つかめ天職

目指すは「命」を守る
スペシャリスト

室根の静かな里山から、
救急現場に駆けつける救命の担い手が誕生する

7救急現場シミュレーション実習

教育の場から
救急救命士育成の聖地へ

残暑厳しい9月初旬、吹き抜ける風はどこか秋の気配を感じる。
青い空と緑の山々に囲まれた室根町矢越の静かな里山に、ひときわ映える白亜の校舎がある。
「国際医療福祉専門学校一関校」(立岡伸章(たちおかのぶあき)救急救命学科長、学生56人)だ。
キャンパスに響く教官の声と学生たちの機敏な動きに、気持ちが引き締まる。

同校は、09年3月に閉校した旧市立釘子小学校の校舎を再利用し、11年4月に開校した救急救命士養成専門校だ。
学校法人阿弥陀寺(あみだじ)教育学園(本部千葉県)が運営。
医師の指示の下、気管挿管や薬剤投与などの救急救命処置を施す救急救命士を目指す人材を2年課程で育成する。
卒業すれば、国家資格である救急救命士の受験資格を取得できる厚生労働省の認可を受けた指定養成機関だ。

現在1年生27人(男22、女5)、2年生29人(男25、女4)、合わせて56人の学生が救急救命士を目指し、日々勉強に励んでいる。
一関校のほかに千葉校と七尾校(石川県)にも救急救命学科がある。

尊い命を救う
救急医療のスタートライン

人命を守る救急救命士には、冷静な判断力と高度な救急救命処置が求められる。

同校で学ぶ学生たちは、事故や災害現場の最前線で尊い命を救うために必要な救急の精神、専門的な医学知識、高度な救急救命技能を勉強している。
学科は少人数制で、(1)卒業後の救急救命士国家試験合格までを完全サポートする「合格保証制度」(2)地方公務員試験対策で実績のある教育提携校とのタイアップ(3)社会人としてのマナー教育やコミュニケーションスキルアップ講座の導入(4)消防・救急の第一線で活躍する外部講師の講義―など、きめ細かい指導と実践的なカリキュラムが特徴だ。

まっすぐ目標に向かう
学生たちの姿勢

9月13日、同校を取材した。

2年生の午前の講義は小論文。
受験を控え、余念がない。

立岡学科長から試験の傾向と対策などの説明を受けた後、実際に小論文を書く学生たち。
制限時間内に与えられたテーマを仕上げていく。
音のない空間に、ペンを走らせる音だけが響く。

一方、1年生は体育館で救急現場のシミュレーション実習(リアルに再現した現場で行う実践的訓練)だ。
隊を組んで現場に臨み、本番さながらに心肺蘇生などの処置を行う。
資器材一式を携えて立つ姿、機敏な動き、きびきびした発声など、早くもスペシャリストの風格が漂う。
頼もしく見えた。

昼休み返上で訓練に励む姿があった。
市内川崎町で開かれる「応急手当てコンテスト」に出場するためだという。

同コンテストは、4人一組で行う災害想定応急手当ての競技。
メンバー同士、声を掛け合いながら手当てする表情は真剣そのもの。

村上大樹(ひろき)さん(1年)は「実習訓練はさまざまな状況を想定して行います。臨機応変に的確な処置が求められるので、技術と知識をしっかり磨きあげていきたい」とりりしい。
人命救助のプライドが伝わってくる。

来春いよいよ一期生が卒業
挑戦は加速する

来年3月、いよいよ一期生が卒業する。
それぞれの夢を実現するために、受験への挑戦は始まっている。

万全の対策を講じてきた立岡学科長。
「一期生なので、それなりの実績を期待している。頑張って、ぜひとも救急救命士になってほしい」とエールを送る。

救急救命の知識や技術だけでなく、社会人としてのマナーやコミュニケーションを重視する同校は、地域や学校の行事などに積極的に参加して住民との交流を深めている。
また、地域イベントの救護対応、救急救命講習や沿岸被災地のがれき撤去作業など、ボランティア活動にも参加して、住民の目線や視点を学ぶ。

渡辺麗(れい)さん(2年)は「この学校を選んでよかった。学校生活を通して目標もはっきりした。みんなに頼られる女性救急救命士を目指します」とまっすぐ前を見る。

傷病者は赤ちゃんから高齢者まで幅広い。
いつ、どこで、誰と、どんな状況でコミュニケーションするかわからない。

「一人の人間として、社会人として、相手の気持ちに寄り添える救急救命士や救急隊員になってほしい」

救急救命のスペシャリストである前に、立派な社会人であれ。
立岡学科長の願いだ。

1釘子小の校名2白亜の校舎3小論文講義

4応急手当てコンテストに向けた訓練5訓練で使用する除細動器と人口蘇生器6他動的に人工呼吸など行うバックバルブマスク

8心停止前後の急性期患者を想定したシミュレーション教育器材ALS(二次救命処置)シミュレーター
1_門柱には今なお懐かしい釘子小の校名
2_白亜の校舎が青い空に映える
3_小論文講義のひとコマ
4_応急手当てコンテストに向けた訓練
5_訓練で使用する除細動器と人口蘇生器
6_他動的に人工呼吸など行うバックバルブマスク
7_救急現場シミュレーション実習
8_心停止前後の急性期患者を想定したシミュレーション教育器材ALS(二次救命処置)シミュレーター

INTERVIEW

救いたい気持ちと恩返しの気持ちを大切にして活躍したい

村上大樹さんMurakami Hiroki
国際医療福祉専門学校一関校
19 1年 気仙沼市

村上大樹さん
中学生の頃、弟が交通事故に遭ったことをきっかけに、けがや病気で苦しんでいる人を救う仕事がしたいと思いました。
学校は自然に囲まれ、学ぶ環境は最高です。
救急救命士に必要な知識、技術や体力をしっかり身につけ、将来は消防士、そして救急救命士になって古里で働きたい。
震災のときに助けてくれた人たちや地域に恩返しする気持ちも込めて頑張っています。

女性だからできることも大切にした救急救命士を目指して

渡辺麗さんWatanabe Rei
国際医療福祉専門学校一関校
19 2年 奥州市
渡辺麗さん
医療に従事する仕事に興味がありました。
学校説明会で救命士の活躍に感銘し進学することを決めました。
女性救命士はまだ少ないので、私も救命士になって女性も活躍できる職業であることを一層広められるよう一生懸命勉強しています。
学校説明会や見学会は頻繁に開いているので気軽に来て、救命士の仕事を体験したり考えたりしてほしいです。
お待ちしています。

地域の空き校舎が再び活用されたことはありがたいことです

新沼一郎さんNinuma Ichiro
67 室根町第15区自治会長

釘子小学校が閉校したときは寂しさを感じました。
専門学校として再活用されて人の息吹が感じられるようになった今はどこか安心します。
ありがたいことです。
学生たちには、自然豊かな環境の中で一生懸命勉学に励み、社会人として大いに活躍することを期待しています。
10月下旬に開かれる学園祭などで、専門学校と地域住民の交流も深めていきたいと思います。 

一関市で学んだ経験を生かし、さまざまな現場で活躍を 

藤野真進さんFujino Masayuki
26 一関西消防署
藤野真進さん
学生と一緒にボランティアに参加しています。
専門知識を持った人が増えることで、皆さんに安心してイベントを楽しんでもらえていると感じます。
救急活動は地域社会と共にあります。
また、学校で学んだスキルは命に携わるさまざまな現場で必要とされています。
一関市で過ごす日々や地域住民との関わりを大切に、卒業後は各分野で活躍してほしいです。

広報いちのせき「I-style」10月1日号