農家民宿で普段着のおもてなし

囲炉裏を囲んでいただく旬の田舎料理とうまい酒。
家族のようなもてなしで心身ともに満たされる晩餐(ばんさん)は言葉にならない。
素朴さ、やさしさ、あったかさ。
おもてなしの原点がここにある。

囲炉裏の周りには自然に人が集い、会話が弾む。
築百三十年の古民家に温かい物語が生まれる。

築130年の古民家

藤沢町の中心部から西へ車で5分。
小高い丘の上に農家民宿「観樂樓」がある。

日本の名工気仙大工が建てた築130年の古民家は、ケヤキの通し柱、十間(18メートル)もある梁、一枚板の鏡戸など、贅(ぜい)を尽くした屋敷である。

「山で木を切る。製材して建てる。当時は、全ての作業が人力で、近所の人たちが総出で協力してくれた。完成まで数年もかかったと聞いている」と静雄さん。

風格ある古民家は、木造2階建て330平方メートル。
周囲を山々に囲まれ、耳を澄ませば小鳥のさえずりも聞こえてくる。
民宿に隣接する私設庭園「フラワーガーデン観樂樓」には、約8千本の花木が咲き誇る。
晴れた日に、ここで食べる朝食は格別だ。

農家民宿の開業を決意

14年前、この地方を旅した東京の女性たちに、ボランティアで宿を提供した。
広さ17.5畳の奥座敷に通された女性たちは「広い、天井が高い。殿様になった気分」と大喜びした。

その前年、22年間勤めた会社が廃業。
本業の傍ら営んでいた農業だけでは食べていけないという思いの中、都会の人たちの喜ぶ姿を見て、農家民宿の開業を決意した。

早速一関保健所に相談した。
しかし、食品衛生法、消防法や建築基準法などさまざまな基準を満たさなければ開業できない現実を突きつけられた。

当時、一関・両磐地方には、静雄さんと同じように農家民宿を目指す人たちがいた。
だが、なかなか下りない許可を待ちきれず、いずれも途中で断念した。
静雄さんはたった一人で挑戦を続けた。

10年かけて夢を実現

農家民宿開業に向けた思いは日増しに強くなる。

静雄さんは、講習会に参加したり、インターネットで情報を集めたりして知識を深めた。
同時に、客室に火災報知器を取り付けたり、客用の洗面所や厨房を設置したりして少しずつ増改築を進めた。

県や町の観光担当者のところにも何度も足を運び、こうした取り組みをサポートしてくれる関係機関や団体を紹介してもらった。

やがて静雄さんは、グリーンツーリズムを推進する多くの人たちと出会う。
さまざまな情報や知識を得ながら、農家民宿開業の夢をたぐり寄せた。
 
06年3月にはグリーンツーリズムを推進する団体「とーばんふうどくらぶ」(現在NPO法人)を設立。
初代会長に就任し、地域資源を生かした地域活性化にも取り組み始めた。
こうして07年4月、10年間の努力は実り、ついに営業許可を取得した。

「焦らず気長にやってきたのがよかった。農家民宿はグリーンツーリズム推進にも一役買う取り組み。将来は、仲間を増やして、団体の受け入れもできるようになれば」と前を見る。

家族のようなもてなし

一関・両磐地方第1号の農家民宿は、古くから奥座敷に飾ってあった書にちなみ「観樂樓」と名付けられた。
07年5月の開業以来、県内外から多くの人が訪れている。

囲炉裏を囲んでの夕食は話も弾む。
メニューはすいとん、古代米ご飯、山菜のてんぷらなど10品以上。
近所に住む静雄さんの姉千葉泰子さんの手作りだ。

山菜採りや農業体験など、田舎を丸ごと体感できるメニューも充実。
さらに、古民家を舞台にコンサートなども開いている。

豊かな自然も、美しい農村風景も、旬の食材を使った田舎料理も、温かいもてなしも、全て普段着のまま、それが藤沢の日常だ。

ここには、一流ホテルや高級旅館のような都会的サービスはない。
だが、訪れた誰もが心から思う。「ここに来てよかった」と。
「観樂樓」に代表されるように、一関市には人をもてなす心がある。

1自宅感覚で過ごせる温かいもてなしと店主の粋な心遣いが医師やスタッフの心を癒やした 2周囲を山々に囲まれた観樂樓。絵画のように懐かしい里山の風景は訪れた人を和ませる
3気仙大工が数年の歳月をかけて建てた古民家は築130年。ケヤキを使った太さ45 ~ 60センチの通し柱や長さ18 メートルの梁などに圧倒される 4囲炉裏を囲み、うまいどぶろくで一杯やる至福のひととき
5客室には自慢の奥座敷を提供。広さ17.5 畳、天井高は3.7メートルもある。「観樂樓」の書は先祖から受け継ぐ家宝。直訳すると「見て楽しむ館」。宿名の由来にもなっている 6夕食は、地の食材を使った旬の田舎料理。10 品以上のおもてなしに、心もおなかも満たされる
1)震災後は被災地の医療を支援するために、全国各地から派遣された医師やスタッフの宿泊場所としても大きな役割を果たした。自宅感覚で過ごせる温かいもてなしと店主の粋な心遣いが医師やスタッフの心を癒やした/2)周囲を山々に囲まれた観樂樓。絵画のように懐かしい里山の風景は訪れた人を和ませる/3)気仙大工が数年の歳月をかけて建てた古民家は築130年。ケヤキを使った太さ45 ~ 60センチの通し柱や長さ18 メートルの梁などに圧倒される/4)囲炉裏を囲み、うまいどぶろくで一杯やる至福のひととき/5)客室には自慢の奥座敷を提供。広さ17.5 畳、天井高は3.7メートルもある。「観樂樓」の書は先祖から受け継ぐ家宝。直訳すると「見て楽しむ館」。宿名の由来にもなっている/6)夕食は、地の食材を使った旬の田舎料理。10 品以上のおもてなしに、心もおなかも満たされる

ほっとできる癒やしの宿、懐かしの故郷の宿

農家民宿 観樂樓
〒029-3405 岩手県一関市藤沢町藤沢字馬ノ舟82
tel/fax:0191-63-2009
E-Mail:sato2009@ruby.ocn.ne.jp
●開業:2007年5月
●定員:8人
●料金:1泊2食¥6,500、1泊朝食付き¥5,000、1泊食事なし¥4,000
●http://www17.ocn.ne.jp/˜kanraku/

いちのせきの広報誌「I-style」2月1日号