市の花木鳥「なのはな」「ぶな」「うぐいす」は豊かな自然に恵まれた一関のシンボル。
 私たちの暮らしと深くかかわり、支えているこれらについて、関連した団体の取り組みとともに紹介します。

 

 

勇壮で堂々とした森の主勇壮で堂々とした森の主 ブナ

水を抱き多様な生き物をはぐくむ

豊かな自然を象徴する木

ぶな

 

 大きいものは高さ30メートルにも達する、勇壮で堂々とした森の主、ブナ。特徴的な灰白色の樹皮にはよくコケが生え、独特の模様を形作ります。ブナといえば世界自然遺産に指定されている白神山地のブナ林が有名です。
 市内では、栗駒山ろくにブナの原生林があるほか、室根山、束稲山とそれぞれの地域を代表する山に生育しています。身近な“里山”ではなく、人手のあまり入らない奥の山に生えているため、多くの人たちにとっては見る機会の少ない木といえるでしょう。それでもブナ林は山菜取り、キノコ採りなどの場として親しまれてきました。

市民団体の取り組みが実り 森林生態系保護地域に指定

 中でも栗駒山のふもと、真湯温泉付近では、国道342号沿いに見事なブナの大木を見ることができます。ミズナラ、トチノキ、カツラ、イタヤカエデなどと混交林を形成し、整備された遊歩道で気軽に森林浴を楽しむことができます。「交通のアクセスのいい場所にこのようなブナ林があるのは、全国的にもまれ」と語るのは、特定非営利活動法人須川の自然を考える会(会員42人)の熊谷健理事長。
 同会は昭和63年の設立以来、ブナ林を始めとする栗駒山ろくの生態系の保護を訴えてきました。当時営林署でブナ林を伐採する計画もありましたが、活動が功を奏し、岩手・秋田・宮城の3県にまたがる栗駒山、栃ケ森周辺地域、総面積1万6310ヘクタールが平成6年、県内では3番目となる森林生態系保護地域の指定を受けました。本市に属する面積は3028ヘクタールで、原則として登山道以外は立ち入り規制が行われています
 「ブナは豊かな森の象徴」と語る熊谷理事長。「大きな機能の一つは保水力。保水力はどの樹木にもありますが、ブナは寿命が長く大木に成長する分、大きな保水力を誇ります。雨水や雪解け水を一時的に土壌にため、その後ゆっくりと流し出す、天然のダム。飲み水も、水田の用水も支える、一関の水がめなのです」

森を守り育てることから 自然を未来へつなげたい

 保護地域の指定によりブナ林保護の目途が立ち、同会が現在力を入れているのは自然体験と祭畤(まつるべ)地区の地域づくり。閉校した分校を改修した「ぶなの森まつるべ館」を16年に開館し、環境教育の拠点としています。ブナの苗木を育て、子どもたちと植樹をしたり、木工に挑戦したり。今年は祭畤地区内の休耕田を借り、コスモスを育てました。外から祭畤地区の地域づくりに取り組むのは、「ブナ林を支えている地域の継続が、将来のブナ林を守ることにつながるから」と熊谷理事長。
 森を守る試みは、わたしたちの未来の暮らしを守る試みにつながっていくに違いありません。

ブナ

(分類)ブナ科ブナ属

(特徴)温帯域に生育する落葉広葉樹。北海道南部、本州、四国、九州に生育する日本固有の種。ブナ属はヨーロッパ、東アジア、北アメリカ東部に分布し、日本にはブナのほかイヌブナが分布。

ブナの葉の縁は波状。写真は9月に撮影したため虫食いも種をまいて2年目の、ブナの苗木。葉の先には来年の芽がすでにできています三角すいの形のブナの種子。高カロリーで山の動物たちの大好物


 

 


春の野を黄色に染め上げ棚田脇の休耕田で美しく咲く菜の花畑(大東町大原山吹棚田)

暮らしと深くかかわり

地域づくりにも期待される花

なのはな

 

 「菜の花畠に入日薄れ―」。唱歌「朧(おぼろ)月夜」に歌われているように、菜の花は懐かしい日本の風景を思い起こさせる花。油の原料として栽培される一方で、野生化したものが川原にも繁茂することも。春、花が密生して咲く様子は、まるで黄色いじゅうたんが敷き詰められたようです。
 当地方でも古くから栽培されてきた菜の花。江戸時代中期に一関藩医の建部清庵(たけべせいあん)が書いた『民間備荒録』では、飢饉(ききん)への備えとして当時一関村で植えられていたエゴマに代え、菜種の栽培を推奨しています。

おいしい菜種油を家族にと 食べることから栽培が拡大

ナノハナ栽培に取り組む「花菜油の会」の皆さん(左から石川シゲ子さん、菊池公代さん、伊東庚子(みちこ)さん) その菜の花を地域づくりに活用しているのが、大東地域の「花菜油(はなあぶら)の会(石川シゲ子代表・会員100人)」。菜の花栽培を通して菜種油の普及と健康づくり、資源循環型社会の実現、農村景観形成や遊休農地の解消などを目指しています。
 平成11年ごろ、役員の一人が栽培していた菜の花に着目したことが栽培のきっかけ。「自分たちの菜種から絞った菜種油は、食べておいしい本物の味。体にいいものを家族に食べさせたいし、栽培に手間がかからないので田を荒らすよりはきれいな菜の花を育てたいと始めました」と石川代表は振り返ります。集会のたびに菜種油で調理した料理を持ち寄って食べてもらうという地道な取り組みで仲間が増え、同会を設立した15年には66人が2.1ヘクタールを栽培。現在は100人が12.5ヘクタールに作付けするほどになりました。

地域内の資源循環を目指す 菜の花プロジェクトin大東

 食を機にした取り組みは、すそ野を広げました。現在は全国的に展開されている「菜の花プロジェクト」(※)に共鳴し、搾油工場の「工房『地あぶら』(青柳孝代表・会員6人)」、手間のかかる刈り取り・脱穀作業を請け負う「菜の花プロジェクト受託組合(佐藤喜一代表・会員9人)」と一体となり「菜の花プロジェクトin大東」に取り組んでいます。
 菜の花栽培は、搾油したかすを利用した菜種油粕(有機質肥料)や地元の養豚会社から提供されるたい肥を使用した無化学肥料・無農薬栽培。工房「地あぶら」で昔ながらの製法で作られた菜種油は会員の自家用・贈答用と産直施設での販売。地域内での資源循環は進んでいます。
 菜の花が美しく咲く風景は、景観形成にも大きな役割を果たしています。同会主催の菜の花写真コンテストに、2回目の今年は市内外から98点が寄せられました。「写真を撮りに来た人に『きれいだね』と言われるのは大きな励み」と石川代表。菜の花マップを作成し、見どころを案内しています。棚田沿い、リンゴ畑沿いなど景観に配慮した作付けも行われています。
 菜種油を使った料理講習会の開催、菜種油を使ったおすすめ料理のリーフレット作成も行うのは、「このおいしさを次の世代にも伝えたいから(石川代表)」
 同会は現在、情報交換のための「菜の花ネットワーク一関」の設立、「菜の花まつり」の開催などを検討中。菜の花を核とした健康・環境・景観への取り組みは、さらに広がっていきそうです。 

※菜の花プロジェクト 遊休農地などに菜の花を植え、花を楽しみ油を搾り、食用として利用した後、廃食油を回収して石けんやバイオディーゼル燃料として車を走らせる資源循環の取り組み。

ナノハナ

 アブラナ科アブラナ属全般の呼称。油菜、菜種などと呼ばれ、古くに渡来した在来アブラナ、明治に来た欧州アブラナ、白菜から改良したナバナ(菜花)などがある。
 耐寒性の1年草で、連作障害はあるが、秋に種をまくと翌春に開花。花、茎、葉は食用に、種から搾る菜種油は食用、灯火などに使われる。

菜種・エゴマ油を製造する「工房地あぶら」。搾った菜種油を瓶詰め菜種油の風味を生かす調理法を学ぶ料理講習会
 

  


昔から人々に愛され新緑の季節、高らかにさえずるウグイス

春を告げる美しい鳴き声

市内どこにでもいる身近な鳥

うぐいす

 

 春を告げる「ホーホケキョ」の美しい鳴き声で、知らない人のいないウグイス。日本全土とロシア、中国の一部にも分布し、文学や絵画によく登場するなど広く親しまれています。
一関地方野鳥の会副会長の千田典文さん 市内で見られるウグイスについて、一関地方野鳥の会(小岩勲夫会長・会員20人)副会長の千田典文さんにお聞きしました。

 

  

 

  • 市内ではどこで見ることができますか?

「平地から高山までの広い範囲に生息していて、笹やぶなどに巣を作りますが、秋から春までは餌を求めて市街地の庭先などにも現れます」

  • 鳴き声だけで姿を見たことがないのですが、どう探せばいいですか?

「ウグイスは、ほとんどやぶの中を移動するので見つけにくく、似た仲間も多いので、見ただけでは分かりませんから、鳴き声を頼りに探すのがいいですね。
 春からの繁殖期に、オスは縄張りを作って『ホーホケキョ』(さえずり)や、『ケキョ・ケキョ』(谷渡り)と鳴き、いつもそこを巡回しています。何度も同じ場所に来てさえずっていますから、見つけやすいと思います。その縄張りの中に、何羽かのメスが巣を作っていますので、うまくするとオスより一回り小さいメスを見ることができるかもしれません。最高で7羽のメスが営巣していた記録もあります。
 また、今の時期は『チャッ・チャッ』という地鳴きなので、この声を覚えてしまうと簡単に見つけることができます」

 身近で人々に愛されているウグイス。この機会に、耳を澄ませて探してみませんか。

ウグイス

(分類) スズメ目ウグイス科

(特徴) スズメ程の大きさ。体色はオリーブ褐色(ウグイス色ではない)で腹面は色がやや薄い。縄張りを作って営巣し、一夫多妻。雑食だが、夏は主に虫などを食べる。

(広報いちのせき 平成18年12月15日号)