古来の製法で作られた料紙 将軍条目(しょうぐんじょうもくうつし)

徳川綱吉の命令書

【読み下し文】

一、万事、法度の趣、堅く申し付けべき事。

一、喧嘩口論これを停止おわんぬ。若し違犯の族有らば、双方これを誅罰すべし。万一荷担せしめば、其の科本人より重かるべき事。

一、竹木伐採儀并びに押買狼藉停止の事。

一、家中の輩、武具諸道具、其身の心に任すべき事。

一、家僕の儀、譜代に非ざるは、主従相対次第たるべき事。

 右、此の旨を相守るべし。其の外下知状に載する者也。

  元禄十年九月十五日

田村右京大夫とのへ

水谷弥之助とのへ


 元禄15(1702)年9月15日、一関藩主田村建顕(たけあき)が、取りつぶしにされた津山藩の城受け取りの上使(じょうし)を命じられた際に出された徳川綱吉の命令書です。原本には日付の下に綱吉の署名と黒印があるはずですが、使者が文書を開示し、原本を持ち帰って写しを渡すのが慣例であったので、大名家には写ししか残りません。

 料紙(※)は、縦47センチ、横65.5センチと大判で、厚さが約0.43ミリと厚い紙です。クワ科のコウゾが原料で、紙を光に透かすと、簀(す)の跡がわかります。和紙は、竹などを編んだ簀を桁(けた)という枠にはさんで、水に溶かした繊維をすくい、乾燥させて作ります。現在、東山で行われている伝統的な紙漉(かみすき)で使用している簀は、3センチの間に約34本の竹が編まれていますが、この資料の簀跡は10本から11本と少なく、カヤを編んだ簀を用いたと思われます。

 また、この紙はしわ文様のある檀紙(だんし)という紙です。檀紙は、奈良時代にはマユミ(檀)の皮で漉(す)いたともいわれますが、平安時代ごろにはコウゾを原料としています。しわがあることから、繭(まゆ)紙、松皮紙とも呼ばれ、古くは朝廷・幕府の高級公用紙として、現代でも高級な熨斗(のし)袋などに使われます。現代の檀紙が縮緬(ちりめん)状の細かく曲線的なしわであるのに対し、この資料のしわは、大きくて荒々しく直線的です。また、紙の両面に同じしわがあることから、縄につるし干しして乾燥させた時に、紙が収縮して自然にできたしわと考えられます。現代では、板に貼りつけ乾燥させた平らな紙に、人工的にしわ文様をつけています。

 平安時代の文献に陸奥紙(みちのくがみ)という言葉が出てきます。陸奥国(むつのくに)産の紙のことで、檀紙とも呼ばれ、都の貴人たちには白く清らかで、厚くふっくらした紙ともてはやされたようです。産地は多賀城国府周辺から衣川沿岸、また阿武隈川流域とも推測されています。

 この資料は、古来のつるし干しによって作られた厚手の檀紙で、平安時代の陸奥紙を思わせます。(テーマ展3「和紙―その用と美」に展示中)

※料紙 物を書くのに用いる紙

一関市博物館案内
平成18年度テーマ展3 和紙―その用と美

 文字を書き、伝え、遺し、また包装や衣類、建具などさまざまな生活の場面で利用され、日本の文化を支えてきた和紙。多様な和紙の“用”と、その美を感じていただきたいと思います。

 東山和紙の資料をはじめ、和紙のドレスなど多様な和紙製品を展示しています。

  • 会期…3月11日(日)まで(月曜休館)
いわての博物館交流セミナー  岩手の消えゆく草木(くさき)

 通常当館で扱っていないテーマを、他館との交流により提供します。今回は岩手の植物をテーマに、講演会を行います。

  • 日時…3月11日(日)13時30分~15時
  • 講師…鈴木まほろさん(岩手県立博物館専門学芸調査員)
  • 定員…中学生以上50人(先着順・電話で申し込み)

問い合わせ先
一関博物館 TEL 0191-29-3180

 

(広報いちのせき 平成19年3月1日号)