唯一無二
緑に囲まれた築130年の古民家がギャラリー
展示された作品は書、陶器、木工品、写真など約50点
稲作の無農薬栽培が縁で出会った5人のアーティストが
友情を形にしたブレないアート
5人のアーティストが生み出す上質空間 藤沢で「交友展」
広さ15畳の奥座敷で筆を走らせる恵利子さん。独自の世界観で無二の世界を切り開く。
太い梁や柱、高い天井、どっしりとした木のぬくもりなど、築130年の風格漂う古民家で暮らす藤沢町砂子田の菊地恵利子(えりこ)さん。
書家の菊地さんは9月14日から3日間、妹三千代さんと「交友展」を開き、自身と仲間の作品を展示した。
出品したのは菊地さんをはじめ、同町大籠の陶芸家北澤与志夫(よしお)さん、群馬県桐生市の造形美術家大澤義寛さんと写真家青木修(おさむ)さん、埼玉県神川町の木工作家牛膓公男(ごちょうきみお)さん。
07年、菊地さん方で始めた稲作の無農薬栽培が縁で出会った5人は偶然にも全員がアーティスト。
作品を持ち寄って交流を深めようと10年、田村町の「蔵のひろば」で初めて同展を開催。
地の縁、人の縁を大切にしながら、それぞれ歩んできた5つの物語は、「交友」をテーマに一関で、無二のハーモニーを奏でた。
3回目の今回は、5人の「出会いの場」となった菊地さん宅が会場。
古民家というアートな空間に、自然美を追求した5人の世界が広がった。
同町藤沢から訪れた千葉英利子さん(60)は、生活空間という「日常」と調和した「美」の共演に、「古民家は、とても懐かしい気持ちになります。安らぎと贅沢(ぜいたく)の両方を体感できるすてきな企画」と満足そう。
菊地さんは「自宅に展示したことで、地域の皆さんに見てもらえたことが一番うれしい。『来てよかった』って言ってもらえたことが何より力になります」とにっこり。
北澤さんは「異なるアートを一つの空間で見せるため、相手に対する尊敬と畏敬を忘れずに調和を目指した。皆さんから好評を得たことは励みになる」と笑顔を見せた。
自身と向き合って生み出された「ブレのない」無二の作品は、5人の生き方であるとも言える。
「一期一会」を大切に、巡り会う全てのヒト・モノ・コトに感謝する菊地さん。
「私たちの活動が、誰かの励みになれば幸いです」と静かにほほえむ。
西の空が薄暮に染まる頃、初秋の古民家にすがすがしい風が吹いた。
床の間に飾られた自慢の書「百花繚乱」と作品に見入る地元の皆さん
木工職人 牛膓公男の作品
1950年桐生市生まれ。埼玉県神川町で半自給の暮らしをしながら「風来工房」を営む。
国内製材業者が激減、材料の多くを輸入に頼る今は良材の確保が難しい。
「雑木」と見捨てられた無名の材、流通からはずれた短材や小径木に命を吹き込み味わい深い作品をつくり上げる木工の魔術師。
「これからは、雑木や雑工の時代。いよいよ自分の出番」と前を見る。
造形美術家 大澤義寛の書
1947年桐生市生まれ。造形美術家。
書は本来、書き連ねていく(上)ものだが、書き重ねる(下)ことで、文字が持つ力や可能性を広げている。
「常に旬でありたい」と前進する気鋭の革新派。
全国に25人の弟子がいる。菊地恵利子さんはその一人。
書家 菊地恵利子の書
1960年藤沢町生まれ。86年日本書道教育学会書学院で学ぶ。
96年それまでの書歴を捨て、大澤義寛氏に師事。
06年桐生吾妻公園茶屋悠緑菴で個展。07年稲作の無農薬栽培を開始。
市内で書道教室を開く傍ら市生涯学習講座の講師も歴任。
藤沢町砂子田字前川原在住
陶芸家 北澤与志夫の陶器
1948年群馬県生まれ。藤沢町「大籠焼・瑞衡窯」窯元。
72年、焼き物の原料となる良質な粘土と燃料となるアカマツが豊富な藤沢町に移り住む。
「日常使い」を前提にした作品は、土本来の魅力を生かした焼き締め。
自然美を追求しながら命を吹き込んでいく。
藤沢町大籠在住
新聞記者 青木修の写真
1953年桐生市生まれ。桐生市内の新聞社「桐生タイムス」に勤務する記者。
青空が広がる日があれば、雨が降る日もある。風が吹く日があれば、雲がわく日もある。
「一日として同じ天候がないように、私たちは二度とない瞬間の積み重ねの中に生きている」。
作品の多くは、そんな日常の風景やドキュメンタリーだ。
広報いちのせき「I-Style」 平成25年10月15日号