努力 王国の軌跡

千厩中と藤沢中の全国制覇、清田小の全日本大会3位など、輝かしい歴史を重ねてきた一関のソフトボール。
藤原麻起子、藤野遥香両選手のように将来、世界を目指す子供たちも少なくない。
市ソフトボール協会千葉幸男会長にこれまでの軌跡を振り返りながら、「強さ」の秘密を聞いた。

千葉会長
一関市ソフトボール協会
千葉幸男会長

ルーツは大東で始まった東磐井小学校大会

ソフトボール王国を築いたルーツは、昭和45年の岩手国体当時に大東商工会と摺沢商工青年部が始めた東磐井郡下小学校ソフトボール大会だ。

同大会は東磐井郡内小学校の対抗戦で、全盛時には約30校が参加した大会。
学校の名誉を懸けて東磐井の各校は熱く燃えた。
当時の指導者は「学校の先生」。
ソフトボールを一生懸命勉強し、子どもたちを指導したり、他校の指導者たちと学び合ったりした。
「指導者に優勝旗がついて回る」と言われるほど優秀で熱心な指導者たちも少なくなかった。

子どもたちも、初めからソフトボールをしたかった子ばかりではなく、友達や兄姉の練習について行き、見よう見まねで覚えた子もいる。
指導者の熱意が子どもたちを動かし、その熱意に応えようと子供たちは頑張ってきた。
そして強くなった。
そこには、親子のような愛情と絆があった。

強くなるためには、それだけの指導と練習が必要だ。
ソフトボールに打ち込める環境をつくるために父母、家族や地域の強力な応援があったことも忘れてはならない。
例えば、強豪校と呼ばれる学校は全国どこにでもある。
東磐井のすごさは、地域全体が強いこと。
理由はどの学校も、強くなるための下地がつくられ、熱心な指導者と、それに応えようと頑張る子どもたちが厳しい練習を重ねてきたからにほかならない。
これが、東磐井の強さの源流だ。

同大会は現在、旧一関市や西磐井郡も含めた「一関地方小学校女子ソフトボール大会」として開かれている。
今年43回を数える歴史ある大会は、7月14から16日までの3日間、招待校を含めた18チームが参加して、熱い夏を戦った。
招待チームの中には、先日宮崎で開かれた全日本小学生大会で優勝した鹿沼ベリーズもあり、レベルの高いゲームが繰り広げられた。
 

全国的にも数少ない地域全体が強いまち

今年の「岩手県小学生男女ソフトボール大会」は関小ヤンキーズが優勝し、全国大会でもベスト16に入る活躍を見せた。
小学生の実力は市全域で着実にレベルアップしている。
西磐井勢も東磐井勢に負けないようにと努力を重ねてきた結果だ。
底辺が拡大する一方で、新たな課題も出ている。
少子化が進み、単独でチームを編成できない学校が増えている。
関小ヤンキーズと共に全国大会に出場した「東山レッドウィングス」は、共にメンバー不足だった「長坂レッズ」と「松川レッドウィングス」が一つになって生まれた合同チームだ。
一昨年、そろって全国大会に出場した藤沢と新沼も「FNgirls」として再出発した。
合同チームは、子どもたちの夢をつなぎ、成長の芽を膨らませる少子化時代のスタンダード。
限界を突破する新しいスタイルだ。

小学校で鍛えられた子どもたちは、中学校でも輝きを放っている。
今年は藤沢と川崎が県大会でワンツーフィニッシュし、そろって東北大会へ進んだ。
藤沢は東北大会も制し、全中で16強入りした。
98、99年に千厩が、01年に藤沢が全国制覇を成し遂げるなど、同一地区から3度も日本一を出している。

名門校があって、その学校だけがずっと強いという例はよくあるが、どこが出場しても県を制して、全国大会に出場する自治体は、おそらく日本広しと言えどもそう多くはないだろう。

中学で活躍した選手たちは、市内外の強豪校に進み、高校でもトップアスリートとして活躍している。
その代表が市民栄誉賞を受賞した藤原麻起子、藤野遙香両選手だ。
「熱い指導者に教わり、温かい地域に支えられ、目標になる選手が身近にいるという一関の土壌こそ、JAPANの一員として世界選手権で活躍するメダリストを生み出した。
揺るぎない強さと伝統は脈々と受け継がれている。

一人一人の行動が王国発展の礎となる

ソフトボールは一関の「市技」といえるスポーツだ。
シニア、ハイシニアも千厩クラブや東山クラブが毎年全国大会に出場している。
小中高から一般まで、あらゆる年代が強い地域は全国的にも数少ない。
今後は、現在登録のない小中学校の男子と一般女子の普及に力を入れていきたい。

一関市には優秀なスタッフや審判員も数多くいる。
球場も充実しており、この体制なら全国規模の大会を開催することも十分可能だ。
誘致できれば大きな経済効果も期待できる。
古里の誇りとしての「ソフトボール王国」を存分にPRしながら、まちを盛り上げていきたい。

現在の中2が高3になる2016年に岩手国体が開かれる。
私は県ソフトボール協会の国体担当部長を務めているが、本市から「チーム岩手」のユニホームを着て活躍する選手も少なくないだろう。
全国の強いチームや選手に物おじしないチームをつくりたい。

麻起子や遥香を見れば一目瞭然であるように、一流の選手は人間としても一流だ。
子供たちには、普段からきちんとした日常生活を送ってほしい。
それは指導者や父母にも言えることだ。
ソフトボールは、みんなで守り、みんなで耐えて、みんなで少ないチャンスを得点に結びつける競技。
勝敗に関わらず、全てが人生のプラスになる。
ソフトボールを愛する子どもたちがこんなにたくさんいる一関の協会は、本当に幸せだ。
多くの皆さんに感謝したい。

1ダイナミック 2交流戦
1_千厩町で2月12日開かれた「ソフトボールフェスティバル」でダイナミックな投球を披露する藤原麻起子選手。一流選手とのふれあいに未来のJAPANを目指す子供たちは大喜び
2_藤野遥香選手が所属する日本リーグトヨタ自動車と大学女子ソフトボールの名門東北福祉大が8月6日、一関運動公園野球場で交流戦。レベルの高い試合を地元で見られることもソフトボールの普及発展につながっている

広報いちのせき「I-style」9月1日号