心伝え、人つなぐ
もてなしの里

モノとコト、表裏一体のもてなしで
理想のコミュニティーを築く京津畑地区集落の限界を突破する取り組みとは?

「陸の孤島」
そんな地域だからこそ、団結力、助け合い、
結いの精神が欠かせない
手作りのまつり「食の文化祭」
たくさんの人に来てほしい
たくさんの人をもてなしたい

菊池建さん
1993年から大東地域京津畑自治会会長を務める。
生まれも育ちも京津畑。
妻と二人暮らし。80歳。

気象に応じた食文化

53世帯150人が暮らす大東町中川の京津畑集落は、46%が65歳以上という市内でも高齢化率の高い集落の一つです。
菊池建自治会長は「集落の四方3キロには民家がない陸の孤島ですよ」と言います。

かつては、薪炭業が盛んで、小麦や麦を作って食を賄ってきました。
米を栽培しても、山間特有の気候や地形から平地の収穫量には及びません。
そのため、京津畑では、昔から麺や粉物料理が多く食べられてきました。

「決して豊かな食生活とは言えませんが、手間暇掛けた料理、心を込めて作られた料理が多いことも特徴です」と菊池会長。

そんな家庭料理を持ち寄って、みんなで食べたり、飲んだりしながら楽しい時間を過ごそうと始まったのが「京津畑まつり 食の文化祭」。
マスコミや口コミによる宣伝効果もあって、今では千人もの人が訪れる京津畑最大のイベントになりました。

安らぎの時間を提供

「初めは、人前に出すような料理じゃないからと照れる人もいましたが、食べて〝おいしい〝と喜ばれると、自信が沸いてくるんですね。京津畑の食を伝えたい、見てもらいたい、食べてもらいたい、そんな純粋な気持ちで出しています」と伊東幸子さん(47)。
子供からお年寄りまで、それぞれが持ち寄ったアイデア料理はなんと220点。
バラエティーに富んだ料理の数々は、いずれも家庭の食材を使って、昔ながらの方法で作られた京津畑の味。
地域自慢の食の祭典が始まります。

会場では、甘酒や果報団子が無料で振る舞われるほか、展示された料理を見たり、郷土芸能などを観賞したりできます。
祭りの目玉は「大試食会」。
来場者は一斉に展示コーナーに集まり、お目当ての料理に箸を伸ばします。
たちまち取り皿はいっぱいに。
「おいしい」「きれい」「すごい」など、言葉を出さずにはいられない感動の数々に、心もおなかも満たされます。

大東町沖田から仲間と参加した小山末雄さん(86)は「こんなにたくさん並んでいるのに、同じものは二つとない。しかもこの人出。きっと自分の地域ではまねできません」と驚いていました。
菊池会長は「山で暮らす先人たちの知恵を伝える場でもあり、飽食を見直すきっかけにもなっています」と胸を張ります。

心からのおもてなし

山間の京津畑集落。
地区民は通勤や買い物で市街地へ行きますが、よそから集落へ来る人は、そう多くはありません。

「こんな所まで、わざわざ来てくれることがうれしい。そういう人たちを大事にしたい。だからできる限りのおもてなしで迎えたいのです」

そんな中、集落の女性たちが中心となって02年、「京津畑郷土食研究会やまあい工房」(10年に法人化。現在は「農事組合法人京津畑やまあい工房」)を設立。
ここでは▼郷土食の製造・販売▼高齢者への弁当宅配▼贈答品の通信販売―などに取り組んでいます。
地元産にこだわった安全・安心・新鮮で無添加の商品は約60品目。
いずれも、食の文化祭から生まれた京津畑の味です。
工房のほかにも、道の駅やスーパーなどで販売されていて、「並べれば完売」の人気商品です。

京津畑の人たちを見ていると、おもてなしの「モノ」と「コト」は、人の心を表しているように感じます。
つまり、心を相手に伝える手段が「おもてなし」ではないでしょうか。
こちらの「モノ」や「コト」に相手が反応してくれれば、互いにうれしくなります。
温かい気持ちになります。
幸せな気持ちになります。
距離が縮まって、信頼関係が芽生えます。
「また来たい」「また会いたい」、そう思います。
地域全体でおもてなしが具現化されている祭り、それが「京津畑まつり 食の文化祭」。
これが毎年、千人以上の人を集客する祭りの正体です。

京津畑は、おもてなしの心があふれています。
強い絆で結ばれた人たちが共鳴しあって理想のコミュニティーを築いています。
ここには、冬でも笑顔が咲いています。

1果報団子を振る舞うかっぽう着姿のお母さんたち2昔ながらの正月料理
3大試食会では料理をおいしそうに頬張り、会場は談笑の声でいっぱいに4会場周辺に設置されたのぼり旗
5陸前高田市の氷山太鼓による迫力ある舞台発表6展示コーナーで箸を伸ばす来場者
7やまあい工房の人気メニュー
1)果報団子を振る舞うかっぽう着姿のお母さんたち
2)展示された京津畑の食。写真は昔ながらの正月料理
3)大試食会では料理をおいしそうに頬張り、会場は談笑の声でいっぱいに
4)会場周辺に設置されたのぼり旗。来場者を歓迎した
5)陸前高田市の氷山太鼓による迫力ある舞台発表
6)展示コーナーで箸を伸ばす来場者
7)やまあい工房の人気メニュー

農事組合法人「京津畑やまあい工房」

農事組合法人「京津畑やまあい工房」〒029-0601
岩手県一関市大東町中川字上ノ山59-2
TEL・FAX:0191-74-4888
年中無休
施設は06年3月に閉校した京津畑小学校の校舎を再利用したもの。
宿泊と食事を提供する京津畑交流館「山がっこ」内にあり、施設の運営も行っている。
グリーンツーリズム推進の拠点としても期待されている。

広報いちのせき「I-style」12月1日号