海を愛する

津波にのまれた養殖場。 「負けてたまるか」 必ず宝の海を取り戻してみせる。

6養殖いかだから船に水揚げしたカキを、加工場の前につり下ろす 7養殖いかだが浮かぶ舞根湾

 

森に目を向けてみる。昔から身近なモノとして付き合い、受け継がれてきた「木の文化」に気付かされる。 

私たちの暮らしは木と共にあり、地域は森を育みながら発展してきた。
森林資源の活用と保全は、絶妙なバランスで維持され、自然と調和した美しい農山村がつくられてきた。
同時に、森がもたらす恵みに感謝して生きる自然愛護の心も育まれてきた。

何千年、何万年という人類の営みの中で、文明が発達し、科学が飛躍的な進歩を遂げたのは、たかだかここ一世紀ぐらいのこと。
何でも手に入るようになった今だからこそ、私たちは、自然とのつながりを見つめ直す必要があるのではないだろうか。

森の栄養が、海のカキを育てるという信念で始まった「森は海の恋人植樹祭」。
四半世紀の時を重ねた今、千人を超える人がひこばえの森に集うようになった。
「室根」と言えば、「森海ですね」という言葉が返ってくる。

第12区自治会の三浦会長は「古里の未来を担う子供たちが幼少期から、見て、触れて、感じて、考える機会を日常的に持てる環境が大事」と前を見る。

8きれいな「草色」が特徴の唐桑の海(舞根湾)。 1気仙沼市唐桑町の水山養殖場でカキの養殖を体験。
4カキの稚貝がびっしりついたホタテ殻 2挟み込んだロープをいかだにつるす
10水揚げされた手のひら大のカキ 9水揚げ後に殺菌処理されるホタテ 5新鮮なホタテを頬張る児童 3成長したカキを観察

1)室根西小5年生14 人は7月1日、気仙沼市唐桑町の水山養殖場でカキの養殖を体験。
   稚貝がびっしりついたホタテの殻をロープに挟み込む児童たち
2)挟み込んだロープをいかだにつるす
3)成長したカキを観察
4)カキの稚貝がびっしりついたホタテ殻
5)新鮮なホタテを頬張る児童
6)養殖いかだから船に水揚げしたカキを、加工場の前につり下ろす。かごの中は大きく成長したカキでいっぱい。加工場は活気に満ちている
7)養殖いかだが浮かぶ舞根湾
8)きれいな「草色」が特徴の唐桑の海(舞根湾)。植物プランクトンが豊富な証拠だ。
  森の腐葉土に含まれる養分は、雨水や雪解け水となって川に流れ、山から海へ届けられる
9)水揚げ後に殺菌処理されるホタテ
10)水揚げされた手のひら大のカキ

みんなの心に森をつくりたい つながって、結ばれて、宝の海は守られる

INTERVIEW 畠山重篤さん

畠山重篤さん

植樹を始めて25年。今年も1400人が参加するなど、森海は世界中の人が参加する植樹祭になった。
これも室根の皆さんのおかげ。そのパワーはすごい。12区自治会だけでなく近隣自治会が一緒に行動し、年々その輪は広がっている。

3.11で大きな被害を受けたが、何とか養殖業を再開できた。「負けてたまるか」と復活を誓った日から2年。感無量だ。

震災後にも関わらず、カキやホタテが豊かに育っているのは、植物プランクトンが豊富な証。
上流域の皆さんが環境にやさしい暮らしをしているから、植樹に協力してくれているからだ。室根の皆さんのやさしさに感謝している。いつか、恩返しをしたい。

いかだは8割程度まで回復した。海も元気を取り戻している。自然の回復力と生命力はすごい。

90年から室根の子供たちが唐桑を訪れ、海を学び、体験している。24年目だ。当時10歳だった子は現在35歳。立派な大人だ。歴史を感じる。

海の生物は、塩水だけでは育たない。川が運んでくる森の養分がなければ、生きられない。
「千年に一度」の大津波で建物や施設は破壊されたが、川や山の機能は失われていない。震災前と変わらずに、森の養分は海に届いている。
津波で海底が掻き回され、海が黒く濁ったのは有機物、つまり肥料分だ。植物プランクトンは、この森の養分で育つ。泥が沈み、水が透明になると、光合成を行って酸素をつくり出す生物の源だ。

四半世紀経った今、「森は海の恋人」という考え方と、その活動や運動の方向性は間違っていない、と確信できるようになった。
昨年は世界で8人、アジアで唯一の「フォレスト・ヒーロー」の称号もいただいた。森海の取り組みや考え方を世界に広めていきたい。

腐葉土に含まれる大切な成分を森から海へ届ける川が汚染されると、海は壊れていく。
油、化学洗剤やシャンプーなどを、ほんの少し控えただけで、豊かな海を守ることができる。

心に森を―

流域に暮らす全ての人の心に森をつくりたい。つながって、結ばれて、宝の海は守られる。それが「森は海の恋人」の本当の意味だ。

Profile

1943年中国上海生まれ。県立気仙沼水産高卒業後、家業の牡蠣養殖業を継ぐ。
海の環境を守るには、海に注ぐ川とその上流の森を守ることの大切さに気付き、「牡蠣の森を慕う会」を結成。
89年から「森は海の恋人運動」を行う。2009年NPO法人森は海の恋人を設立。その活動は、小・中・高校の教科書にも紹介された。
環境教育の一助として、全国の子供たちを養殖場に受け入れている。
03年緑化推進功労者内閣総理大臣表彰、04年宮沢賢治イーハトーブ賞、12年国連森林フォーラム(UNFF)「フォレスト・ヒーローズ」受賞。

 

 広報いちのせき「I-Style」 平成25年7月15日号