平成17年度出題問題②[中級問題]&解答例
3つの正方形B、C、Dの1つの頂点が直線上にあり、その上に正方形Aが図のように載っています。
いま、正方形Bの1辺の長さが1cmのとき、正方形Aの1辺の長さを求めてください。ただし、両側の正方形C、Dは、同じ大きさです。
※『算法新書』(千葉胤秀(ちば たねひで)編、文政13(1830)年刊行)巻の二にある問題です。
審査員講評
中級へは85名の方から101件の解答を頂き、正解は73、誤答は11、答は合っているが証明が不完全なものが17件でした。
本年度の中級問題は明確な図形のためか取り組みやすかったのではないでしょうか。
このためか解答も各種あり大きく4つぐらいに分けられるようです。興味深い解答が多かったため採点する苦痛より楽しみが大きかったと思います。
(1) 初等的扱いでアプローチしたもの
(合同,相似,三平方の定理,円周角…)
(2) 初等的扱いでアプローチしたもの
(垂線を補助線とする,図の回転…)
(3) 座標を導入したもの
(4) その他(複素数を利用,ベクトルと内積,余弦定理使用)
この分野は高校で現職として指導されている方が中心でした。
解の図では「なんとなく交わりそうだ」「何となく45°になりそうだ」というような直感も大事ですがこれをきっちり説明しなければ正解につながらないので注意したいところです.図の対称性まで証明した完全解が1名あり感心致しました。
応募者の所感にはいつも楽しませて頂きますが今回もそうでした。分からなくて苦しむそして解いたときの感動・その後の充実感,実際解いた方でなければ味わえません。「小学校・中学校・高等学校と算数・数学が嫌いで苦手でした。それなのに50歳を迎えた今頃になって,強制された訳でもなく,嫌なら考えなくてもいいこんな問題に,一生懸命になっている自分が不思議でなりません。目覚めるのが遅すぎたか…」”興味を持つことこそが学習の原点である”と実感いたしました。有り難うございました。
解答例
解説
この問題が掲載されている『算法新書』巻の二の原文をみてみましょう。
『算法新書』巻の二の「容術」の項、25問のうちの12問めにあります。容術の「容」は、内接するという意味で、容術は、多角形、円等に直線や図形を内接させた問題です。和算では、容術が大きな部分を占め、特に算額の問題は、容術の問題がほとんどです。今回の上級問題も容術の問題です。
線上に図のように、元・亨・利・貞の4つの正方形(方)を載せる。正方形亨の一辺が1寸のとき、正方形元の一辺を求めよ。
答え 元の一辺は2寸である。
術 亨の一辺の長さを2倍すれば元の一辺の長さとなる。
※「算法新書」では、両側の利・貞の正方形を等しいとはしていません。等しくない場合でも、元と亨の関係は変わらないことを次のように解説しています。
解 2つの正方形利・貞は、特に長さを与えられていないので、その大きさを変えることができる。正方形利をだんだん大きくしていくと、貞と同じ大きさになる時がある。この時、利の大きさは最大で、貞の大きさは最小で、元と亨の対角線は一直線になる。「利方多極図」の図のとおり。
この図により亨の一辺の長さの2倍は、元の長さとなることが明らかである。
☆この部分を現代数学で説明を加えると・・・
次に正方形貞を大きくしていくと、貞の大きさが最大のとき、利の大きさは最小となり、各辺が接して長方形(直)となる。上の図の頂点(四隅)に甲乙丙・・の干名をつけると、「利方少極図」のようになる。この図からも、元の一辺の長さは亨の一辺の2倍であることが明らかである。