医療の現場で起こる医師や看護師不足。
過酷な勤務状況が負のスパイラルを巻き起こす。
住民の暮らしと尊い命を守る医療を守るために
私たちは何ができるのか、どう行動すべきなのか。
地域医療を考える。

アサガオを育てる千厩小1年の左から渡邉柑生さん、佐藤風花さん、千葉優さん、阿部創太さん
アサガオを育てる千厩小1年の左から渡邉柑生さん、佐藤風花さん、千葉優さん、阿部創太さん

地域医療は私たちが守る 立ち上がった住民たち

医師不足や過酷な勤務状況など医療現場で起こる問題の数々
「できることから支援したい」立ち上がった地域住民
医療機関と住民が互いに信頼しあう地域医療のあるべき姿とは
常勤医師数の減少
診療科の休診

医師、看護師、後継者の不足や激務など地域医療の現場は今、さまざまな問題を抱えている。
県立病院も常勤医師が減少、診療科の休診などが余儀なくされている。
原因の一つは04年度に導入された新しい臨床研修制度。
これによって研修できる病院が増えたため、大学医局への入局者は減少、大学から病院への医師派遣も減ったのだ。

少子高齢化が進む本市。3人に1人が65歳以上だ。
人口減少が進む一方で、高齢者の割合は着実に増加している。

市内の医療機関の数は80、医師数は170人。
地域医療を守るためには、医療、保健、福祉関係者、地域住民など全ての人が、互いの実情を理解し合い、信頼関係を築くことが重要だ。
それぞれの立場から地域医療を守り、育むために、何ができるのかを考えることが第一歩だ。

古里の大切な病院を
この手で守りたい

県立千厩病院の常勤医師は9人、診療科目は14だ。
2000年まで18人いた勤務医は半数まで落ち込み、休診する診療科も出ている。

そんな中、「地域の病院をなくしたくない」と、多くの地域住民が立ち上がった。

今年、結成13年を迎える「千厩病院福祉ボランティア」(藤野宣子会長)をはじめ、現在、病院運営に5つのボランティア団体が関わっている。
▼受付自動機の操作の手伝い▼花壇の花植え▼病院が開く地域医療懇談会や出前講座の参加呼びかけ―など、自分たちの病院という気持ちで支えている。

09年1月19日に結成された「朝顔のたね―千厩病院を守り隊―」(遠藤育子会長)は、医師定着のための支援、安心安全な地域医療の確保を目的に一歩踏み込んだ活動を展開している。

その活動の一つが寸劇だ。
劇では、県立病院の医師の厳しい勤務状況を伝え、その負担を軽減するために▼健康管理を心掛ける▼かかりつけ医を持つ▼診療時間内に受診する▼医師に感謝の気持ちを伝える▼休日や夜間の受診は当番医を利用する―など、住民ができること、やるべきことを訴える。
「10年、20年後に入院施設がある病院がないと、どれだけ大変かをイメージするきっかけにしてほしい」と寸劇を担当する畠山とき子さん。
分かりやすく、コミカルな演技が好評で、各地から公演依頼が舞い込んでくる。

「まずは私たちが知ろう」を合言葉に、千厩病院や他地域の病院で研修を重ねた。
「知る」ことからスタートして3年、地域に伝えることで住民の意識が少しずつ変化していることを実感している。

遠藤会長は「医師を連れてくることはできなくても、医師が住みたい街、もっといたいと思ってもらう街をつくることはできる。地域医療の主役は住民。医療は住民のためにある。これからも千厩病院を守るために、自分たちにできることを続けていきたい」と医療の明日を考える。

12月7日、磐井病院のがん患者・家族サロン「こころば」を視察21月27日に開かれた一関地域区長会新年交賀会で寸劇を披露する朝顔のたねのメンバー
32月1日に千厩支所で開かれた県立千厩病院地域医療懇談会

1_2月7日、磐井病院のがん患者・家族サロン「こころば」を視察。同日は研修会も開催
2_1月27日に開かれた一関地域区長会新年交賀会で寸劇を披露する朝顔のたねのメンバー
3_2月1日に千厩支所で開かれた県立千厩病院地域医療懇談会

千厩病院福祉ボランティアの会
会長 藤野宣子さん

藤野宣子さん
平日は毎日交代で受付機や会計機の操作の手伝いをしています。
利用者の「ありがとう」に励まされ、今年で13年目。
入院患者と折り紙を折ったり、歌ったりして触れ合うことも。
昼間に活動することで夜、ぐっすり眠むれると評判です。
いつも笑顔を心掛けています。
通院の不安を少しでも取り除き、これからも私たちの病院を支えていきたいです。

花めぐり勝手に応援する会
会長 橋本京子さん

橋本京子さん
千厩は花壇づくりに力を入れている人が多く、街中を花が彩っています。
それを広く知ってもらったり、応援したりする活動をしています。
病院の中庭花壇に花を植えて5年。
夏と秋に植え換えています。
利用者や看護師さんたちに「きれい。見るのが楽しみ」と声を掛けられるたびに、やりがいを感じています。
皆さんに季節を感じてもらえればうれしいです。

千厩町清田13区
千田信子さん、千田ていこさん他

千田信子さん、千田ていこさん
花壇に植える花苗の提供を始めて5年。
毎年、提供する約400の花々が病院の玄関を彩ります。
花壇の手入れをしてくれるボランティアの人が増えてきました。
これからもみんなできれいな花を咲かせたいです。
手を掛ければ病院はますます輝くはず。
見る人の心を和ませる、そんな手伝いができればいいと思います。

退職者の会
会長 金野透さん

金野透さん
医療に従事したからには役割を果たす義務があります。
戦後の大変な時代に夢中になって働いた経験を伝え、守るように側面から協力したいです。
地元住民みんなが願ってつくられた病院だからこそ、過去を見ながら将来がどうあるべきか考えていかなければいけません。
互いの交流を通して助け合いましょう。

岩手県立千厩病院
吉田徹院長

吉田徹院長
地域住民と今までは診察室でしか話す機会がありませんでした。
多くのボランティアが加わったことで、距離が近くなり、お互いの気持ちのやりとりがスムーズにできます。
一緒に地域の健康を守っていく気持ちを持てば、必要な行動が見えてきます。

千厩地域では、互いに啓発し合う関係づくりが良い方向に回り始めているのではないでしょうか。
関心を持って、積極的にアプローチをしてくれるボランティアのみなさんに感謝です。
もっと、病院と地域とが一体となった、いい医療圏にしていきたいです。

岩手県立千厩病院
小松道子総看護師長

小松道子総看護師長
千厩病院には、ボランティアの皆さんによってたくさんの花が植えられています。
他の病院から応援に来てくださった医師が「きれいにしてある、癒やされる」と言ってくれました。
明るく迎えられることはとても大事なことですね。

病院に対する意見は、ボランティアの皆さんが吸い上げてその都度、話してくれます。
病院の現状を地域にも伝えてくれています。
ボランティアの皆さんを通じてリアルタイムな意見交換ができるようになりました。
皆さん、前向きな意見をくれます。

岩手県立千厩病院
岩手県立千厩病院
〒029-0803 岩手県一関市千厩町千厩字草井沢32-1
■診療科目 内科・総合診療科、消化器科、循環器科、小児科、外科、整形外科、脳神経外科、ひ尿器科、婦人科、耳鼻いんこう科、神経内科、呼吸器科、皮膚科、麻酔科
■病床数 164床(うち感染病床4床)
TEL0191-53-2101/FAX0191-52-3478
http://www.senmaya-hospital.jp/

広報いちのせき「I-style」7月1日号