ハレの日も、ケの日も

20年以上にわたり、もち食文化を普及してきた一関もち食推進会議の佐藤晄僖会長と全国ご当地もちサミットで2万8千食を提供した同実行委員会の佐藤航委員長は親子。
もちを生かしたバリューアップについて伺いました。

海外では、街や歴史を資源として上手に活用している例が多く見られます。
少し視点を変えて、手を入れるだけで、埋もれていた「宝」が立派な資源になることを知っているからです。
そんな海外に対して、日本は伝統や継承には力を注いでも、ブランディングまでは届かないケースが多いようです。

一関で生産された米の90%以上は、新潟県などに流通されています。晄僖さんは「目指すは、地元での製品化。6次産業の確立です」ときっぱり。
「地元にもちを製造・加工する工場があれば、もちがお土産やギフトになり、知名度は格段に向上します」と言い切ります。
一方、実行委員長として昨年10月に主催した「全国ご当地もちサミット2013」で、2万8千食のもち料理を提供した航さん。
「フード・アクション・ニッポンアワード2013」販売促進・消費促進部門で「食文化賞」を受賞するなど、今、全国から注目されています。

「僕たちはイベントでもち文化を発信しました。でも、一関のもちの価値は、長い時間をかけて築き上げた歴史、伝統や文化にこそあると思うのです。だからこそ、ハレの日に食べる特別なものではなく、ケの日に食べる日常食として、もっと地元の皆さんに消費してもらうことが重要です」と力を込めます。

四季を問わず、喜怒哀楽に関わらず、人々の暮らしと共にあるものは「酒ともちだけです」と晄僖さん。
オンにもオフにもハレにもケにも、食べられるもち。
大人にも子供にも世代を超えて愛されるもち。
世界が認めた本当の理由が見えてきました。

父と息子の親子論 産地より聖地。流行より定番それが一関流。

佐藤晄僖さんと佐藤航さん

ユネスコに評価された点

【晄】一関地方には、格式ある「もち本膳」がある一方で、みんなに親しまれる「果報もち」などがあります。
ユネスコに評価された点で特に重要なことは、「神事や儀礼に通じている」「生活に密着している」の二つです。
もち食文化は、歴史や風土に育まれたもので、町おこしのためにつくられたものではありません。
市内各地で伝承活動が行われており、「われこそ伝承者」という人がたくさんいます。それだけ多くの人が、普及活動に携わってきたのです。

大盛況のもちサミット

【航】「全国ご当地もちサミット」は、地域に伝わるもち食文化をイベントに発展させたもの。「古くて新しい取り組み」とでも言えばよいでしょうか。
私は、もち食文化を広く知ってもらうためには、もち給食の実施やもち本膳の伝承だけでは足りないと感じていました。
若い人たちを取り込んで「地ビールフェスティバル」のようなイベントを開催したいと思っていました。
【晄】驚くべきことは、3万2千人の来場に対し、2万8千食ものもち料理を提供したことです。
【航】もち食推進協議会の地道な活動で地盤ができていたので、「なぜ、もちなのか」を説明する必要がなく、スムーズに企画や運営が進みました。
サミットには、各地域の町おこしグループの面々が実行委員となって参加し、互いのノウハウを共有しながら、もうけや損得を排除した「利他」の精神で取り組みました。
反対に、市内各地域のイベントにも積極的に出店し、もちを提供しました。
「フード・アクション・ニッポンアワード」では、多くの人の知恵と力を結集した運営が評価されたのだと思っています。
【晄】若い世代の活動が評価されてうれしいですね。

もち食文化普及のわけ

【晄】一関のもち食文化が普及した背景には、特定の人たちだけではなく、多くの人の手によって普及・伝承が行われてきたことが挙げられます。
それを市が全面的に支援してくれたことも大きな要因です。
市が団体の事務局をしてくれると、営利目的でないことをアピールできるので、信頼感が生まれます。来場者も増えます。
さらに、民間だけでは不足するPRや資金面のフォローもしていただいています。
勝部市長はじめ職員の皆さんが一生懸命なので、よその団体からはいつもうらやましがられています。
【航】子供たちは、高校卒業と同時に大半が古里を離れます。大事なことは、子供のときから「もち食文化」を誇りに思ってもらうこと。
そうすれば、仙台や東京などに出て行った人たちが広告塔になって、お国自慢のもちを全国に発信してくれると思うのです。
【晄】住む場所は遠くても、古里への愛着は変わりません。古里を語れるものの一つが「もち食文化」であってほしいですね。
そういう面からも、もち給食は大事です。子供がもちを食べると、大人も食べるようになります。もち好きな子供を増やすことは、地元の消費拡大にもつながります。
主食としてはもちろん、おやつ感覚で親しんでもらえるような環境づくりを進めれば、もち食文化は無限に広がります。

「もちの聖地」を目指す

【航】クラフトブームの今、多彩なもち料理を楽しめる街にしたいです。
豊富なバリエーションを売りにブランディングできたら面白いと思います。
【晄】歴史や文化と融合させることで、もちの価値は高まります。
例えば、飢きんに備え、救荒植物をまとめた郷土の偉人・建部清庵にちなんだ「薬膳もち」を提供するなど、「一関ならでは」の価値やオリジナリティーを生み出していきたいと思っています。
【航】それらを実現するために、もちの産業化は不可欠です。
原料のもち米が豊富で、多彩な調理方法や格式ある礼儀作法など、古くから伝わる文化もあるのに、もちを製造する工場がない、それが現状です。
駅や商店街にもちのお土産コーナーがあったり、宇都宮の餃子や横手の焼きそばみたいに、街中に「もち」ののれんを掛ける店が並ぶようになればいいですね。
【晄】うまいもちを作るスキルはあります。もち食文化も浸透しています。
私たちが目指すのは「産地」ではなく「聖地」。もちの生産量より「もち好き」を増やすことが大事です。
街を歩けば、「やっぱ、もちだね」って声が聞こえてくる、そんな一関の定番になったらうれしいですね。

一関もち食推進会議会長 佐藤晄僖さん

佐藤晄僖さん

1941年一関市生まれ。64年武蔵大経済学部卒。
世嬉の一酒造(株)代表取締役会長、(株)千厩自動車学校代表取締役社長。
2005年一関もち文化研究会副会長、07年一関・平泉もち街道の会事務局長、08年一関ユネスコ協会会長、10 年一関もち食推進会議会長など役職多数

 

 

 

 

全国ご当地もちサミット実行委員会委員長 佐藤航さん

佐藤航さん

1971年千厩町生まれ。日本大農獣医学部卒。船井総合研究所に勤務後、1999年世嬉の一酒造(株)に入社。
2012年代表取締役社長に就任。全国ご当地もちサミット実行委員会委員長、全国地ビールフェスティバル一関実行委員会プロジェクト委員など歴任。

 

 

 

フード・アクション・ニッポンアワード

フード・アクション・ニッポンアワード

国産農産物の消費拡大の取り組み「フード・アクション・ニッポン」の展開の一環。
食料自給率向上に寄与する事業者や団体等の優れた取り組みを表彰している。 

 

 

 

 広報いちのせき「I-Style」 平成26年3月15日号