【特集1】五線譜に描く夢_2
人づくり、まちづくり、コミュニティーの形成にも貢献
合唱は一関の日常
「市民に合唱の素晴らしさを伝えたい」
「合唱の楽しさを感じてほしい」
多くのサークルや団体が活動する今なお、合唱祭の目的は24年前と変わらない。
本市では、市内の小中高校全てが合唱に取り組み、多くのコーラスグループが各地域で活動している。
東日本合唱祭のほかにも、3年に1度開かれる「いちのせき第九演奏会」や来年1月に40回目を迎える「一関合唱祭」など、一年を通じてさまざまなイベントが開かれている。
合唱は「日常の光景」になった。
体一つで参加できる合唱は、最も身近な音楽活動。
老若男女誰もが気軽に参加できることも、底辺拡大の大きな理由だ。
大畑さんとの親交が深い「コールわかな」の平均年齢は84歳。
練習に欠かさず参加するメンバーの池田美代子さんは「(合唱は)生活の一部です」と笑う。
大畑さんは「みんなが心を一つにして美しいハーモニーをつくり出す合唱は、思いやりや助け合いの心を育みます。人づくりはもちろん、コミュニティー形成やまちづくりにも貢献しています」と話す。
コールわかな
池田美代子さん 87 真柴
メンバーにとって合唱は、生きがいと言っていいほど。
旧女学校の同窓生で結成した「わかな」で一緒に歌えることは誇りであり、励みでもあります。
小野寺セキ子さん 87 宮下町
メンバーは音楽が大好き。合唱は生活に張りを与えてくれます。
週1回の練習が生活の中心になっています。
合唱は、生活の一部ですね。
協調性を育む音楽活動
普段から一関一高と付属中の生徒が一緒に活動している
8月に開かれた全日本合唱コンクール岩手県大会で金賞に輝いた名門一関第一高等学校・附属中学校音楽部。
同部に入りたくて、同校へ進学する生徒も少なくない。
部長の菊池啓輝(はるき)さん(2年)は「繰り返し練習することで異なるパートが次第に響き合い、調和していきます。こうして一つの新しいハーモニーが生まれる瞬間は言葉にできません」とにっこり。
ソプラノの小岩千祐(ちひろ)さん(1年)は「合唱はチームワークが命。他のパートの音を聞いたり、互いを気遣ったりする中で、自分の音量、音程、強さなどが見えてきます。みんなでつくる合唱が関高の強さです」と自信をのぞかせる。
顧問の横山先生は「毎年、生徒の顔触れは変わりますが、先輩から後輩へとよき伝統が引き継がれています。生徒の思いを支える保護者も熱く、年々一体感は増しています」ときっぱり。
さらに「それぞれが個性や存在感を発揮しながら、全体が調和する合唱は、自分に対する責任感と集団での協調性を育んでいます」とも。
歌でつながる心の「和」は、友情の「輪」を育み、音楽の「環」を広げている。
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1_息のあった美しいハーモニーは、毎日の厳しい練習から生まれる
2_東日本合唱祭のフィナーレで合同合唱した「大地讃頌」の譜面
一関第一高等学校・附属中学校音楽部
菊池啓輝さん 2年 バス 部長
今年の東北大会は銀賞。残念ながら全国切符はつかめませんでした。
来年こそは県、東北どちらも金賞を獲り、全国大会に出場します。
千葉美雨さん 2年 アルト 副部長
みんなで協力してハーモニーをつくり出すのが合唱の魅力。
自分たちが思い描いたように歌い、表現できたときの達成感はたまりません。
皆川雅博さん 2年 テノール
高校の体験入学で音楽部を見学。
みんな楽しそうだったので入部しました。
大人数で歌う合唱はとても気持ちがいいです。
充実しています。
小岩千祐さん 1年 ソプラノ
合唱を続けているうちに、声を合わせて歌うことの楽しさを覚えました。
豊かな声量ときれいな発声ができるよう練習を重ねています。
12万人のハーモニー
本質を極め続ける一関の合唱は、理想郷を求め続ける一関のまちづくりと重ね合わせることができる。
市民と行政が共に手を携え、知恵と力を結集して地域をつくる、それが「協働のまちづくり」だ。
ソプラノ(女声高音)、メゾソプラノ(同中音)、アルト(同低音)、テノール(男声高音)、バリトン(同中音)、バス(同低音)など複数のパートが調和して美しいハーモニーを響かせるように、まちづくりは、男・女・子供・大人が、家族・職場・仲間・地域が互いに個を認め合い、高め合ってこそ、新しい価値や魅力を生み出すことができる。
8つの地域からなる一関市は、8部の混声合唱にたとえられる。
横山先生は「8つのパートで一つの曲を歌うから、広く、深く、重厚な音になるのです」と言う。
さあ、一関という五線譜に、12万人の知恵と力を結集し、愛、夢、希望にあふれるメロディーを響かせよう。
美しく、力強い、あの東日本合唱祭の合同合唱のように。
若き指導者を育成し、次の世代へ引き継ぎたい
一関合唱連合会 大畑孝夫会長
一関の合唱は、60年以上の歴史を誇ります。
優れた指導者に恵まれことや音楽関係者だけでなく一般の人たちも積極的に参加したことなどが要因ですが、何より一関に合唱が普及する風土があったからだと思います。
次の東日本合唱祭は25回目を、一関合唱祭は40回目を迎えます。2014年はまさしく節目の年です。
あらためて、合唱のまちを全国へ発信できればと考えています。
一方、合唱人口は増えているものの、平均年齢は年々が高くなっており、過度期にあるともいえます。
もっと若い人たちに加わってもらえたら、まだまだ元気になれると思うのですが、少子高齢化の時代では、なかなか難しいところです。
若い人たちが増えれば、比例して合唱人口も増加するでしょう。
そういう面からも、市が進める移住定住促進事業には大きな期待を寄せています。
過渡期の今、私たちがすべきことは、新陳代謝を活性すること。
これからの時代をリードする指導者を育成し、合唱という誇るべき古里の文化と伝統を、次の世代に引き継いでいくことです。
プレイベントなど新しい企画を取り入れたい
第24回東日本合唱祭実行委員会 横山泉実行委員長
合唱祭の醍醐味(だいごみ)は、一流の歌を聴いて、一緒に歌えること。
他にはない合唱のまち一関ならではです。
以前にも出演したことのある東京の「お江戸コラリアーず」は、実行委員会から出演依頼する前に「出演したい」と申し出がありました。
「片思いではなかった」、そんな交流がうれしいですね。
合唱祭前日には、お江戸コラリアーずと東山中の合唱交流が行われるなど、友情の輪は年々広がっています。
お江戸コラリアーずの「こころようたえ」(男声版)と栗友会の「ハレルヤ」はともに初演。
世界で初めて披露する場に一関を選んでいただいたことは、とても名誉なことです。
東日本大震災から2年。「がんばろう東北 歌声で心の輪を」をテーマに開催しています。
伝統と革新で四半世紀の歴史を重ねた合唱祭。25回目の来年は、新しい企画がほしいですね。
合唱祭は、全国から訪れる皆さんに、一関をPRできる機会でもあるのですから。
広報いちのせき「I-Style」 平成25年11月15日号