和算に挑戦

平成19年度出題問題②[中級問題]&解答例

 正方形の中に図のように四分円が3個と、等円が2個あります。等円は正方形と四分円に接しています。
・等円の直径が1cmのとき、正方形1辺の長さを求めてください。
・斜線部分の面積を求めてください。
ただし、円周率はπとします。
※嘉永3年(1850)に菅原神社(一関市舞川)に奉納された算額の問題です。

審査員講評

 今回も中級問題には、小学4年生から85歳という高齢の方まで、幅広い年齢層から680件の解答が寄せられました。
 採点には長時間を労しましたが、投稿者の解答作成にあたっての工夫や熱意そして数学的実力が頼もしく感じられる楽しい時間でした。
 投稿者の感想は、「前回より難しい。」「和算の世界に感激した。」「考えることが楽しい問題であった。」「このような難しい問題を解いた昔の人は偉い。」など様々寄せられました。

 この中級問題は、(1)の正方形の1辺の長さは、「円と円の接点は2円の中心を結ぶ線上にある」というと性質とピタゴラスの定理、(2)の面積は円の面積と簡単な三角比、どちらも初等幾何学で解答できるので、中学生でも十分に解答可能な問題でした。(1)は接円、(2)は面積なので解析的な解答も可能です。今回唯一、初等幾何と解析学の積分等を使用した解答が可能な問題であり、皆さんに数学(和算)を考える楽しい時間になったように思われます。
 採点者は、中級問題なので、三平方の定理による解答と高校程度の解析学による解答を用意していましたが、高度な別解も寄せられました。(1)には、解析的に判別式を使用した解答、(2)には、デカルト座標系での積分による解答、境界積分などの解答が寄せられました。
 採点した印象は年齢が高くなるに応じて、正解率が高いということです。また、比較的高齢の方が丁寧に(1)で「円と円との接点は2円の中心を結ぶ線上にある」を証明してから、三平方の定理に入っている方が多くいました。誤答は、(1)では図形の理解不足によるものでした。幾何の問題の解答では接点や角度そして補助線の工夫が重要です。
 採点上、(1)の8cmが誤答でもその値を使用して(2)の値は出ますが、誤答とさせていただきました。
 (1)が8cm、(2)はの両方で正解としました。ただし、(2)を正方形の1辺をxとして表現した解も正しい場合は正解としました。なお、残念なことに、内容的に素晴らしい解答を寄せられた方に、半径を1cmとして計算した方がたくさんいました。和算の問題では、通常、円の場合には『直径』が与えられます。現代数学では、半径で様々な公式が与えられています。数学に習熟しているが故に生じた誤りで残念でした。
 また、解答より解説と表現すべき、丁寧で厳密な解答もあり、感激しました。たくさんの解答と感想を読み、次回も考える楽しい時間を過ごせるような出題をしたいと強く思いました。
 次回も投稿をお待ちします。

(阿部克朗、菅原清市、菅原 通)

 

解答例

 

解説

 中級問題は、一関市舞川(旧相川村)にある菅原神社に嘉永3年(1850)2月25日に千葉胤雪の門人20名が奉納した算額の問題です。この算額は2枚で1組になっており、それぞれ10問ずつ問題が描かれていますが、中級の問題は2番目の額の第2問、佐藤富蔵喜意の提出したものです。算額奉納者の師匠は千葉胤雪ですが、この人は一関の和算家千葉胤秀の高弟です。胤雪の門人が奉納した算額は、他にも各地に残っています。
 算額には次のように描かれています。

 

問題 図のように 正方形の中に象限3個、等円2個を書く。等円の直径が1寸の時、黒い部分の面積はいくらか。

答え 黒い部分の面積は28歩3分・・・(1歩は、本来は1間(60寸)四方の面積を表す単位であるが、ここでは1寸四方の面積を1歩としている。

 27648を平方に開き、これを円周率に80を乗じ(かけ)たものから引き、3で割る。
つまり、

 

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