辺り一面が緑に囲まれた環境での体験は全てが新鮮。
農家の日常、農業の厳しさ、家族の優しさを肌で感じた。

1菅原さんのリンゴ園で摘花作業する生徒たち

都会の喧騒を離れ、農家の日常を伸び伸び体験
リンゴ園に、にぎやかな声がこだまする

花泉町金沢の菅原隆男さん、やす子さん夫婦の元へ4人の女子中学生がやってきた。

初対面。
緊張の面持ちであいさつする子供たち。
照れ隠しだろうか、玄関先で飼いネコとじゃれる。

「どうぞ、入って」

やす子さんに誘導され、遠慮がちに家の中へ。
自己紹介も早々に、手作りの100%リンゴジュースをふるまわれる。
市販のものとは違う濃厚で深い甘味に感激。
表情が和らいだ。

4人がこれから3日間過ごす菅原さん宅は、リンゴやナシなど20種類以上の果実を栽培する「菅原園」を経営。
彼女たちに任された仕事は「摘花」。
リンゴの着果を促して果実の発育を助ける「間引き」作業だ。

初めてリンゴの木を見た4人。
やす子さんにどうして摘花が必要なのかを教えてもらう。
早速、見よう見まねで摘むべき花を見極める。
今年のリンゴの収穫を左右する重要な作業だけに、慎重に見守るやす子さん。
だが、のみ込みの早い4人に、心配はすぐになくなった。

作業を進める生徒の一人が歌い出す。
するとすぐさま4人で合唱が始まる。
ぽかぽかの日差しが射し込む5月の果樹園に、若い歌声が響き渡る。

夕方、作業を終えると、待ちに待った晩ごはん。
今夜のメニューは、採れたての野菜をふんだんに使った田舎料理だ。
野菜は全て自家栽培。
色とりどりの具材でテーブルいっぱいに並んだ料理を目の前に歓声が上がる。

「おいしい」

彼女たちの箸は止まらない。

普段はあまり食べないという子でさえも、どんどん進む。
大勢で囲む食卓はにぎやか。
笑顔があふれ、会話が弾むから、おいしいものがますますおいしくなる。

温泉が豊富な岩手県。
「あまり行ったことがない」という彼女たちのために、夜はちょっとサービスして市街地の温泉へ。
貸し切り状態の大きなお風呂で大はしゃぎ。
箸が転んでもおもしろい年頃。
田舎で過ごす15の夜は、にぎやかに更けていった。

農家の日常を
そのまま体験してもらう

田植え、家畜の世話、野菜や果実の栽培、郷土料理―。

生徒たちが体験したのは、受け入れ農家の日常。
昼夜分かたず田んぼの水に気を配ったり、早朝から家畜の世話をしたりという日常。
ごはんの基本は、白米と味噌汁。
決して特別なプログラムではない。

そう、農家の「ありのままの日常」を体験してもらう、それが花泉地域のグリーン・ツーリズムのこだわりだ。

自然と体当たりの3日間
食への感謝を肌で知る

普段、私たちが食べている食材が、どれだけ多くの手間を掛けて作られているかを、どれほどの人が知っているだろうか。

栽培の苦労や飼育の難しさは、教科書やマニュアルだけでは理解できない。
生徒たちは、実際の作業を通して農作物を育てることの大変さを肌で感じた。
一生懸命働いた後にいただくごはんに感謝した。

農作物は、春に植えて秋にようやく収穫できる。
どんなに愛情を注いで育てても、天候によって出来が左右されるなど、マニュアル通りにはいかない。
自然と向き合う農業は、体当たりで取り組むからこそおもしろい。

温かい田舎の家族
花泉が第二の古里に

うれしい出会いがあれば、さみしい別れもある。

最終日の5月18日、正午から花と泉の公園「れいなdeふろーれす」でお別れ式が行われた。
色鮮やかなベコニアに囲まれながら、受け入れ家族と最後の会話を交わす生徒たち。
あふれ出る涙が、彼らの心を揺さぶる旅であったことを物語る。

今回訪れた112人は家庭環境もさまざまだ。
朝食はパンとコーヒーだけ、夕食は塾からの帰宅途中にコンビニや飲食店で、という生徒が、ここでは何度もおかわりをした。
地元の食材をふんだんに使った田舎料理がおなかを満たしてくれた。
大家族で囲んだ食卓が心を豊かにしてくれた。

初めて農作業を体験した2泊3日の修学旅行は、家族の温かさに触れた旅でもあった。
生徒たちの心の中に、第二の古里が生まれた。

2孫の結人くんは大喜び3菅原さんのリンゴ園で摘花作業する生徒たち4リンゴの花5バスが見えなくなるまで手を振り続ける受け入れ農家の皆さん
6お別れ式終了後、最後の言葉を掛け合う7涙の別れ。バスから手を振る諏訪中生
8受け入れ農家の家族と対面。雑談で緊張をほぐす
1、3)菅原さんのリンゴ園で摘花作業する生徒たち
2)「おねぇちゃんがやってきた」。孫の結人くんは大喜び
4)リンゴの花。果実の発育を助け、着果を促す間引きが行われる
5)別れの時。バスが見えなくなるまで手を振り続ける受け入れ農家の皆さん
6)お別れ式終了後、最後の言葉を掛け合う
7)涙の別れ。バスから手を振る諏訪中生
8)受け入れ農家の家族と対面。雑談で緊張をほぐす

広報いちのせき「I-style」11月1日号