岩手南肥育牛生産部会 高泉茂美部会長

一連の放射性セシウム問題で
市内の畜産農家は大きな打撃を受けた。
そんな中、逆境に屈することなく
固い絆で前に進む岩手南肥育牛生産部会。
高泉茂美(しげみ)部会長に話を聞いた。

高泉茂美さん
高泉茂美さん 1950年花泉町生まれ。
73年肥育牛の生産を始める。09年岩手南肥育牛生産部会長。
品質に絶対の自信を持つ「いわて南牛」の生産と販路拡大に奔走する毎日。
妻、母と3人暮らし。花泉町金沢在住、61歳

高い実績を誇るブランド

岩手南肥育牛生産部会(会員28人)部会長の高泉茂美さん(61)=花泉町金沢=。

09年から同部会長として、ブランド「いわて南牛」の普及、発展に力を注いできた。

「いわて南牛」は、08年の全国肉用牛枝肉共励会(和牛雌部門)で最優秀賞を受賞したJAいわて南とJAいわい東の統一ブランド。
その肉質と風味は、舌のこえた東京人さえもうならせる。
10、11年は上物率(出荷した枝肉のうち、A4、A5ランクが占める割合)で近隣の銘柄牛を上回り高い評価を得ている。

全戸検査と全頭検査

2011年3月11日―

巨大地震と大津波が東日本の広い範囲を襲った。
誘発された原発事故で放射性物質が大気中に放出され、風に乗って各地に広がった。

国は同年8月1日、牛の飼料である稲わらが放射能に汚染されている可能性があるとして、岩手県内で飼養されている全ての牛に出荷制限を指示した。
同月25日に国の指示は一部解除された。
しかし、肥育農家には一農家から一頭だけを検査する「全戸検査」と、飼養する全ての牛を検査する「全頭検査」が義務付けられた。

全戸検査対象農家は、県内で検査され、基準値を下回った場合、他県へ生体での出荷が認められる。
全頭検査対象農家は、県内での食肉処理を基本とするが、他県で受け入れを許可した場合に限り、生体で出荷することができる。
どちらの検査を受けるのかは、稲わらの放射性セシウム濃度で分けられる。
同部会員の3分の2は全戸検査を、茂美さんを含む3分の1は全頭検査を受けた。

検査の結果、全戸検査だった部会員はいずれも規制値を下回り、9月から出荷を再開できた。
だが、全頭検査を受けた茂美さんたちは基準値を下回ることができなかった。

餌だけを与える毎日。
出荷適齢期を過ぎた牛がどんどん増えていく。
農家の意欲は日に日に奪われていった。

「肥育農家本来の仕事ができなかった」と茂美さん。
つらく、苦しい冬を迎えた。

逆境乗り越える力の源

全頭検査の対象で2月まで出荷できなかったのは茂美さんら3人。
同じ部会員でも置かれた立場が違う。
「部会がバラバラになってしまうのでは」。不安は募る一方だった。

そんな矢先、出荷できる部会員から「部会は一つだ。一緒に頑張ろう」と背中を押された。

「うれしかった。本当にうれしかった」と茂美さん。
部会の固い絆は、逆境を乗り越え、前進する大きな力になった。

2月17日、ついに全頭検査の結果が出た。
不検出―
胸をなでおろした。

「これまでもBSEや口蹄疫など、大きな苦難を乗り越えてきた。そのたび、どん底からはいあがってきた。こうした経験と信頼できる仲間の支えが強い部会を作り上げた。すばらしい仲間たちです」

茂美さんは力を込める。

地産外商と地産地消

枝肉の価格は下落している。
長引く景気の低迷だけでなく風評被害が大きく影響しているという。

いわて南牛のほとんどは首都圏に出荷されている。
「地元の人に愛されてこそ本当のブランド。(いわて南牛を)市民に理解してもらうには、食べてもらうしかない。ブランドというと高価なイメージがあるが、良質なものを手頃な価格で提供する、それが新しいブランドスタイル。地産外商と地産地消の両輪で販売を展開したい」と確固たる決意で前を見る。

畜産を取り巻く情勢は厳しいが、風評被害や不景気に屈しない足腰の強い農家を目指す。
「要求だけでは進まない。自分たちができることは自分たちで行う」。
困難と正面から向き合う。

「いわて南牛レストランin 一関
いわて南牛のブランド強化と地元での消費拡大を目指し、千厩町のマリアージュで2月16日行われた「いわて南牛レストランin 一関」。
市内外から訪れたおよそ200人が、一関が誇るブランド牛のうまみを体験

市が放射線測定器を個人へ貸し出し
事前予約が必要

放射線測定器市は、放射線測定器を5月10日から個人にも貸し出します。
同測定器は昨年11月から自治会などへ貸し出しているものです。
貸し出し期間は平日の1日だけで8時30分から17 時まで。
事前に予約(電話)が必要です。
市役所本庁または各支所の窓口にある所定の用紙で申請してください。

  • 貸し出し機器…堀場PA-1000Radi
  • 運転免許証などの身分証を提示の上、測定器を受け取ってください
  • 貸し出し窓口…本庁放射線対策室0191-21-2111/花泉支所地域振興課0191-82-2211/大東支所地域振興課0191-72-2111/千厩支所市民課0191-53-2111/東山支所市民課0191-47-2111/室根支所地域振興課0191-64-2111/川崎支所市民課0191-43-2111/藤沢支所市民課0191-63-2111

シイタケの放射能問題
東京電力が3市1町連名の緊急申し入れに対し回答

東京電力からの回答書を受け取る勝部市長
東京電力からの回答書を受け取る勝部市長

市は平泉町、奥州市、大船渡市と連名で3月7日、東京電力(株)に対してシイタケ生産に関する緊急申し入れを行いました。
申し入れ事項は▼迅速で万全な損賠賠償の実施▼産地としての生産復興に対する賠償―で責任ある迅速な対応を求めました。

これに対し、東京電力福島原子力被災者支援対策本部東北補償相談センターの小松日出夫(ひでお)所長らは4月23 日、市役所を訪れ、西澤俊夫社長名の回答書を勝部市長に手渡しました。

回答書には▼使用できなくなった原木、ほだ木の残存価値相当額と本来生産で得られるはずだった利益相当額を先に示したとおり賠償する。除染対策費用、掛かり増し費用や汚染されたほだ場の除染費用について、原子力損害賠償紛争審査会が示した「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」を踏まえ、必要かつ合理的な範囲で適切に対応する▼ほだ場の賠償方針を踏まえ、適切に対応する-と記載されていました。

原木、ほだ木の残存価格と本来の得られるはずだった利益相当額について、賠償する旨が明記されていましたが、その他については具体的内容に踏み込んだものではありませんでした。

回答書を受け取った勝部市長は「中間指針が示されたのは昨年8月。現在の状況とは大きく違う。中間指針にとらわれず、適切かつ柔軟な対応をしてほしい」と回答に不満を表明。
続けて「農家は出荷活動ができないのに生産し続けなければならない状況にある」と窮状を訴え「現地に足を運び、農家・生産者の声を聞いてほしい。生産意欲が失われないようしっかり対応してほしい」と求めました。

広報いちのせき「I-Style」 平成24年5月15日号