奥深い書の歓楽
筆技で描写し、美を追う

多田香邨(こうそん)(本名良吾(りょうご))さん(75)=市内真柴=は現日会に所属する書道家だ。

今年3月、書道作品「登高」が在クロアチア日本大使館に収蔵されるとの通知が舞い込んだ。
現地で催される文化交流事業や今後の日本文化を紹介する際に大きな役割を果たす貴重な芸術作品として活用される。

きっかけは、2010年10月から11月にかけて行われた第2次ヨーロッパ巡回展「日本現代書展」。
クロアチア共和国とポルトガル共和国を回った。
書道ジャーナル海外文化事業団の推薦を受けて出品した同作品。
詩人・杜甫(とほ)の詩「登高」を書家・良寛(りょうかん)風に行草体で仕上げた。

海外への出品は今回が初めて。
作品は文学ではなく、芸術作品として他国の人が見てどう評価するか狙って書いたという。
線の太細や文字の大小など変化を持たせ、立体的に動きのある作品となった。

香邨さんは1961年一関工業高校の教諭に転進。
「教師ならばしっかりとした字を書け」と父から助言を受け、65年に墨心会主宰の梅津鳴上(めいじょう)氏に師事。
書道の勉強をしながら、書道部の顧問を並行した。

書道家としての芽が出始めたのは、65歳を過ぎてから。
「書いても書いてもいい結果が出なくて」と長年の苦労を振り返り、35年もの下積み期間を経て得た功績を噛みしめた。

「書は、数をこなせば書けるものではない。作品を構築してから書く。頭に描いた通りにできるまで試行錯誤する面白さがある」と書道の魅力を話す香邨さん。
現在は、年間10もの展示会に出展。
「書は奥が深いから飽きない」と、筆を執り続ける。

1中国の詩人・杜甫の詩「登高」を江戸時代の書家・良寛風に仕上げた。文字の自然な動きと筆触を追い求めた作品だ

2トップウェルネス(地主町)の書道教室で指導を行う

3思い描いた書を描写するため筆を執る
 

1_中国の詩人・杜甫の詩「登高」を江戸時代の書家・良寛風に仕上げた。文字の自然な動きと筆触を追い求めた作品だ

2_トップウェルネス(地主町)の書道教室で指導を行う

3_思い描いた書を描写するため筆を執る

PROFILE多田香邨(良吾)

多田香邨(良吾)
1935年北上市生まれ。
大学卒業後、企業勤めを経て、一関工業高校電子科の教諭に転進。
65年墨心会主宰の梅津鳴上氏に師事。
現日会同人。
安芸(あき)全国書展、東京書作展の審査会員を務める。
市内真柴在住。
75歳

広報いちのせき「I-style」5月1日号