政府は「骨寺村荘園遺跡」を含む5資産の拡張登録に向けて「平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―(拡張)」を追加記載した世界遺産暫定一覧表をユネスコ(国際連合教育科学文化機関)世界遺産センターへ提出。
ユネスコは9月25日、世界遺産暫定一覧表に記載しました。 

世界遺産は、地球の生成と人類の歴史によって生み出されたかけがえのない宝物。
72年に開かれた「第17回ユネスコ総会」で採択された世界遺産条約(世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)の中で定義されています。

12年7月現在の登録数は962件(文化遺産745件、自然遺産188件、複合遺産29件)、条約締約国は189カ国。
私たち人類は、過去から現在へと引き継がれてきたこの共通の「遺産」を未来へと伝えていかなければなりません。

これまでの経過は次のとおりです。

「平泉の文化遺産」は08年7月、カナダ・ケベックで開かれた「第32回世界遺産委員会」で登録延期の決議を受けました。
▼骨寺村荘園遺跡と農村景観▼達谷窟▼白鳥舘遺跡▼長者ヶ原廃寺跡―の4資産は構成資産から除かれ、調査研究成果が整理できた時点で拡張登録を目指すことになりました。

11年6月、フランス・パリで行われた「第35回世界遺産委員会」で「平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群」は世界遺産リストに記載されることが決定。
しかし、「柳之御所遺跡」は浄土思想との直接的関連性が認められない理由で構成資産から除かれました。

その後、岩手県と関係市町は拡張登録へ向け、「平泉の文化遺産世界遺産拡張登録検討委員会」を開催。
暫定一覧表記載に向けた作業を進めてきました。

政府がユネスコへ提出した暫定一覧表で、顕著な普遍的価値の証明(抄)内容は次のとおりです。

「平泉の文化遺産は、東アジア地域の人々が宗教や思想など互いの価値観を交流した結果形成された政治・行政上の重要拠点です。『浄土世界』がつくられた背景には、世界的に広がった『仏教』が存在しています。それは顕著な普遍的価値を有し、世界遺産一覧表の調和と代表性を確実にする上で意義のある資産です」

世界遺産リストに登録されるためには、「世界遺産条約履行のための作業指針」に示された登録基準のいずれか一つ以上に合致しなければなりません。
さらに、真実性や完全性の条件を満たし、締約国の国内法で適切な保護管理体制がとられなければならないなどの制約があります。

登録基準は05年2月1日まで「文化遺産」と「自然遺産」の2つでしたが、翌2日から新たに文化遺産と自然遺産が統合された「複合遺産」が加わり3つになりました。
別表(1)~(6)の基準で登録された物件は「文化遺産」、(7)~(10)は「自然遺産」、文化遺産と自然遺産の両方で登録されたものは「複合遺産」になります。

拡張登録を目指す当面の構成資産は5つです。
今後の調査研究成果に基づき再度、文化審議会で検討される予定です。
構成資産は▼骨寺村荘園遺跡(一関市)▼柳之御所遺跡(平泉町)▼達谷窟(平泉町)▼白鳥舘遺跡(奥州市)▼長者ヶ原廃寺跡(奥州市)―の5資産です。

今後は、世界遺産委員会へ拡張申請するための準備作業を行います。
その後、イコモス(国際記念物遺跡会議)の審査・勧告を受け、世界遺産委員会で登録の可否が決まります。

現在、有識者委員会等からは具体的な推薦を行うための調査研究不足が指摘されており、今後、個別資産の集中的な調査研究を実施する必要があります。

今回の暫定一覧表記載により、日本国内で記載された物件は13件。
1国が1年に推薦できる件数は制限されていることから、拡張申請までは一定の期間を要するものと想定されています。

本市の「骨寺村荘園遺跡」の価値は、まさに、日本の原風景といえる中世から変わらない農村景観です。

この貴重な「骨寺村荘園遺跡」を世界遺産拡張登録につなげ、確実に未来へと伝えていくためには、私たちが遺跡の価値を正しく認識し、市民全員が保存への取り組みやそれに関わる活動に積極的に参加することが大事です。

世界遺産の登録基準

  1. 人間の創造的才能を表す傑作である。
  2. 建築、科学技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展に重要な影響を与えたもので、ある期間にわたる価値観の交流やある文化圏内での価値観の交流を示すものである。
  3. 現存または消滅に関わらず、ある文化的伝統や文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)である。
  4. 歴史上の重要な段階を物語る建築物である。その集合体、科学技術の集合体、あるいは景観を代表する顕著な見本である。
  5. ある文化(一つまたは複数)を特徴づける伝統的居住形態、もしくは陸上・海上の土地利用形態を代表する顕著な見本である。
    人類と環境とのふれあいを代表する顕著な見本である(特に不可逆的な変化でその存続が危ぶまれているもの)。
  6. 顕著な普遍的価値を有する出来事(行事)。
    生きた伝統・思想・信仰・芸術的作品・文学的作品と直接または実質的関連がある(この基準は他の基準とあわせて用いられることが望ましい)。
  7. 最上級の自然現象、または類まれな自然美・美的価値を有する地域を包含する。
  8. 生命進化の記録、地形形成における重要な進行中の地質学的過程、重要な地形学的または自然地理学的特徴といった地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な見本である。
  9. 陸上・淡水域・沿岸・海洋の生態系や動植物群集の進化・発展において、重要な進行中の生態学的過程または生物学的過程を代表する顕著な見本である。
  10. 学術上や保全上、顕著な普遍的価値を有する絶滅のおそれのある種の生息地など、生物多様性の生息域内保全にとって最も重要な自然の生息地を包含する。
一関市
骨寺村荘園遺跡 ほねでらむらしょうえんいせき

骨寺村荘園遺跡
中尊寺経蔵領として12世紀に始まった荘園遺跡。
同寺創建時から紺紙金銀字一切経をはじめとする経典が納められた経蔵を維持し、仏国土(浄土)形成のための精神を経済的に支え続けた特別な領域と考えられる。

平泉町
柳之御所遺跡 やなぎのごしょいせき

柳之御所遺跡
奥州藤原氏の住居・政務の場であった居館の考古学的遺跡。
歴史書「吾妻鏡」に記された平泉の政治・経済・文化の中心的施設「平泉館」の跡と推定される。

達谷窟 たっこくのいわや

達谷窟
平泉と京都を結ぶ主要道の転換点に造営された寺院。
中心区域への導入部に位置する。
清水寺を模した毘沙門堂には108体の毘沙門天が祭られている。

奥州市
白鳥舘遺跡 しろとりたていせき

白鳥舘遺跡
平泉の北部周辺区域にあたる。
浄土形成のため、土器製作や鉄加工などの手工業生産が行われた。
北上川の舟運とも密接に関わって機能した施設と考えられる。

長者ヶ原廃寺跡 ちょうじゃがはらはいじあと

長者ヶ原廃寺跡
奥州藤原氏初代清衡が建立した中尊寺北側に所在。
清衡の母方の出身氏族・安倍氏が11世紀、居館とあわせて建立。
浄土平泉の形成に深く関与した寺院遺跡と考えられる。

広報いちのせき「I-Style」 平成24年10月15日号