地域医療はみんなで支える
まずは知ることから再スタート

1朝顔のたね名物のおトキ婆さんが気を付けることを参加者と一緒に読み上げた

1月で結成3周年を迎えた「朝顔のたね―千厩病院を守り隊―」(遠藤育子会長、会員40人)は、県立千厩病院の医師不足や診療科減に危機感を抱いた地域の有志が2010年に立ち上げた。
「自分たちができることからやっていこう」を合言葉に活動。
講演会を開いたり、医師へ昼食を提供したり、その活動は多岐にわたる。

2月2日、千厩町のマリアージュ内ル・アンジュで「『病院はおらほのまちの宝』~病院を守ることは地域を守ること~」と題して開かれた朝顔のたね結成3周年記念は、いま一度、医療の現状に理解を深め、再スタートする節目として開催。
医療関係者や一般市民など140人以上が参加した。

あいさつに立った遠藤会長は「支え合う絆を大切に、私たちにできることをしてきました。明日の住みよいまちづくりとやすらぎの里づくりにつながりますように」と述べ、勝部修市長は「病院と地域の良好な関係を住民がつくることが地域の力を育てます。病院を守ることは地域を守ること。全ての年代と交流しながら活動を広めてほしいです」と期待を込めた。

医師確保、病床数確保、夜間二次救急体制、在宅医療など地域医療の課題は山積している。
まずは、住民一人一人が医療現場の実態をよく理解して病院を正しく利用する。
つまり医師の負担軽減に結びつく行動が求められる。

時代と共に医療も変化している。
従来の「治す医療」から「支える医療・介護」へとシフトしている。

県立千厩病院の吉田徹院長は「治し、支える医療に向かって。地域とともに歩む千厩病院の現状とこれから」と題して、地域医療の現状に触れながら講演した。

高齢化が進み、15~64歳の生産世代が75歳以上の後期高齢者を支える状況は年々厳しさを増しているという。
1950年は50人で1人を支えた。
しかし、2010年は5人で1人を支えている。
これが30年には3人で1人と推計されており、「みこしを担いだ状態から騎馬戦へ。今後、肩車状態になります」と例える。
さらに、60年の高齢化率は約40%。
このうち100歳以上は63万7千人で、現在の鳥取県の人口(約58万人)より多いというから驚きだ。
要介護者の増加も大きな課題。
病院や介護を必要とする高齢者が増え、それを支えるスタッフやサービスが追い付かなくなるという。

吉田院長は、千厩病院を例に挙げ、「01年に18人いた常勤医は半数の9人。医師数の減少に対し、救急搬送件数は年間約700件から約1100件へと増えています。独居老人の増加に比例して救急車の出動回数も増えているのです」と厳しい現状を説明する。

今後、日本の人口は減少に転じ、高齢化は加速する。

「受け入れ体制が変わらないのに、搬送される人が増えれば、とても対応できなくなります。それに近い事態は、すでに始まっています」と近い将来を懸念する。

かつては、一カ所の病院でさまざまな病気を治療することができた。
しかし近年、医師不足で診療科が減り、患者は複数の病院に行かなければならなくなっている。
今、複数の疾患を診察したり、治療したりできる「総合診療医」が必要とされている。
総合診療医は、医師不足に泣く地域のニーズに的確に対応できる医師。
病気を診るだけでなく、その人を見ることができる理想の医師である。

県立千厩病院は08年、「総合診療科」を開設。
3人の総合診療医師は、地域の要望や患者の願いにしっかり応える医療を実現している。
あの、東日本大震災では、刻々と変わる状況の中、的確で迅速に対応し、総合診療医の重要性を再認識する機会にもなった。

全ての病院が同じレベルの医療を提供することは不可能であり、それぞれの機能や持ち味を生かせる病院間の分担と連携が必要だ。

吉田院長は「機能分担によって医療資源を有効に活用することができます。市民の皆さんには、医療の現状と病院の果たすべき役割などを理解して利用していただきたいです」と呼びかける。

病院の役割は時代と共に変わっている。
治す医療から支える医療、支える介護の中で医療を考えていかなくてはいけない。
まずは、医療の現状について、地域全体で共通理解することが大事だ。

2朝顔のたねの遠藤育子会長
3小野寺伯子さん4小野寺美智子さん5千田美希さん6菊地優子さん
1_ 朝顔のたね名物のおトキ婆さんが気を付けることを参加者と一緒に読み上げた
2_ 朝顔のたねの遠藤育子会長
3,4,5,6_ 講演後に行われた住民発表。
㊨から小野寺伯子さん、小野寺美智子さん、千田美希さん、菊地優子さん

県立病院当直勤務医の勤務体制

安易な救急外来の利用は、医師を苦しめます。
緊急の時以外は診療時間内に受診しましょう。

17 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 10 9
残業
(入院患者や救急外来の対応で帰りは遅い…)
回診
手術
事務処理
回診 当直
(入院患者や救急外来の対応)
仮眠
手術
検査
回診
外来診療
 医療機関にはそれぞれ役割があります

医療機関はそれぞれの機能に応じて役割分担をしています。
患者となる私たちがそれを理解し、適切な医療機関を利用しなければいけません。
かかりつけ医を持ち、相談することも大切です。

  一次医療
(初期治療・健康管理)
二次医療
(入院・専門外来)
三次医療
(特殊・先進的医療)
治療
内容
▷日常の診察▷簡単な救急医療▷健康診断、健康相談▷一般的な入院医療 ▷専門的な検査や治療▷入院医療▷連携病床の確保 ▷高度な検査や治療▷先進医療▷専門的医療
主な
場所
医院、クリニック、診療所などのかかりつけ医 県立磐井病院、県立千厩病院、国保藤沢病院など 岩手医科大学附属病院、東北大学病院など

吉田徹さん
吉田徹 よしだ・とおる
県立千厩病院院長。
1984年自治医大医学部卒。
専門は消化器外科。
主に沿岸部の県立病院に22年勤務。
2012年4月、県立千厩病院院長に着任。
盛岡市出身。

知っていますか
入院用ベッドの「出口の渋滞」

救急受け入れの問題は、患者がスムーズに退院できるかどうかにかかっているということを知っていますか。

救急患者を受け入れる病院では、ある程度症状が安定した患者には次の施設に移ってもらい、命に関わる患者の入院用ベッドを空けておく必要があります。
常にベッドが満床だと、特別高度な医療を必要とする救急患者や新しい患者を受け入れられません。
退院がスムーズにいかないと、ベッドが満杯で、入院が必要な患者を最初から断らなくてはなりません。
救急患者の「たらい回し」はこういった出口の渋滞が原因といわれています。

いくら病状が安定したとはいえ、退院を迫られると、見放されたような気持ちになる人もいるかもしれません。
しかし、決してそうではないことを理解してください。
退院後の介護や福祉サービスの充実も救急医療を支える大きなポイントです。

医師がいてもベッドがなくては治療ができません。
出口の渋滞が救急患者の受け入れを難しくしていることは見逃せない現実です。

広報いちのせき「I-Style」 平成25年3月1日号