教訓と課題

台風や集中豪雨などの自然災害は止めることができない。
しかし、人災をなくし、被害を最小限に食い止めることはできる。
減災である。今回の豪雨では、何ができて、何ができなかったのか。
過去の教訓は明日の備えになる。

集中豪雨を侮るな

6月30日行われた水防訓練の様子
一関水辺プラザ(市内狐禅寺)で6月30日行われた水防訓練。
過去の災害の教訓を明日の備えにするため、毎年市が実施している。
今年は市内の自主防災組織からも多くの人が参加。水防団員らと一緒に積み土のう工法に挑戦した

 

東日本大震災の教訓で、地震や津波に対する市民の危機感は高まっている。
しかし、「雨」に危機感を感じてる人は、それほど多くないかもしれない。 

近年、大雨の発生が増えているのは、地球温暖化が影響しているといわれている。
その要因は、日常の暮らしの中で排出される二酸化炭素など温室効果ガスの増加によるものが大きい。

豪雨には「集中豪雨」と「ゲリラ豪雨」がある。
「集中豪雨」は梅雨前線や台風など、幅数十キロ~数百キロ規模の不安定な大気に発達した積乱雲が原因。
雲の内部で激しい上昇気流が発生し、強い雨を降らせたり、雷を伴った雨を降らせたりする。
規模が大きいことから、事前にある程度予測することができる。

一方、「ゲリラ豪雨」の半径は数キロ程度だ。1、2時間の短時間に局所的に降る。
原因の一つには都市化が挙げられ、ヒートアイランド現象になって、急激な上昇気流を発生させる場合も少なくない。

短時間に猛烈に降る集中豪雨は、驚くほど危険だ。
室根地域で時間雨量49ミリを観測した7月26日の豪雨は、28日まで断続的に降り続き、市内各地に大きな被害をもたらした。

過去の災害から学ぶ

本市の大雨洪水被害といえば、2002年の台風6号災害が記憶に新しい。

7月11日未明に房総半島に上陸した台風6号は、三陸沖を北上した後、北海道に再上陸し、オホーツク海上へと抜けた。
台風接近に伴う活発化した梅雨前線と強い雨雲の影響により、東海から東北地方の広い範囲で大雨となった。

岩手県で最も被害が大きかったのは本市の東山地域。
砂鉄川や支川の猿沢川が氾濫し、災害救助法が適用されるほどの大きな被害を受けた。

砂鉄川が北上川と合流する川崎地域は、北上川だけでなく地域を東西に流れる千厩川も増水。浸水被害や土砂災害が各所で発生した。
同様に北上川が流れる花泉と藤沢地域でも氾濫や冠水の被害が相次ぎ、孤立した住民を水防団員が救助用ボートなどで救出した。

岩手県は同年10月、砂鉄川流域の抜本的な治水対策を目指した災害対策関連事業(河川激甚災害対策特別緊急事業等)を採択。
国土交通省、岩手県、東山町、川崎村が連携して、猊鼻渓下流部から北上川合流部までの約12キロに堤防を整備した。

防災と減災

あれから11年。
砂鉄川流域の人たちは、整備した堤防に頼るだけでなく、自ら治水や水害に関する勉強会を開いたり、水防訓練を実施したりして、水害への意識を高めている。

豪雨で想定される災害は

  1. 河川の増水と氾濫
  2. 1_に伴う家屋などへの浸水
  3. がけ崩れなどの土砂災害 -などである。

災害発生時は

  1. 河川に近付かない
  2. 止水板を車庫入り口や玄関などに設置したり、土のうを積む
  3. がけ崩れなどが発生しやすい場所から避難する -など。

市は、過去の水害で得た知識と経験を教訓に、毎年、水防訓練を実施している。
今年は6月30日、市内狐禅寺の一関水辺プラザで行われ、消防関係者のほか、市内の自主防災組織も参加して、大規模な水害発生時の備えと行動を確認した。
市消防本部の吉田正弘防災課長は「災害発生時の的確な判断と冷静な行動は、日頃の訓練から生まれる。全ての人が防災意識を持ち続け、備えを強化してほしい」と呼び掛ける。

状況は絶えず変化する 常に身の回りの状況の確認を
吉田正弘 防災課長 市消防本部防災安全対策監兼防災課長

吉田正弘防災課長

7月26日からの豪雨は、02年の台風6号と比べると、わずかな時間に集中的に強い雨が降りました。
そのため、河川も短時間で増水しました。河川改修が進むなど、02年とは地形が変わっています。

自然災害は止められません。気候や環境の変化から、状況は絶えず変化しています。
普段から自分の地域や身の回りに関心を持ち、よく観察することが大事です。小さな変化に気付くことが防災の第一歩です。

災害が発生したら、避難を最優先に考えてください。
市は被害状況や避難所情報を防災行政無線やコミュニティFMを通じて発信します。
皆さんも情報が届くのを待つだけでなく、自分から情報を入手するようにしてください。
また、皆さんの情報も寄せてください。寄せられた情報が、尊い生命や大切な財産を守ることにつながります。

市は3月1日を「となりきんじょ防災の日」に制定しています。全世帯に配布した「わが家の防災力チェックノート」で、非常時の備えを確認してください。

早期復旧と恒久的、抜本的な対策を県に緊急要望

県に緊急要望

市は8月5日、一関地区合同庁舎で本年度の県に対する要望を行いました。

勝部修市長は一般要望に先立ち、遠藤達雄県県南振興局長に「平成25年7月26日からの大雨災害に関する緊急要望書」を手渡しました。

02年の台風6号による大雨洪水災害で被災し、復旧した場所が、今回の豪雨で再び被害を受けるなど、市内には豪雨の爪痕が残りました。
また、11年の歳月を経て、砂鉄川の川底は、土砂が堆積して高くなっています。

このようなことから市は、一時的な復旧ではなく、恒久的かつ抜本的な治水対策の必要があると判断。
激甚災害の指定、道路側溝に堆積した土砂の処分などと併せて県に対応を要望しました。 

 

 広報いちのせき「I-Style」 平成25年8月15日号