ケアチャレに見た 福祉の原点


リハビリテーション部門で、小澤ゆかり理学療法士(右から一人目)の施術を見学する
右から近江翔君(藤沢中1年)、佐藤正樹君(千厩高1年)、畠山塁君(一関一高1年)

50年後の日本の高齢化率は40%。
高齢者1人を現役世代が1人で支える肩車型の社会が到来する。
福祉を軸に未来を考える将来設計が急務だ。

50年後の日本は総人口の4割が高齢者

国立社会保障・人口問題研究所が公表した2010年の国勢調査に基づく将来推計(標準的な中位推計)によると、今の高校生が65歳以上の高齢期に入る50年後、日本の総人口は現在の約3分の2に落ち込み、高齢者人口が全体の約4割に達するという。

高齢者人口が増える一方で14歳以下の年少人口、15~64歳の現役世代の人口は、50年後にはほぼ半減する。
高齢者1人を現役世代がほぼ1人で支えるという社会が到来するのである。


2010年国勢調査に基づく将来推計によると、同年1億2,806万人だった日本の人口は48年に1億人を割り込み、60年に8,674万人まで減少すると予測されている
 

問われる社会保障制度 抜本改革が必要

現在の社会保障制度は、高度成長期の1960年代にベースができた。
当時は、現役世代が10人前後で高齢者1人を支える「胴上げ」型の社会だった。
現在は2.8人で支える「騎馬戦」型で、50年後は1.3人で支える「肩車」型になると見込まれている。

つまり、支える方も支えられる方も、極めて不安定な構図になりかねない。半世紀前の設計図は限界に達している。

人口は社会の活力と深く関わっており、このまま減少を続ければ、活力低下に大きな影響を与えかねない。
厳しい未来予測と向き合って、産業構造や地域社会のありようまで含めた、安心の将来設計が急務だ。

一関市も超高齢社会に突入 3人に1人が高齢者

本市の高齢化率は30.73%(24年10月1日現在)で超高齢社会を迎えている。

高齢者にやさしいまちは、子供や障がいのある人にとってもやさしいまちだ。
行き交う人が互いに言葉を掛け合い、笑顔を交わし合う。困った人を見掛けたら、自然に手を差し伸べる。
そんな誰もが暮らしやすいまちをつくるためには、医療・福祉の施設や仕組みの充実とそこで働く人材の育成が不可欠だ。

このような中で、医療や福祉の現場を体験することで、ケアの心を学ぶケアチャレンジは、将来の進路選択に役立ててもらうだけでなく、中高生に地域の現状を知ってもらう取り組みでもある。

祖父母など高齢者と同居している人も、核家族で同居していない人も、全員が高齢者を支えたり、いたわったりする優しい気持ちを学んだ。

参加者の中には将来、医療や福祉の道へ進学や就職を希望している人もいて、夢実現への意欲を高める機会にもなった。

閉講式で高木会長は「たくさんのことを経験した皆さんの表情はとても輝いています。ケアチャレンジで経験したことを、家族や友達に話してください。みんなで医療や福祉について話し合えるまちをつくりましょう」と述べ、一人一人に修了証を手渡した。

支えることを知った9人の表情は充実感にあふれ、やさしかった。

閉講式で高木史江会長から修了証を受け取る佐藤正樹君
閉講式で高木史江会長から修了証を受け取る佐藤正樹君(千厩高1年)。
「リハビリで患者さんが回復することを願ってます」と話していた

優しい気遣いや温かい心遣いで高齢者にやさしいまちを

高齢者疑似体験を指導した岩手県高齢者総合支援センター副センター長 玉山公一さん

玉山公一さん

高齢になると視力が低下します。見えにくいだけでなく、色の判別も難しくなります。
人は目から85%、耳から8%の情報を得るといわれています。それが少しでも低下すると不便さや大変さを感じるようになります。

色の判別が困難なお年寄りが信号機の前に立っている状況を想像してください。
赤信号なのに渡ろうとしていたら、迷わず「赤だよ」と声を掛けてあげてください。
気遣いや心遣いは、互いの関係を良くします。互いに気持よくなれます。

スーパーなどのレジの前で、お金を財布から取り出すことに苦労しているお年寄りを見掛けることがあります。
後ろで待つ人は「早くしてほしい」と思いますよね。でも、相手の立場に立って考えてください。
きっと、「待てる」気持ちや「許せる」気持ちが持てるようになります。

地域で一緒に生きていくためには、優しさや温かさが必要です。皆さん一人一人の思いやりや行動が、やさしいまちをつくります。
皆さんならきっとできるはずです。

Profile

1995年財団法人岩手県長寿社会振興財団(現公益財団法人いきいき岩手支援財団)に就職。
介護、認知症、福祉用具などの相談や研修の企画運営に携わる。
2013年岩手県高齢者総合支援センター副センター長に就任。
盛岡市在住、41歳

理学療法士の姿に感動しました
近江 翔君 おうみ・つばさ 藤沢中1年

近江 翔君

リハビリテーションの様子を見学しました。
患者さんに施術するだけではなく、患者さんが、自分からリハビリを頑張ろうという気持ちになるよう話しかける理学療法士さんの姿に感動しました。
自分も、お年寄りに優しくしようと思いました。

薬剤師の仕事は命に関わる重要な仕事
佐々木廣太君 ささき・こうた 千厩中2年

佐々木廣太君

薬剤師の仕事は、あまり人と関わらない仕事だと思っていました。
でも、実際は、人と関わり、命と関わる重要な仕事であることを知りました。
1,200種類以上の医薬を扱っていることにも驚きました。
将来は、医療関係の仕事に就きたいです。

看護師を目指す気持ちが強くなった
増川千穂さん ますかわ・ちほ 一関二高3年

増川千穂さん

看護師の仕事を体験したくて、ケアチャレンジに参加しました。
仕事の内容が想像以上に幅広くて驚きました。
大変な仕事ですが、とてもやりがいがあると思いました。
「看護師になりたい」という気持ちがさらに強くなりました。

誰もが暮らしやすいまちづくりに貢献したい
佐藤美奈子さん さとう・みなこ 千厩高3年

佐藤美奈子さん

高齢者疑似体験では、普段できることができなくて大変でした。
お年寄りに手を差し伸べ、支えていくとが大切だと学びました。
私は、福祉の大学に進学を希望しています。
将来は、福祉の仕事に就いて、誰もが暮らしやすいまちづくりに貢献したいです。 

 

 広報いちのせき「I-Style」 平成25年9月15日号