幸せを実感できる料理を提供したい
食の力を伝える岩手の名工 

原田良一さん
食育活動を通して「食の力」を伝えるシェフ
原田良一さん 59歳 千厩町千厩

千厩町で「レストランあさひや」を経営する原田良一さん。
岩手県卓越技能者(岩手の名工)として認められた料理人だ。
オーナーシェフとして腕を振るう一方、食育支援や被災地の復興支援などにも取り組んでいる。

シェフだが根っからの体育会系。
少年時代は、小学4年から始めた柔道にどっぷり浸かり、将来は体育教師になろうと考えていた。
ところが高3の時、転機は訪れた。
たまたまテレビで見たフランス料理のシェフにハートを射抜かれた。
「自分も」と、料理の道で生きることを決めた。

卒業と同時に上京。
有名レストランで9年間修業した。
77年に帰郷、両親が営む「あさひや食堂」をリニューアルし、翌78年、洋食と本格フランス料理の店「レストランあさひや」をオープンした。

「フランス料理の魅力を広く伝えたい」と料理教室を開いた。
受講者から子や孫の話を聞くうちに子供の食べ残しや食物アレルギーの問題に関心を持った。
「食べ残し」は店でも見かけた。
「自分にできることはないか」良一さんは食育活動を始める。
以来、学校や地域に出向き、食育を教え、料理を普及してきた。

服部幸應氏や三國清三氏ら料理界の重鎮が呼びかけ人となって10月22日から全国展開されたフランス発祥の味覚教育イベント「味覚の一週間」には県内で唯一参加。
奥玉小学校(佐藤悦子校長、児童119人)の3、5年生を対象に「味覚の授業」を開いた。

授業では甘味、苦味、酸味、塩味の4つの味覚と日本ならではの繊細な味覚「うま味」についてレクチャーしたほか、クレープづくりなどを通して料理の楽しさを教えた。
「飽食の時代、うま味に対する味覚が失われつつある」と心を痛める原田さん。
「うま味は、古くから伝わる日本独自の食文化。そういう大切なことを伝えていきたい」と力を込める。

被災地支援にも積極的だ。
「自分にできる一番の支援はもちろん料理」と市内の仮設住宅へ出向いたり、被災地の人たちを店に招いたりして自慢の料理を提供。
チャリティーイベントなどにも積極的に参加している。

柔道の基本理念「自他共栄」が信念だ。
「全ての物事は相手と共にある。食育も、被災地支援も、相手を思いやる心が何より大事」ときっぱり。

こだわりは、幸福の一皿。

「幸せを実感できる料理で食の力を伝えたい」

還暦を目の前にしてもなお、食への愛と料理への情熱は冷めない。

「味覚の授業」
奥玉小学校で10月22日に開かれた「味覚の授業」。
砂糖、塩などを使って5つの味覚に触れる体験学習が行われた。
子供たちは「鼻をつまんで食べる」など、五感を使った食事を通しておいしく食べることを体験した。

Profile

1953年生まれ。
レストランあさひやオーナーシェフ。
2010年度岩手県卓越技能者(岩手の名工)。
岩手県調理師会東磐支部副会長、全国司厨士協会岩手県本部理事、一関柔道協会会長など役職多数。
妻、長男と3人暮らし。
千厩町千厩在住、59歳。

広報いちのせき「I-style」12月1日号