不変を貫く不動の美学 本寺に生きる。 05 引力
05 引力 多くの人を惹ひき付ける 神々が宿る場所
駒形根神社は、本寺地区の水田を一望できる鎮守の森にある。
恒例となった秋の例大祭は10月13日、同神社で開かれた。
大祭には地元の人たちなど約50人が参列。
拝殿で行われた神事では、茂庭義満(もにわよしみつ)宮司の祝詞奏上に続き、同神社の別当5人が玉串をささげ、出来秋を祝った。
続いて、達古袋(たっこたい)神楽の鶏舞が奉納された。
神楽殿では太鼓とかねに合わせて「安宅(あたか)の関」など3番を披露。
勇壮な舞は、集まった人たちを魅了。
中には涙する人も。
建立された鳥居に使われた木材は信仰の山として名高い比叡山(ひえいざん)から運ばれてきたもの。
寄贈したのは、本寺の人たちと親交の深い関西在住の小池敏雄さんと谷崇守さん。
同日は、二人も参列し、地域の人たちと共に実りの秋に感謝し、鳥居の建立を祝った。
駒形根神社宮司 茂庭義満さん
1956(昭和31)年から駒形根神社の祭儀に携わってきた。
新しい鳥居は大変ありがたく、神社として鳥居が増えるのはうれしい。
木造なので、痛まないよう大事に守っていきたい。
(1)鎮守の森に建つ駒形根神社
(2)勇壮な舞を披露する達古袋神楽保存会の皆さん
(3)拝殿で行われた神事。祝詞奏上や玉串を捧げて出来秋を祝った
(4)神楽に盛んな拍手を送る本寺の人たち。中には涙する人も
鳥居立て替えの原木を寄贈した2人に聞く 本寺に通うわけ
駒形根神社の鳥居立て替えのために、原木を寄贈した小池敏雄さんと谷崇守さん。
関西在住の2人をそこまで動かしてしまう本寺の魅力とは?
小池敏雄さん 谷崇守さん
素朴さ、やさしさ、温かさ。それが本寺の魅力
—本寺を訪れたきっかけは?
小池 標識や案内板などのセールスに来た。本寺のことは知らなかった。ガイドしてくれた佐藤光男さんとは初対面で意気投合。家に泊めてもらった。一晩中、骨寺の歴史を聞かせてもらった。
谷 熊野、比叡山、京都など世界遺産を回っていた。6年前から平泉に足を運ぶようになり、小池に誘われて本寺を訪れたのがきっかけ。
—鳥居の材木を寄贈した理由は?
小池 関西だけでも約150カ所の寺社仏閣や霊場を担当した。寺社仏閣に詳しい自分でも駒形根神社は特別だと感じる。ここの特徴は神仏一体で昔から変わっていないこと。明治の初めに、それまで一緒にあった神社と寺の多くは切り離された。だが、ここには両方ともある。歴史的な背景が深い。何度か訪れるうちに気になり出したことがある。木の鳥居がないことだ。聞けば、老朽化した鳥居を直すことができなかったという。古くから神社に守られてきた鎮守の森に鳥居は欠かせない。「自分たちにできることがある」と思って動き出した。
-なぜ比叡山から?
小池 本寺は中尊寺とつながっており、鳥居の原木は中尊寺と縁のある場所がいいと思った。比叡山から少し離れた場所に明王院という有名な天台宗の修行場所がある。中尊寺の執事長さんもここで修行した。こういうつながりを大事にしたかった。形もこだわった。建立した鳥居は、伊勢神宮の一番内宮に建つ鳥居と同じ形。伊勢神宮では20 年に1度、内宮と外宮を同じに建て替える「式年遷宮」が行われる。次は2013 年だ。その際、古材を譲り受け、駒形根神社の拝殿や本殿の改修に利用したい。岩手・宮城内陸地震や東日本大震災の復興の一助になればうれしい。
谷 伊勢神宮の古材は通常、譲ってもらえない。小池が懇意にしている宮司さんに頼み込んで話をつけた。
―そこまで二人を引きつけるものは?
小池 本寺の人たちとのつながり。これに尽きる。光男さんのように、初対面にもかかわらず「泊まっていけ」と言ってくれる人はそうはいない。そんな人たちと出会いに引き込まれた。本寺の魅力は、自然であったり、人であったり…と言いたいところだが言葉では表せない。なぜならそれは「心」にあるからだ。付き合いが深まれば深まるほど人情や愛情を感じてしまう。そんな素朴さや温かさがたまらない。
谷 お金に代えられない付き合いだ。本寺に来て、真っ先に感じたのが「日本のふるさと」を象徴する原風景。本寺の里山、鎮守の森、神社、寺などを見て、今に生きる私たちが忘れかけている「日本人が住むべき場所」を痛切に感じた。気候や風土がはぐくんだ農村風景、ここに生きる人たちの素朴さ、温かさなど、来て、見て、触れた人にしかわからない豊かさを実感できる場所が本寺だ。初めはビジネスで来たが、ここで仕事はできない。商売抜きに引き込まれてしまう。これからも心の通った付き合いを続けていきたい。
小池 伊勢神宮の古材を譲り受けるまでは、駒形根神社、中尊寺、伊勢神宮と私の関係は続く。近い将来、半年くらいは本寺で暮らすことになるだろう。もちろんその後も親交を深めていきたい。
(広報いちのせき23年12月1日号)