令和6年度教育行政方針
時枝直樹教育長が令和6年2月20日、令和5年一関市議会定例会第109回2月通常会議で述べた教育行政施策の要旨をお知らせします。
1.はじめに
◆今日の教育を取り巻く社会環境は、急激に変化してきております。市内の人口減少は進行しておりますが、学校を見ると、令和5年度の中学3年生は890人、小学1年生は666人であり、子どもにおいてより顕著に現れてきております。そのような中で、令和5年度から小中学校数が35校に変化しています。
この子ども減少の時代にあって、世の中をたくましく生き、地域の未来を切り開く人材の育成は一層重要であり、その使命を教育は担っております。環境や平和など地球的規模の視点で求められる持続可能な社会に向けた考え方、キャリア教育や文化財保護活用など地域にどう関わりどう貢献していくのかの姿勢、特別支援や不登校への多様性を踏まえた個別最適な学びなど、教育の質の向上が一層求められてきております。
これらの教育への社会的要請に応え、一関の持続的な発展を支えていくために、子どもたちがふるさと一関に誇りと愛着を持ち、知徳体の資質を兼ね備えた地域を支える人間に成長するよう、生涯学習の機会を充実させながら、教育行政を推進してまいります。
2.重点的に取り組む施策(重点プロジェクトなど)
◆教育振興基本計画後期事業計画の4年目となる令和6年度は、計画の目標に掲げた「学びの風土を礎に 心豊かにたくましく 郷土の誇りを未来につなぐ 一関の人づくり」、この実現に向けて、四つのプロジェクトを重点としながら、引き続き計画を着実に推進してまいります。
それでは、四つの重点プロジェクトから、申し上げます。
(1) ことばを大切にする教育プロジェクト
◆一つ目は、「ことばと読書」、「ことばの響き」、「ことばの先人」を柱として、子どもたちに、語彙の豊かさ、ことばの感性、心の豊かさを育むことを目指す「ことばを大切にする教育プロジェクト」であります。
「ことばと読書」については、公立図書館との連携を図りながら学校図書館システムの活用を進め、読書の楽しさにふれさせてまいります。
「ことばの響き」について幼稚園などでは、「ことばの時間」に響きやリズムのよい詩や諺、絵本の読み聞かせなどに楽しみながら触れさせてまいります。
小学校では、市が独自に作成した「ことばのテキスト『言海』」を用いて、児童がことばのリズムや響きを十分に感じながら音読・素読に取り組み、一層の質の向上を目指しながら、ことばの感性を高めてまいります。
「ことばの先人」については、「ことばのテキスト『言海』」の先人ページを取り上げること、また、博物館学芸員が小学校において、ことばを通じて人々に大きく影響を与えた先人を学ぶ授業を行うことにより、郷土の歴史に対する理解を深め、郷土への誇りを育んでまいります。
これらの取組を通して、ことばを大切にしたコミュニケーション力も高め、子どもたちが望ましい人間関係を構築できるようにしてまいります。
(2) グローバル人材育成プロジェクト
◆二つ目は、グローバル化していく現代社会に対応できる人材の育成を目指す「グローバル人材育成プロジェクト」であります。
キャリア教育については、「地域に学び、地域で育てる」という視点に立って、全ての中学2年生が5日間の社会体験学習に取り組んでまいります。
また、中学生最先端科学体験研修や小中学生を対象とした英語の森キャンプの実施、外国語指導助手(ALT)の派遣などを進めてまいります。加えて、英語検定料補助を通して、英語の力を高めようとする中学校生徒を支援します。
さらに、GIGAスクール構想に基づき導入した1人1台タブレット、および大型提示装置の有効活用を推進するとともに、統合型校務支援システムの本格稼働により、学校のICT環境の充実と教職員の校務負担軽減を進めてまいります。
そして、当市教育の特色でもある、小学校での「ことば」の学び、中学校での社会体験学習での学びを通して、グローバル化する社会にあっても、故郷に根づくアイデンティティおよび地域を考え、大切にする教育を展開してまいります。
(3) 学校と地域の協働推進プロジェクト
◆三つ目は、地域とともに歩む学校を目指す「学校と地域の協働推進プロジェクト」であります。
学校からは、学校の情報や活動の様子をホームページなどで発信するとともに、学校運営に保護者や地域住民が関わるなど、地域社会全体で子どもたちの健やかな成長を育む取組を進めてまいります。
そのため、令和4年度から既に市内9校に学校運営支援協議会、いわゆるコミュニティ・スクールを先行して設置し、育てたい子ども像を地域と共有し、学校の支援に向けて協働してきたところですが、令和6年度においては市内全ての小・中学校において設置することとしております。
(4) 世界遺産拡張登録推進プロジェクト
◆四つ目は、骨寺村荘園遺跡の世界文化遺産拡張登録を目指す「世界遺産拡張登録推進プロジェクト」であります。
今回、文化庁に提出する推薦書案に骨寺村荘園遺跡を加えることはできず、世界遺産拡張登録に向けた取組は一つの区切りを迎えるものでありますが、引き続き調査研究を継続して、資産の価値向上に努めてまいります。
本寺地区の地域づくりについては、地域住民と話し合いながら進め、支援を検討してまいります。
(5) 教育環境の充実
◆子どもの数が年々減少している状況にあることから、引き続き保護者や地域の方々へ今後の児童生徒数の推計などを示しながら、学校規模の適正化について考えてまいります。
また、学校施設の老朽化の状況などを踏まえ、より良い教育環境を確保するため、一関地域においては、一関小学校の校舎などの改築に係る設計を進めてまいります。そのほかの学校については、施設機能の維持と環境に配慮した補修・改修を行ってまいります。
(6) 学校部活動の地域移行
◆生徒数の減少や教員の働き方改革などの状況の変化を見据え、望ましい部活動の環境を構築し、持続可能な部活動を実現するため、学校部活動から地域部活動への移行を推進します。
令和5年度から3つの地域部活動(全日型)、15の地域部活動(休日型)が活動を始めており、今後も、地域で指導者などの体制が整った学校部活動から持続可能な活動へと移行します。
以降については教育行政の具体的な施策について、教育振興基本計画に定める施策の基本方向に沿って申し上げます。
3.教育行政の具体的な施策
1.社会を生き抜く力を育む学校教育の充実
一つ目に「社会を生き抜く力を育む学校教育の充実」について申し上げます。
(1) 確かな学力の育成
◆確かな学力の育成については、算数・数学を重点教科に位置づけ、学習支援員の配置による指導を行うほか、基礎計算力、集中力を高めるために、百ます計算を取り入れたり、「漢字・英語力だめし」を実施したりすることで、児童生徒の基礎学力の向上を図ってまいります。
また、これら基礎学力を土台として、授業とは別に、算数・数学の面白さに触れさせたり、アートワークショップを通じて個性を輝かせたりするなど、学びを深める事業にも取り組んでまいります。
(2) 豊かな心の育成
◆豊かな心の育成については、あらゆる教育活動の土台となるものであり、特別の教科道徳を要として、学校の教育活動全体を通じて指導にあたってまいります。特にも、道徳科の授業では、よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を広い視野から多面的・多角的に考え、自己の人間としての生き方について考える道徳科を推進してまいります。
このほか、積極的に自然体験、社会体験を取り入れ、SDGsの理念とも関連させながら、福祉やボランティア活動などを通して社会に関わる心構えや姿勢を培ってまいります。
(3) 健やかな体の育成
◆健やかな体の育成については、保健面からは、子どもたちがバランスの取れた食事や規則正しい生活など、望ましい生活習慣について考え、実践していく取組を推進してまいります。
運動面からは、体育授業の充実のほか、家庭と協力しながら1日60分以上の運動、いわゆる「60(ろくまる)運動」など、日常的に運動の機会を確保する取組を推進してまいります。
中学校の部活動および地域部活動については、引き続き休養日と活動時間の基準を位置づけ、平日週1日と日曜日を休養日に設定し、健康や生活とのバランスにも配慮した活動を推進してまいります。
(4) 学校給食
◆学校給食については、急激な物価上昇に伴う食材費の高騰分について引き続き補填しながら、安全・安心な給食の提供に努めるとともに、望ましい食習慣の形成に向けた食育指導を充実してまいります。
また、給食の食材生産現場の見学や、地場産食材を使ったレシピコンテスト、野菜ソムリエなど外部講師による地場産食材を使った調理実習の指導など、郷土愛を育む事業も引き続き推進してまいります。
(5) 社会の変化に応じた教育
◆社会の変化に応じた教育については、職業観・勤労観の育成を図りつつ、地域を知り、地域の方々から学ぶ地域に根差したキャリア教育を、発達段階に応じて推進してまいります。
また、1人1台タブレット端末や大型提示装置などのICT機器を効果的に活用した授業を展開し、児童生徒の確かな学力や、情報活用能力などの資質・能力を育成してまいります。そのために、ICT指導員やICTサポーターを中心に、教員のICT機器活用能力の向上を図ってまいります。
さらに、令和元年度から開催している小学校高学年を対象とした「いちのせきITキッズ育成プロジェクト」事業を今年度も展開し、ICTに関する知識および技能を身に付け、自分の進路選択や地域社会にいかすことのできる人材の育成を進めてまいります。
(6) 特別支援教育
◆特別支援教育については、支援を要する子どもの割合が増加傾向にあることから、特別支援に関する研修を充実させ、各学校の教育相談・就学相談体制の充実を図るとともに、小中学校には引き続き学校サポーターを配置し、一人ひとりに応じた支援を推進してまいります。
(7) 不登校対応
◆不登校については、年間30日以上の欠席である不登校児童生徒の割合が年々増加し、その理由や背景は複雑化しております。各学校では家庭との連携を緊密にし、安全・安心な学びの場としての学校づくりを推進していくことを重点に、未然防止や早期対応の取組を進めてまいります。
また、不登校児童生徒に対しては、状況を踏まえて対応する適応支援相談員を活用するなど、相談活動を充実させてまいります。
別室登校、タブレットの活用、教育支援センター「たんぽぽ広場」における学習支援と交流体験活動、そして、民間施設との連携などを進めてまいります。
さらに、多様な学びの場についての各種相談窓口の周知も進めてまいります。
(8) いじめ対策
◆いじめへの対策については、各学校で策定した「いじめ防止基本方針」に基づき組織的に対応し、いじめの未然防止・早期発見・早期対応に努め、関係機関との情報共有や連携を強化してまいります。
(9) 幼稚園
◆幼稚園については、幼稚園教育要領で重点とされている「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」を念頭に、小学校との連携を踏まえ、引き続き教育研究に関することについて支援してまいります。
(10) 学校安全
◆日常的には地域ボランティアなどの見守り活動の協力をいただきながら、また、熊の出没や地震などの緊急時には、各学校で作成している危機管理マニュアルに則して児童生徒の安全を確保するとともに、感染症の拡大や学校事故の発生など緊急時における対応について指導してまいります。
(11) 教職員の働き方改革
◆教職員の働き方改革については、業務内容の見直しや勤務時間を意識した働き方を進めるなど長時間勤務の是正を図り、授業準備や、個別指導のための時間などを確保するとともに、教職員がワークライフバランスを意識し、いきいきと仕事に向かうことができるよう改善を進めてまいります。
また、統合型校務支援システムの運用開始により、事務の効率化を図り、子どもと向き合える時間を作ってまいります。
2.ともに学び、まちとひとをつくる社会教育の推進
二つ目に「ともに学び、まちとひとをつくる社会教育の推進」について申し上げます。
(1) 社会教育
◆社会教育については、市民が生涯にわたって自ら学ぶことができるよう、ニーズに対応した市民センターなどでの講座を企画するなど、多様な学習機会を提供してまいります。
また、市民センターでは社会の変化に応じて必要な現代的課題について、テーマに沿った共通取組を実施することとしており、令和6年度は男女共同参画の推進についてのテーマを設け、取り組んでまいります。
さらに、これらの取組や地域づくり活動にいかすため、指定管理を行っている市民センターの職員が社会教育主事講習を受講する際の費用などについて支援してまいります。
(2) 家庭教育
◆家庭教育については、少子化、核家族化、人間関係の希薄化などにより、家庭や地域社会における教育力の低下が指摘されていることから、学校、PTA、地域、企業、行政が連携、協力し、家庭教育講演会などによる学習機会や学習情報の提供を行います。
また、市民センターを中心に家庭教育学級や子育て支援講座などを実施し、家庭でのルール作りやコミュニケーションづくりなど家庭教育を支援してまいります。
(3) 図書館
◆図書館については、市全体の貸出冊数が県内の自治体で最多となっており、多くの方々に利用されているところであります。
令和6年は一関市立図書館100周年、一関図書館新館10周年の節目の年であることから記念事業を開催するとともに、引き続き、デザイナー・造本作家の駒形克己さんを講師に迎え、イタリア・ボローニャ国際絵本原画展への出展を目指して実施中の絵本作家養成講座を続けるほか、学校図書館への支援や、乳幼児に対する読み聞かせを行います。
また、老朽化した移動図書館車を更新するとともに、移動図書館車によるサービスを新たに花泉、千厩、川崎地域に拡大し、館外サービスにも引き続き取り組んでまいります。
今後も、市内8館が地域の特色をいかした図書館サービスの向上に努めるとともに、電子書籍やオンラインデータベースなどによる読書環境のさらなる充実に努め、市民が集う地域の情報拠点としての役割を一層高めてまいります。
(4) 博物館
◆博物館については、市民はもとより、周辺市町村をはじめとして全国各地からの入館者もあるなど、当地方における歴史や文化に対する関心の高さがみられることから、更なる運営の充実に努めてまいります。
令和6年度は江戸時代に当地方を治めた一関藩、仙台藩の江戸屋敷に関する特別展などの展覧会の開催のほか、各種講座、体験学習など事業の充実に努めてまいります。
また、重要文化財の大槻家関係資料については、計画的に修復を行ってまいります。
併せて、民俗資料館、芦東山記念館、石と賢治のミュージアムおよび大籠キリシタン殉教公園についても、企画・展示の充実を図るなど、身近な場所で地域の歴史・文化が学べる場を提供してまいります。
3.誇りと愛着を醸成する文化の継承
三つ目に「誇りと愛着を醸成する文化の継承」について申し上げます。
(1) 文化財の保護
◆文化財については、歴史や文化の調査研究を進めるとともに、修繕や保護活動への助成などにより、地域の文化財を良好な形で後世に伝えてまいります。
また、市の広報誌などを活用した情報発信や標柱解説板整備を継続的に行い、地域の財産である文化財への理解促進と保護意識の啓発に努めてまいります。
(2) 地域文化の伝承
◆地域文化の伝承については、民俗芸能の調査研究を進めるとともに、後継者育成支援や活動状況の映像記録、保存を継続的に行い、継承活動を支援してまいります。
令和5年度に作成した「大槻三賢人」を題材とした偉人マンガを活用し、学校教育や生涯学習において身近に学ぶことができるよう機会の提供を図ります。
4.おわりに
以上、令和6年度の教育行政施策の概要を申し上げましたが、これらは、一関市教育振興基本計画後期事業計画に基づいて計画的に進めるものであります。
現在進めている施策や業務については、スクラップアンドビルドの原則に立ち、より効果的で真に必要なものに精選していく、不断の見直しの視点も大切にしてまいります。
また、各施策の推進にあたっては、学校、家庭、地域、企業、行政が共通理解のもと、当市の教育行政に携わる全ての関係者の連携・協働が必要であります。
教育委員会といたしましては、地域資源をいかした教育行政施策を進め、郷土の誇りを未来に引き継ぎ、新たな創造を加えてまいりたいと考えておりますので、議員各位並びに市民、教育関係者の皆さまのご理解、ご協力、ご指導を心からお願い申し上げます。