伝統を守る苦悩

マツリバで激しくもみ合う本宮、新宮の陸尺たち
マツリバで激しくもみ合う本宮、新宮の陸尺たち

神役の自主的な参加で祭りは脈々と受け継がれてきた。
参加する、しないは、自分の気持ちと家の事情次第。不参加の場合も、とがめられることはない。

気持ちがあっても、さまざまな理由からできないことも多く、伝統を受け継ぐことは、そう簡単なことではない。

世襲制の神役により、1300年もの間、受け継がれてきた室根大祭だが、今、この世襲制が仇となって、祭りの存続が危うくなりつつある。

旧暦うるう年の翌年の開催で、3年ないし2年ごとに行われてきた祭りは、加速する過疎化、少子高齢化、低迷する経済などによって、後継者確保と経費捻出が難しくなっている。
さらに、信仰心の薄れなども相まって、「継承」が大きな課題として浮上している。

祭りには、近隣市町村にまたがっての神役があるが、近年「荒馬先陣」が数回にわたって不参加だったり、「新宮大先司」が休祭したり、「本宮大先司」の神役が辞退したりするなど、世襲制は厳しい現実に直面している。

こうした中、「地域を挙げて貴重な祭りの形態を継承しよう」と、世襲を離れた任意組織が祭りの存続に向けた取り組みを開始した。

1 2
3

1_仮宮によじ上る陸尺
2_マツリバで神輿の到着を待つ袰祭り
3_神輿安着を喜ぶ陸尺たち

世襲制継続か、撤廃か

17頭の馬を連ねた行列「荒馬先陣」は、りりしい姿が印象的だ。
熊野から迎えた神様を室根山に運ぶ途中の峠で、矢越地区の人々が白馬17頭を連れて、出迎えたエピソードに由来する。

「馬を借りる」「化粧まわしは年々華美になる」など、荒馬先陣は費用がかさむ。
これまでは、世襲制で神役が負担してきたが、特定の人だけが負担する仕組みには限界がある。

05年、「荒馬先陣保存会」を設立。世襲を撤廃して地区全体で保存・継承する取り組みが始まった。
保存会の運営・維持は困難も多いが、次世代に継承していくために地域が立ち上がり、以来、その形態を復活させて祭りに参加している。
「本宮大先司」も07年の祭りから任意組織によって形態を再現した。

祭りの華「神輿担ぎ」。かつては7回参加しなければ神輿に触れることはできなかった。
担ぎ手になるために大勢の人が陸尺に参加した時代が懐かしく感じられる。

「変化しなければ、生き延びられないのか」

世襲性の継続と撤廃。
乖離する二つの狭間で関係者の心は揺れる。過疎化と少子高齢化は、祭り存続の壁となっている。

1 2

1_マツリバに向かう本宮大先司
2_マツリバで神輿の到着を待つ荒馬先陣

心を「一つに束ねる」祭り

1 2

1_きらびやかな舞姫舞奉納
2_大先司馬をねぎらう旗持
 

「誰かがやらなければ、祭りはできない。伝統も守れない」

祭りを愛する地域の人々は、懸命に頑張っている。
苦労や困難と正面から向き合って、途切れそうになった歴史を必死に紡いでいる。

祭りの語源は、人の心を「一つに束ねる」意味の「マツル」ともいわれる。
地域の活性化やコミュニティーの維持再生に果たしてきた役割も大きい。

地域を挙げて、信仰心の希薄化と祭り本来の精神構造など、失われつつある価値や魅力を、もう一度取り戻すことは「協働のまちづくり」にも通じる。

室根神社総代の小山京一総代長は「祭り再生の方策は、祭りの中にあるのかもしれない。それを見つけ出し、前進していくこと。それが、今に生きる私たちの使命だと思っている」と確固たる決意だ。

一つ一つのプロセスを経ながら蘇生される祭りは、きっと、地域の誇りとして、魅力として、これまで以上の輝きを放つに違いない。

1りりしい表情のお殿様役の男児 2若き荒馬先陣 3仮宮行事を終え還幸

1_りりしい表情のお殿様役の男児
2_若き荒馬先陣
3_仮宮行事を終え還幸

伝統を継承することの難しさは百も承知。
1300年の歴史と、かけがえのない文化を、みんなの知恵と力を集めて後世へとつなぎたい。
室根神社総代 総代長 小山京一さん

小山京一さん

今回も無事に終わった。祭り年は「やらなければならない」という気持ちが強くなる。総代全員の気持ちだ。
最近の大祭は、参加人数が少ないことは否めない。かなりの体力を必要とする陸尺などは、その傾向が顕著だ。
普通の神輿担ぎとは勝手が違う。やはり、若い力が必要だ。神役も休祭したり、必要人数を確保できなかったりしている。
高齢化や人口減少は祭りの存続をおびやかす原因の一つだ。市全体の協力が必要だ。

一方で、地元の受け入れ体制の整備も不可欠だ。祭りの勝手を知らないと参加できないことも考えられる。
神役会議でも話題に上ったが、まだ、具体的な取り組みには至らない。関係者と話し合いを重ね、時間をかけて説明する必要がある。

次回は2015年。大祭を伝承していくため、そろそろ全体の見直しが必要な時期を迎えている。
祭りはなくせない。次回開催に向け、しっかり検討し、勇気を出して改革しなければならないと思っている。
みんなで考え、できることから粛々と行っていく。祭りは、地域を盛り上げる。最高だ。
地域の皆さんの理解と協力に心から感謝している。

 

 

Profile

1931年室根町生まれ。
室根神社総代を経て総代長に就任。祭り継承に情熱を傾ける。
妻、長男夫婦の4人暮らし。82歳、室根町折壁在住 

 

 

 広報いちのせき「I-Style」 平成25年12月15日号