【特集1】「6.14」一関の今_2
遺構を資源に、価値を生み出す
記憶を後世に伝える
大きな爪痕を残した岩手・宮城内陸地震。
市は、「6.14」の記憶を風化させないために、教訓を生かすために旧祭畤大橋周辺の災害遺構を保存した。
遺構には県内外から多くの人が訪れているほか、市内外の児童・生徒の防災教育や学習の場に役立てられている。
震災から3年を記念して、2011年6月には、断層のズレや地滑りが起こす脅威を再認識してもらおうと「祭畤被災地展望の丘」と「見学通路」を整備した。
学校で防災を学ぶ
市野々原や祭畤など、大きな被害を受けた厳美町。
地元本寺小学校(上山サダ子校長、児童29人)で6月14日、防災の「出前授業」が行われた。
防災への意識を高め、古里への愛着を深めてもらうために同校が主催。
国土交通省東北地方整備局岩手河川国道事務所の職員、岩手大学農学部の井良沢道也(いらさわみちや)教授と学生らを講師に、3~6年生20人が学んだ。
授業で岩手河川国道事務所調査第一課の福田修課長は、当時の被害状況やその後の復旧工事の進ちょくなどを説明。引き続き、市野々原地区の砂防堰堤や落橋した旧祭畤大橋などを見学した。
遺構を見た児童は地震の猛威を実感。災害の記憶を風化させてはいけないことの大切さを認識するとともに、備えの重要性を胸に刻んだ。
午後は教室で井良沢教授と学生が模型を使って砂防堰堤の仕組みを紹介。その後、参加した保護者らも交えて地震発生時の対応について話し合った。
上山校長は「遺構の意味を子供たちに伝えることができた。今後も防災学習を続けたい」と語った。
6月14日、本寺小が実施した防災についての「出前授業」。 |
防災について家族で話し合ってほしい
伊藤綾乃さん 岩手大学農学部4年
災害遺構は、5年前の岩手・宮城内陸地震の様子がそのまま残されています。
子供たちには、帰宅したら出前講座で見たこと、学んだことを家族と話し合うよう訴えかけました。
復旧が進んでも日頃の備えを
井良沢道也さん 岩手大学農学部教授
土砂災害に限らずあらゆる災害に対応するためには、
- 自宅の周りに危険な箇所がないか確認
- 災害発生時の避難場所の確認
- 緊急時の対応を家庭内で話し合っておくこと
-が必要です。
見て、感じること
一関防災センター北上川交流館「あいぽーと」が主催する「『岩手・宮城内陸地震から5年』パネル展」は6月4日から7月15日まで同交流館で開かれた。
同展は、災害の記憶を風化させないために毎年開かれている。
展示室には地震発生直後の様子や復旧作業を撮影した写真約80枚が展示され、災害時の対応や防災に関する知識を深めることができる。
6月27日には、岩手町の水堀小学校(佐藤真校長、児童48人)の5年生9人が訪れ、施設を見学。
児童たちは、同交流館の齋藤一公事務局長から地震被害の規模や復旧工事などについてパネルを使って説明を受けた。
齋藤事務局長は「パネル展と併せて、災害遺構に足を運び、当時の状況を実際に見て、感じてほしい」と話している。
パネルを見て地震の怖さを実感
田村穂天(ほだか)君 水堀小(岩手町)5年
あいぽーとに展示してあるパネルを見て、東日本大震災以外に、大きな橋が壊れるくらい大きな地震があったことを初めて知りました。
自然の力はすごいです。地震は怖いことを実感しました。
内陸地震から5年 考えたい「防災」、伝えたい「記憶」
あいぽーと事務局長 齋藤一公さん
「あいぽーと」の主な業務は企画展の開催など。遊水地事業のほか、防災意識を高めるためのパネル展示などを行っている。
今回のパネル展では、重機10台が作業している風景を展示している。普通の工事現場で稼働する重機は通常2~3台。それだけ緊急性があったということ。
展示している一枚一枚が伝えたいものを持っている。それを見て、知ってもらいたい。
岩手・宮城内陸地震から5年の節目を迎え、発生当時のことをもう一度考えてほしいと思い、パネル展を企画した。節目節目に行うことで、記憶風化を防ぐことが目的。
風化防止の大事な役割を持つ災害遺構の保存は英断だと思う。被災の象徴である遺構は、地震被害の大きさや被災体験を記録し、記憶の風化を防ぎ、継承する場所。
物言わぬ語り部として永遠の役割を担っている。
自然の力の強さ、怖さ、それに対する人間の力が微々たるものかを教えてくれる大事な資産。多くの人に足を運んでもらいたい。当時の様子を見て、感じてほしい。
広報いちのせき「I-Style」 平成25年7月15日号