岩手一関の手 File_01
一刀に、一心に、
形と心を融合する手業
「仏師」。
仏像などを彫る職人の名称だ。
その歴史は飛鳥時代にさかのぼる。
大東町渋民の石川昇明(本名完二)さん(52)もその一人だ。
大東高卒業後、1977年から京都で修業。
90年には京都大仏師松本明慶師に弟子入り。
腕を磨いた。
99年に帰郷し工房を構えた。
この道を選んだのは、仏師の父佐久間白雲(本名茂)さんの影響。
「父の背中を見て育った」と振り返る。
近くに住む兄の佐久間渓雲(本名純一)さんと共に東北地方の数少ない仏師。
各地の寺院などに仏像を納めている。
「仏像は大きさにもよるが、制作は一体につき半年から2年ほどかかる。重要文化財の仏像修復なども行っている」と、一心に彫刻刀を握る。
昨年3月11日、石川さんは東松島市で地震に遭遇。
途中、川をさかのぼる津波も目の当たりにした。
「仏様が守ってくれた」と振り返る。
震災後は、ボランティアで沿岸部を訪れた。
被災した陸前高田市の寺院に仏像を納めることが「仏師である自分の使命」と高田松原の黒松を使い、19体の制作を始めた。
制作には60本以上ののみや彫刻刀を使う。
直径約5センチの顔の部分は仏像の命。
小刻みに刃をあてる。
仏像の表情が徐々に温和になっていく。
ベタな質問をしてみた。
「この仕事は好きですか」。
答えは「喜んでもらえる仕事。大好きさ」。
「19体の制作に当たり、全国から多くの賛同をいただいた。心から感謝している。震災から一年を前に納めることができる」と充実感と達成感にあふれていた。
1 | 1_静かな時間が流れる工房。 ここには、材料を刻む音だけが響く 2_繊細な作業をリズミカルにこなす 3_角材が徐々に仏像へ 4_手入れの行き届いた彫刻刀は職人としての誇り 5_精巧に仕上げた2センチほどの仏像の手 6_地蔵菩薩8寸仏(約26センチ)、台座を含む総高40センチの仏像。 この後、漆、金箔を施す |
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PROFILE
石川昇明(完二)
1959年大東町渋民生まれ。
父の影響で仏師を志し、高校卒業後、京都で修業。
99年帰郷、工房を構える。
被災した陸前高田市の寺院へ仏像を寄贈する活動を展開。
妻、子2人、義母の5人家族。
大東町渋民在住。
52歳
広報いちのせき「I-style」4月1日号