学校統合、それは、少子高齢化が進む中で避けて通れない選択。
言い換えれば、地域の将来を考える機会でもあります。
地域コミュニティーの拠点でもある学校とそれを支える地域住民が一つになる日常を追いました。

第2章 地域と一つに

今回開校した3校は、いずれも地域コミュニティーの拠点。
運動会や体験学習などを通して児童、保護者、お年寄りが世代を超えた交流を繰り広げています。
学校と地域の結束は固く、強い絆で結ばれています。

学びの場は学校だけではありません。
子供たちは、地域に伝わる文化、風習、行事などの担い手でもあり、川崎小の「布佐神楽」に代表されるように、伝統芸能を継承する児童もいます。
地元保存会との連携は、世代間交流の推進にもつながり、それが地域コミュニティー再生の糸口になることもあります。

東日本大震災では、多くの被災者が学校に身を寄せました。学校は身近な避難所として住民のよりどころになっています。
しかし、運営に奔走するのは教職員。児童・生徒の避難、安全確保、家族との連絡、さらには救護など、限られた教職員だけでは手が回らないのが現実。
市内では、震災の教訓を生かして、学校と住民が連携しながら有事に備える地域もあります。

開校は、地域を見つめ直す機会でもあります。今こそ、学校と地域が一つになって知恵を絞り、古里の未来を考えていきましょう。

厳美小学校

学校と地域が一つになって美しい景観を守る
厳美小学校は厳美渓畔の清掃活動に取り組んでいる 名勝天然記念物「厳美渓」

 

年間70万人以上が訪れる国の名勝天然記念物「厳美渓」。このそばに厳美小学校があります。

同校は「厳美をきれいにする会」(藤原孝夫会長)と共に、厳美渓畔の清掃活動に取り組んでいます。
清掃活動は、同会を中心に30年以上も続けられている地元の恒例行事。春と秋の2回行われています。

5月2日に行われた清掃活動には、児童、教職員、保護者や同会の会員など約180人が参加。児童たちは、たばこの吸い殻や紙くずなどを拾い集め、分別して袋に入れました。
真剣に作業する児童に、訪れた観光客らは感心した様子。「頑張ってね」などと励ましの声をかけていました。

佐藤智希(ともき)君(4年)は「きれいになりました。観光客の皆さんに喜んでもらいたい」とにっこり。
目時校長は「清掃活動で地域に貢献していることが児童の自信につながっています。観光客の皆さんにも児童から積極的にあいさつできるようになりました」と目を細めます。
藤原会長は「地域で取り組む活動に子供たちが参加してくれると盛り上がります。清掃活動を通じて厳美の素晴らしさに気付き、自分たちの古里に誇りを持ってほしいです」と話していました。

厳美をきれいにする会会長 藤原孝夫さん

藤原孝夫さん

厳美小学校のすぐ近くにある国の名勝天然記念物「厳美渓」は本市を代表する観光地です。
厳美をきれいにする会が中心になって行う厳美渓畔清掃活動は、30年以上続けられています。
学校と地域が協力して厳美渓の美しい景観を守っています。

大東小学校

旧摺沢小時代から続く世代をつなぐ田植え
大東小の田植え行事 統合で一つになった5年生

 

初夏の青空が広がった5月28日、大東町上堺ノ沢の田んぼで、大東小の「田植え行事」が行われました。
旧摺沢小から引き継いだ4アールの実習田には、児童の笑顔が広がり、笑い声がこだましました。

午前10時から行われた田植えには、統合で一つになった5年生39人、教職員、地域住民など50人が参加。
児童は、大人に教わりながら一株一株丁寧に手植えしました。
初めは、泥の感触にはしゃぎ、足をとられて尻もちをつく児童もいましたが、慣れてくると競争に。作業はわずか1時間ほどで終了しました。

田んぼを提供した千葉與三郎さんは「毎年楽しみにしています。子供たちのためにも、地域のためにも、ずっと続けていきたい」とにっこり。
初めて田植えを経験した小野寺莉央(りお)さんは「最初は難しかったけど、上手に植えることができました。今から秋の収穫が楽しみです」と日焼けした顔に白い歯を見せました。

「農業を肌で感じてほしい」と旧摺沢小時代から始まった田植えは今年で4年目。堺ノ沢農業組合とJAいわい東の協力で継続しています。

戸田校長は「学校は地域のシンボル。各地区の皆さんと一緒に、3校の特徴を生かしたさまざまな活動をしていきたい」と話しています。

田んぼの所有者 千葉與三郎さん

千葉與三郎さん

大東小学校の5年生39人による田植え行事の様子。
昔ながらの手植え作業に子供たちは大はしゃぎ。
4年目を迎えるこの行事は、田んぼの所有者である千葉與三郎さん、堺ノ沢農業組合とJAいわい東の協力で継続しています。

川崎小学校

受け継がれる郷土の「舞」開校初の運動会で披露
運動会で伝統芸能「布佐神楽」を舞う 保存会の人たちが演奏する

 

川崎小の5、6年生94人は5月18日、開校後初の運動会で伝統芸能「布佐神楽」を舞いました。

川崎町門崎の布佐地区に伝わる同神楽は、150年の歴史を誇る伝統芸能。伝承活動に取り組む旧門崎小の「目玉」でした。

この誇り高き郷土芸能を受け継ぐことにした同校は、初の運動会で披露することを決め、本番前の10日間、布佐神楽保存会(千葉仁一会長)の会員を講師に稽古を重ねました。

数が足りない神楽衣装は、学校や保存会だけでなく、保護者や地域住民も協力して準備。伝統芸能の担い手である子供たちを地域全体で支え、応援しました。

本番は、保存会の人たちが演奏する太鼓や鉦(かね)の音に合わせ、94人が躍動感あふれる舞を披露。
保護者や地域の人たちから大きな拍手が送られました。

6年の遠藤小菜美(こなみ)さんは「本番が一番うまくできました。たくさんの人と一緒に踊れてうれしいです」と満足そう。
千葉会長は「短い練習期間だったけれども予想以上の出来栄えだった」と充実感をにじませました。
廣長校長は「保存会の皆さんの指導と、地域の皆さんの支えによって実現できました。ありがとうございます」と心から感謝しました。

布佐神楽保存会会長 千葉仁一さん

千葉仁一さん

統合後初の運動会で披露された「布佐神楽」。
創立150年目、岩手県指定無形民俗文化財に指定された伝統芸能は「布佐神楽保存会」が伝承、後継者育成に取り組んでいます。
地域唯一の川崎小学校への協力は惜しまないと話す千葉会長。来年以降も引き続き、児童の指導にあたります。 

 

広報いちのせき「I-Style」 平成25年6月15日号