もち食の知恵を継承し、新たな文化を創造したい

初めて食べるもち本膳に子どもたちは興味津々。「亭主」役の岩淵さんに作法を教わりながらおいしくいただきました

 その多彩さでは日本一といわれている一関地方のもち料理。年中行事、農作業の節目節目などにもちをつくほか、祝儀、不祝儀での「もち本膳」はこの地方独特のもの。このもち文化を次の世代に継承し、広く発信しようと活動しているのが、一関もち文化研究会(小梨浩子会長)です。
 同会は、もち食の知恵の継承が難しくなり、今記録しておかないと失われてしまうとの危機感から18年4月に発足。昨年度は厳美、花泉、千厩でもち本膳を再現して記録しました。今年度は子どもたちにもち本膳を味わってもらいたいと、昼食にもち本膳を食べてもらいながら、地元の人にもち文化について説明してもらう出前授業を、四つの小学校で行っています。
 11月1日、滝沢小(小野寺修校長、児童161人)で最初の出前授業が行われました。5年生28人は塗りのお膳を前にわくわくした様子です。祝いもち振る舞い隊隊長の岩淵一美さんが紋付きはかまの正装でもち本膳を食べる時の進行役「亭主」を務め、子どもたちは食べ方のマナーを教わりながら、わんに盛られたあんこ、雑煮、しょうがのもちを食べました。
 「この地方の最高のもてなしはもち。感謝の気持ちを持って食べて」と岩淵さん。「あんこと雑煮はお代わり自由だが、しょうがやエビ、くるみなどの変わりもちはお代わりをしないもの」「たくあんを一枚残しておいて、最後の『膳の湯』を頂くとき、このたくあんでわんの中を清めます」などの説明に、児童らはうなずきながらもちをほお張っていました。
 「味覚は保守的。子どものころ食べた味は一生覚えている」と小梨会長。「もちはおいしいだけでなく、この地方の生活文化が凝縮されているもの。もち本膳を食べてみることで、その生活文化に触れるきっかけになれば」と語ります。
 同会の活動の柱、地域の食の継承と子どもたち、若い人たちへの食育は、イタリアを発祥の地とし世界的な広がりを見せている「スローフード運動」の方向性と大きく重なります。3年後にイタリアのブラで行われるスローフード運動の世界大会でもち本膳を紹介することが目下の同会の夢。「国際的なPRが、地域で若い人にもち文化を見直してもらうきっかけになる」と小梨会長は力強く語ります。
 「この地方が一体となって『もち』をキーワードにさまざまな取り組みを行っていくことが、新たなもち文化の創造につながれば」―継承だけでなく、創造が文化と語る小梨会長です。


   

(広報いちのせき平成19年12月1日号)