どぶろく造りは古里づくり 夢を紡ぎ、誇りを醸す

フラワーガーデン、農家民宿、そしてどぶろくと、古里の資源を生かし、時間をかけて夢を実現してきた静雄さん。
吟醸とは、吟味した原料を用い、丁寧に醸造すること。
人情にあふれる彼の人生そのものである。

笑顔と幸せは連鎖する

「みんなの喜ぶ顔が見たい」。静雄さんの元気の源だ。

相手の喜ぶ顔を見ると自分までうれしくなってしまうと笑う。
「ありがとう」と言われると、それだけで幸せな気持ちになれると瞳を輝かせる。
笑顔と幸せは伝染するものなのだ。

友人の藤澤誠さん(72)=藤沢町徳田=は静雄さんを「普段は純粋で温厚。でも、これが仕事になると人一倍努力する人。
そして、絶対に夢をあきらめない人」と言い切る。
「だから(静雄さんを)好きなんだ」とも。

夢や目標に向かって努力を重ねる人は、いくつになっても輝いている。

結果より過程を楽しむ

「農家民宿の開業には10年かかった。フラワーガーデンには40年、人生の半分以上を費やした。成功するかしないかわかない中で続けてこれたのは、結果より夢に向かって努力するプロセスを楽しんでこられたから」。
静雄さんの生き方だ。

種をまいて、芽が出る。
芽が出て育って花が咲く。
「その過程を楽しむことができると、結果も変わってくる」ときっぱり。

つまり、成功をイメージすると自信が持てる。
自信が持てるようになると心理的にリラックスできる。
リラックスできると楽しくポジティブに取り組める。
楽しくポジティブに取り組むとわくわく感が生まれ、ますますやる気になる。
ますますやる気になるから良い方向に事が進む。
だから静雄さんの挑戦は成功する、というわけだ。

どぶろくにかける夢

どぶろく造りは目的ではない。
地域活性化の手段だ。

フラワーガーデンや農家民宿同様に、グリーンツーリズムを推進するためのツールなのである。
手が掛かる分、量産はできない。
だが、仕込みが小さいからこそ、思いを込めることができる。
愛情を注ぎ込むことができる。

「あんちゃんのどぶろく」には、まっすぐな静雄さんの思いと深い愛情がろ過されずに凝縮されている。
白色は静雄さんの心。
豊かな風味とまろやかな口当たりは静雄さんの人柄。
深みと味わいは静雄さんの人生だ。
「自分で造った酒で訪れる人をもてなしたい。『うまい』と言ってもらえたらうれしい。囲炉裏を囲むどぶろくの輪が広がってコミュニティーが生まれ、グリーンツーリズムを動かす力になれば言うことないね」

出来たての四合瓶を手に笑った。

Interview 店主に聞く
 

みんなが喜ぶどぶろくを造って 笑顔が広がるグリーンツーリズムを進めたい

佐藤静雄さん
農家民宿「観樂樓」店主 佐藤静雄さん Sato Shizuo

農家民宿は苦節10 年の挑戦。
どぶろく造りは、民宿開業前から描いていた長年の夢。
特区制度ができた時から少しずつ準備を重ねてきた。

農家民宿の開業に向けては、食品衛生法、消防法、水質汚濁防止法、土地計画法など、とにかくハードルが多かった。
それに比べると今回は順調だったと思う。

何より、まず特区にならないことには始まらない。
当時、一関市との合併に向けて一番忙しかった時期にもかかわらず、私の話を聞いて、さまざまな手続きなどをしてくれた役場(藤沢支所)の皆さんに感謝したい。

「あんちゃんのどぶろく」のラベル製作には、大勢の人たちが関わっている。
その一人から「どぶろくの『く』の字が『人』に見える」と言われた。
後ろの輪は観樂樓の囲炉裏。
「囲炉裏を囲む人の輪が、外へ外へと広がってほしい」、そんな願いを込めた。
題字や似顔絵など、協力してくれた皆さんにも感謝している。

これまで私は、何をするにも人との交流を一番大事にしてきた。
震災後は、藤沢や千厩の雇用促進住宅に避難してきた人たちとも交流している。
皆さんに「ここに来てよかった」と言ってもらえたことがうれしかった。
震災は憎いが、出会いには感謝している。
これから交流する機会があるたびに、藤沢の米と水で造った藤沢産のどぶろくを飲ませてあげたい。

食の交流は文化の交流。
どぶろくが交流の橋渡しをできるようになればうれしい。
一関には、自慢できる特産品がたくさんある。
その中に「あんちゃんのどぶろく」も加えてもらえるよう頑張りたい。

座右の銘は「有言実行」。
誰かに言えば、やらなきゃいけなくなる。
自分にプレッシャーをかけることで頑張るエネルギーを生み出している。
今回も大いに夢を語った。
中には「県内初じゃないからメリットがないのでは」という意見もあった。
だが、メリットは自ら努力してつくり出すものだ。
誰かの後を追うわけではない。

個性を重視するどぶろくには、大きな可能性を感じている。
夢を実現するためには、挑戦し続けることが大事だ。
「したい、なりたい」から「する、なる」へ意識を変えることが一歩踏み出す勇気につながった。
迷ったり、つまづいたりしても、あきらめないこと。
あきらめない限り、夢が逃げることはない。前進する気持ちがあれば、きっと道は開ける。
道が開けば、必ず夢は実現できる。
みんなに愛されるどぶろくを造って、みんなの笑顔が広がるグリーンツーリズムを進めたい。

Profile

1943年藤沢町生まれ。農家民宿「観樂樓」店主。
99年町議初当選、合併まで3期、町民の目線から町政に関わった。
04年6月藤沢町まち・むら交流協議会副会長。
06年3月「とーばんふうどくらぶ」会長。
舞踊、三味線、陶芸など多趣味。一関市藤沢町在住。68歳。

静雄さんのどぶろく造りを指導した

中山繁喜さん
独立行政法人岩手県工業技術センター食品醸造技術部
上席専門研究員 中山繁喜さん

酒屋と違って小さな仕込みだから管理が大変。
仕込みや発酵中の温度管理が重要で、微妙な違いでも味や風味は変わってきます。
静雄さんは真面目で行動力があるので、経験を積めばきっと大丈夫。
情熱と使命感で必ず成功すると思います。
飲みやすい親しまれるどぶろくを期待しています。

静雄さんのどぶろくを提供する

菊地代志子さん
レストランClades店長 菊地代志子さん
60歳 千厩町千厩

ふうどくらぶの会合などで店を利用してもらっています。
純粋な静雄さんは少年のような心の持ち主。
いつも夢を持ち、実現させてきた生き方に共感しています。
お客さんも「あんちゃんのどぶろく」が出るのを首を長くして待っています。
静雄さんが造ったものだから自信を持って提供できます。

静雄さんのどぶろくを提供する

古川孝さん
スナックエルシド店主 古川孝さん
60歳 千厩町奥玉

2006年の開店以来、お付き合いしています。
静雄さんはいつも挑戦している人で、夢を語っている時が一番生き生きしています。
謙虚で前向きな人柄が好きで、ぜひ協力(店で提供)したいと思いました。
人情あふれる温かい静雄さんが造ったどぶろくです。
地元の酒として多くの人に飲んでほしいです。

静雄さんのどぶろくをこよなく愛する

藤澤誠さん
静雄さんの友人 藤澤誠さん
72歳 藤沢町徳田

移住者の私を温かく迎えてくれた静雄さん。
10年以上の付き合いです。
彼は常に正直で謙虚、そして努力家です。
人情にあふれる静雄さんが愛情を注ぎ込んで造ったどぶろくだから絶対にうまいはず。
グリーンツーリズム推進のためにも頑張ってほしいです。
販売が始まったら一番に買いに行きます。

いちのせきの広報誌「I-style」2月1日号