「世界に一つだけ」の大規模研究施設

物質の根源や宇宙の起源などを研究する素粒子物理学―。

その発展のためには、大型の加速器による研究が欠かせないことから世界の研究者の中で国際リニアコライダーの建設計画が検討されています。
この計画の候補地として、本市を含む北上山地が候補地の一つといわれており岩手県と東北大学は8月から、国際リニアコライダー計画の可能性を検討するための基礎的な地質調査を行います。

国際リニアコライダーとは、何なのでしょうか。

国際リニアコライダーのイメージ図

国際リニアコライダーって何

直線(リニア)衝突加速器(コライダー)のことです。
 “インターナショナル・リニア・コライダー ”(略称・ILC)は、全長31キロメートルから50キロメートルの地下100メートルほどのトンネルに建設される、加速器を中心とした大規模研究施設。

世界中の研究者が協力して、「世界に一つだけ」建設しようとする計画です。

どんなことをするの

ILCでは、トンネルの一方から電子を、もう一方からは陽電子を入れて、直線の加速器で光の速度まで加速。

真ん中で衝突させ、「宇宙誕生=ビッグバン」直後の状態を再現します。

粒子同士を衝突させることにより、質量の起源や時空構造、宇宙誕生の謎に迫ることを目指しています。

加速器って何

加速器とは、電気を帯びた粒子を加速する装置の総称。

テレビのブラウン管や電子顕微鏡、がん診断などに使われる陽電子放出断層撮影装置(PET)などの医療用診断・治療装置も加速器の一種で、わたしたちの身の回りにも多数あります。

建設の条件は

必要なのは、硬くて安定した岩盤。

ILC建設の第一条件は、第1期で31キロメートル、第二期で50キロメートルに及ぶ加速器用のトンネルやアクセス用トンネル、測定器を収容する地下大ホールの建設ができることです。
特に、電子と陽電子を精密衝突させ、その結果を測定するためには、振動が少なく、硬い安定した岩盤にトンネルを建設できることが条件となっています。

候補地は

世界の候補地は、アメリカのシカゴ近郊や、ヨーロッパではスイスのジュネーブ近郊などです。
アジアでの候補地は公表されていませんが、国内では北上山地のほか、脊振山地(佐賀・福岡県)も候補地といわれています。

北上山地が候補といわれる理由は

北上山地には、本市から花巻市にかけて、50キロメートルに及ぶ、花こう岩の安定した岩盤があります。

このような長距離にわる安定した岩盤が、国内でも評価されています。
また、東北新幹線や東北縦貫自動車道とのアクセスが良く、仙台市の都市機能や東北大学の学術機能と連携することが可能であることなどから、候補地といわれています。

地域への波及効果は

人類の英知を結集して、素粒子物理学の国際的な発展に大きな役割を果たしていくILC。
世界の最先端をいく研究成果が本市を含む地域から生み出されていくことになれば、国際的な学術研究拠点となって、世界各国から1000人を超える研究者がこの地域に常駐することが予想されます。
また、ILCは新材料、超精密加工、超伝導技術など極限技術を駆使してつくります。

それらの技術は、IT、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、医療、環境などのさまざまな先端的研究分野にも応用可能であることから、新たな産業の創出や関連産業の立地などを通じて、地域の経済活性化につながっていくことが期待されます。

安全性は

ILCは、原子力の実験や地下で爆発実験を行ったりするものではありません。
ドイツのハンブルグやスイスのジュネーブにある海外の大型加速器では市街地の地下をトンネルが通過しています。
国内では現在、大小合わせて1000以上の加速器が稼働。

国内で最大の加速器がある茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構でも、十分な安全対策が図られています。

市の活動状況は

今後、政府としての誘致に向けた正式な決定や関係各国との調整が必要になることから、その動向を注視している段階です。
市は、岩手県や東北地方の産学官連携組織である東北加速器基礎科学研究会などと連携しながら、情報収集に努めます。
そのほか、ILCに対し理解を深めるため、子供たちが最先端科学へ触れる機会の確保など、普及啓発活動を推進します。

高エネルギー加速器研究機構(KEK) 

つくば市の高エネルギー加速器研究機構の地下にある加速器高エネルギー加速器研究機構(KEK)

茨城県つくば市の東京ドーム約33個分の広大な敷地に、1周3kmの円形加速器などの実験装置があります。

この施設は、アジアにおける高エネルギー物理学、加速器研究の中心機関で、ILC推進においても中核的役割を果たしています。
この加速器を使って、素粒子研究、物質構造研究を行い、世界中から300人もの研究者が集まり、共同利用を行っています。

ノーベル賞を受賞した「小林・益川理論」は、この施設の加速器が証明しました。

(写真提供:KEK)

地質調査にご協力を!

岩手県と東北大学は、8月から12月にかけて、大東地域の2カ所を含む県内3カ所で、地質調査を行います。

ボーリング調査や、起振車と呼ばれる車両で地面を叩き、その振動を観測する調査などを行います。
周辺の住民の皆さんには、調査の概要などをチラシなどでお知らせします。

問い合わせ先

本庁企画調整課 電話21-8641

(広報いちのせき 平成22年8月15日号)