわたる。

京津畑の主な受賞歴

●京津畑自治会
第6回岩手県いきいき中山間賞知事賞(2000)/地域に根ざした食生活推進コンクール全国優秀賞(2001)/第1回むらの伝統文化顕彰農林水産大臣賞(2001)
●やまあい工房
農山村漁村女性チャレンジ活動優良賞(2006)/第18回食アメニティーコンテスト農村振興局長賞(2009)/一関地方いきいき実践活動部門賞(2011)

1山がっこのある京津畑集落。中川川沿いに広がる農村空間は日本の原風景 2スタッフの背中には「山がっこ」の文
3会場には京津畑の旬の味がずらり。写真は栗おこわ 4勇壮な踊りで会場をわかす丑石鹿踊り保存会
5会場には笑顔があふれる 6わずか150人の集落が千人以上で賑わった「食の文化祭」
7旧京津畑小学校を再利用した京津畑交流館「山がっこ」 8やまあい工房の人気メニュー
9フキを加工して漬け物を作る女性たち 1_ 山がっこのある京津畑集落。中川川沿いに広がる農村空間は日本の原風景/2_ スタッフの背中には「山がっこ」の文/3_ 会場には京津畑の旬の味がずらり。写真は栗おこわ/4_ 勇壮な踊りで会場をわかす丑石鹿踊り保存会/5_ 会場には笑顔があふれる/6_ わずか150人の集落が千人以上で賑わった「食の文化祭」/7_ 旧京津畑小学校を再利用した京津畑交流館「山がっこ」/8_ やまあい工房の人気メニュー/9_ フキを加工して漬け物を作る女性たち
農事組合法人京津畑やまあい工房 Yamaai Kobo

大東町中川字上ノ山59-2 tel0191-74-4888 懸田等代表理事

大東町京津畑集落の「食の文化祭」をきっかけに、集落の女性たちを中心に02 年にオープン。
40 代から80 代の11人のスタッフが、郷土の味を守り、発信するために年中無休で運営している。
地元産の食材にこだわったメニューは▲「げんべだ」「ぼたもち」などの昔おやつ▲手作り弁当▲仕出し▲餅▲漬け物―など60 品目。
工房で製造された商品は、道の駅やスーパーなどでも販売されている。
冬のオススメは漬け物とギフトセット。
工房は宿泊と食事を提供する京津畑交流館「山がっこ」内にあり、施設の運営も行っている。
同施設は06 年3月に閉校した京津畑小学校の校舎を再利用したもの。伊東鉄郎さん
集会施設だけでなく、グリーンツーリズム推進の拠点として期待されている。

INTERVIEW

伊東鉄郎さん Ito Tetsuro
京津畑自治会事務局長
57 歳 大東町中川

「食の文化祭」の目的は交流による地域活性化。
一つは自治会内の交流、もう一つはよそから来てくれる人との交流です。
高齢化が進み、フットワークよく活動することは難しいですが、知恵を集め、力を合わせて、京津畑に来てくれる皆さんと楽しく交流しながら元気を創り出したいです。

伊東靖子さん伊東靖子さん Ito Yasuko
農事組合法人京津畑やまあい工房事務局
53歳 大東町中川

82年に同じ大東町の渋民から京津畑に嫁ぎました。
皆さんから「よく来たなぁ」と言われ、地域を挙げて歓迎してもらいました。
皆さんすぐに受け入れてくれました。
地域の誰もが顔見知りで、一緒に頑張る京津畑は自慢の古里です。
京津畑に誇りを感じています。

いちのせきの広報誌「I-style」1月1日号