身についた高度な仕上げ技能は厳しい指導があってこそ。

小野寺浩さん

日本建築仕上学会学会賞「技能賞」を受賞した小野寺浩さん(60)。
1969年に株式会社奈良屋(本社山目、小野寺正洋代表取締役、社員60人)に入社、以来今日まで44年間、タイル張り工として活躍してきた。
その腕前は誰もが認める「一流」。

同社は岩手県代表として技能五輪全国大会に15年連続で出場し、金賞7回をはじめ銀賞、銅賞、敢闘賞など毎年のように数多くの入賞を果たしてきた。

さらに、隔年開催の国際大会にも日本代表として4度出場するなど、世界に通用する「タイル張り技能士」を輩出しており、高い評価を受けている。
同大会に出場し、優秀な成績を収めた同社の若手技能士は、そろって「目標は浩さん」と答える。
小野寺社長も「会社に欠かせない大事な戦力」と絶対の信頼を寄せている。

浩さんの技能の特筆すべき点は、仕上げの面の精度と水準の高さ。
これは、卓越した技術に裏付けされた絶妙な調整能力によるもので、入社以来、全ての現場の施工記録を取り続けるなど、工夫を凝らし、努力を重ねた賜物だ。
現場では、下地の精度や下地調整の段取りをはじめ暗黙知であるタイル施工の機微を、身をもって中堅・若手職人に伝えており、浩さんの下で腕を上げた職人は数え切れない。

施工時の工程管理と差配(さはい)(段取り)も、大手ゼネコンや元請業者から評価されており、職長として、一関文化センター、岩手医大、岩手県立大、東北大など官公庁や学校をはじめ、マンションや商業建築物など数々の現場を指揮した。

同じものが二つとない建設現場は全てが単品生産だ。
どんな仕上げにするとか、この作業は誰を担当させるとか、さまざまなことを判断する能力が求められる。

貴重で高度な無形の技能とでも言ったらいいのだろうか。自ら体現することで、後輩にスキルやノウハウを伝えてきた。
「継承することも仕事の一つ」と言い切る。
さらに、「知識や技術以上に伝えたいことは時間の使い方。段取り一つで作業能率は変わる」とも。

日焼けした顔、中肉中背の鍛えられた肉体は、「還暦」とは思えない。道を究めた者だけが持つ、オーラがあふれ出ている。

「職人気質」を存分に漂わせる浩さん。
インタビュー中に時々見せる柔和な表情から「男のやさしさ」が伝わってくる。
厳しくも愛情の込もった指導で「プロのタイル職人」を育てている。
Profile

1953年生まれ。69年(株)奈良屋に入社。02 年から同盛岡営業所に勤務。現在は職長として現場を指揮。
適切な指示と効率的な作業で年間100件以上を施工するタイル貼りのプロフェッショナル。
千厩町清田在住、60歳

 広報いちのせき「I-Style」 平成25年7月15日号