岩手・宮城内陸地震から1年(後編)「市民防災フォーラム」開催

被災対応の課題を共有しまちづくりに役立てよう

 

昨年の岩手・宮城内陸地震からちょうど1年が経過した6月14日、一関文化センターで「市民防災フォーラム」が催されました。
市民、地域、マスコミ、行政のそれぞれが何をすべきか、何ができるのか―
多くの参加者が課題を共有したフォーラムを振り返ります。

「市民防災フォーラム 岩手・宮城内陸地震から1年」は市、県、国土交通省岩手河川国道事務所が主催し、市民や関係機関などから約1000人が参加。基調講演とパネルディスカッションにより大規模災害が起きた時、被害を軽減するため各機関の果たす役割を考えました。
地震による物故者への追悼が行われた後、記録映像「平成20年岩手・宮城内陸地震における土砂災害とその対応」が上映され、「まだ不安定な土砂が大量に残っているので注意深く土砂移動を監視する必要がある」との解説に、参加者は災害復興への思いを新たにしていました。
浅井市長は「関係機関や市民各位の迅速、的確な対応により順調に復旧・復興が進められてきた。被災者の皆さんが一日も早く元の生活に戻れるよう支援を続けていく」とあいさつしました。

齋藤岩手大副学長が講演

齋藤徳美岩手大学理事・副学長

齋藤徳美さん

基調講演・コーディネーター

岩手大学理事・副学長

地震・津波・火山防災システムの構築などを主に研究。工学博士

災害は必ず起こるもの 「減災」への対応が重要
齋藤徳美岩手大学理事・副学長が「岩手・宮城内陸地震から何を学ぶか」と題し基調講演。震源地の栗駒山周辺はこれまで地震が少ないと見られていた地帯だったものの、世界的に見れば地震の多い日本列島であり、いつどこの地域にも起こりうることだったと指摘。その上で「地震の発生予測はできない。いかに被害を減らせるかという『減災』への対応が必要」と語りました。
震源が浅かった今回の地震は、被災地となった栗駒山周辺が火山噴火のたい積物で覆われている中山間地であることから大規模な土砂災害を引き起こしたと解説。「今回のような地震は過去1万年に3回起きている。プレートのゆがみがたまっている地震常襲地帯ともいえ、活断層をいくら調査しても予測は不可能」と述べました。
その意味で、これからの防災対応としては減災への対応が特に重要であり、▼自治体の危機管理対応▼長期的視点で災害に強い地域づくり▼身の周りでの防災▼生活再建―がキーワードと教示。
本市の危機管理の対応を「すばやい対策本部の立ち上げで他地域からの救援を迅速に受けることができた」と評価。長期的視点での災害に強い地域づくりに向けては「防災まちづくりの取り組みは50年後を目指して行うべき」と自治体の根幹政策としての位置付けを求めました。
市民に対しては、身の周りでの防災として「家具の転倒防止対策の実施、ブロック塀の補強、非常持ち出し袋の常備が大切」とし、震災を受けた各地での取り組みも例示し、草の根からの行動を促しました。
そして「生活再建への対応が特に必要。被災者は生活していくための収入を失うことから、被災者支援体制の確立を図らなければならない。自然災害の被災者に充実した公的保障を差し伸べなければならない」と力説。現状では全壊で300万円の住宅補償を、国民が一人1000円を負担すれば、1万人の被災者に対し一人当たり1000万円の援助補償ができる計算だと根拠を示しながら「これまで防災まちづくりで述べてきた自助、共助、公助の掛け声も重要だが、生活再建へ必要なものは資金。公的支援制度の充実がぜひ必要だ」と訴えました。
今後の地震のイメージとしては、「岩手のターゲットは三陸沖地震。宮城県沖地震も30年以内にはほぼ確実に起きる」とし、「阪神大震災の教訓を忘れないことが重要。地盤災害が起き都市部では大規模火災が発生する」と語りました。
震災から1年の節目に当たり、この地震で何を学ぶかと問われれば、「私たちは自然の中でこれまで生かされてきた。今も生かされているし、これからも生かされていく」と齋藤副学長。「自然について畏敬の念を失わず。ただし、恐れず、侮らず」と総括し、「このことをもう1回思い出すべき。これが今回の地震の教訓」と結びました。

6人のパネリストが熱弁

6人のパネリストとコーディネーターが壇上に上がり行われたパネルディスカッション

「岩手・宮城内陸地震を振り返る~自助・共助・公助のあり方について~」をテーマに行われたパネルディスカッション。齋藤副学長をコーディネーターに、佐藤勝雄・前厳美18区行政区長、箱石勝守・市消防団一関第4分団第2部長、宿輪智浩・IBC岩手放送報道局報道部主事、坂本紀夫・副市長、青木俊明・岩手県県南広域振興局一関総合支局長、山本聡・国土交通省岩手河川国道事務所長の6人をパネリストに行われました。
立場の異なる6人が語ったパネルディスカッションの要旨を紹介します。

齋藤徳美岩手大副学長 

一関の災害といえば水害。宮城県沖地震の到来はいわれてきたものの、山間部の直下型地震の発生は誰もが想定していないものでした。地震から1年を契機に、市民、マスコミ、行政の皆さんにこれまでの状況を振り返っていただき、皆さんが体験したこと、そして今後の課題を語っていただきます。

佐藤勝雄・前厳美18区行政区長

佐藤勝雄・前厳美18区行政区長

佐藤勝雄さん

前厳美18区行政区長

平成11年から21年3月まで、厳美18区行政区長

いい天気だったあの日、草刈りをしようと玄関を出ると、ジェット機が来たかのようなごう音が鳴り、立っていられなくなりました。電気、電話、水道などライフラインが止まり、道路は3カ所も寸断されました。住民は公民館に集まって本部と連絡を取り合い、余震が強いため急きょ、ヘリコプターで避難しました。
本寺小に避難してからは、報道各社に県内外に報道していただいたおかげで多くの皆さんから励ましをいただき、勇気をもらいました。本寺小の次の避難先は、なるべく地域のみんなが1カ所に集まって避難勧告解除を待ち、励まし合いたいと厳美公民館山谷分館に移りました。
山谷分館では、報道陣に対して自分が避難世帯の窓口となり、皆の意見を聞いて伝えました。

箱石勝守・市消防団一関第4分団第2部長

箱石勝守・市消防団一関第4分団第2部長

箱石勝守さん

市消防団一関第4分団第2部長

昭和53年一関市消防団入団。同団班長を経て平成17年から現職

実際の災害時は、上からの指示を待ついとまがありません。団員は市民の生命と財産を守ろうと、使命感で即座に被害状況の調査を始めました。道路状況、山崩れ、高齢者など要援護者の安否確認を行い、昨年の6月14日は557人、15日は455人が出動。その後も土砂災害に対する警戒などで、10月まで延べ約1800人が出動。消防団といえば酒ばかり飲んでいるイメージですが、仕事もしていることをお知らせします。
地震当日は地元の警戒をしていたので地元以外のことがわからず、後で祭畤大橋が落ちたことを知った時には、とても驚きました。
団では現在も警戒活動を継続しています。

坂本紀夫副市長

坂本紀夫副市長

坂本紀夫副市長

昭和38年旧一関市職員として採用。産業部長、建設部長を歴任。旧一関市助役、一関市助役を経て19年から現職

地震後すぐ市役所に駆けつけ、対策本部に詰めていました。はじめは宮城県沖地震だとばかり思ってましたが、情報が集まってきたところ厳美の奥が震源とわかり驚きました。本市は水害対応に慣れているので、災害対策本部の設置はスムーズに進みました。
テレビの取材に応じながらヘリコプターのカメラが映す映像を見て、大規模な土砂崩れ、祭畤大橋の落下などに驚きました。矢びつダムより奥は孤立していることがいち早くわかったので、緊急消防援助隊、自衛隊への派遣要請を迅速に行えました。
住民避難後の心配は市野々原地内の土砂ダムです。梅雨に入り大雨が降れば決壊し、昭和22年、23年の水害の再来になると対応に追われました。短い期間で工事が進められたのは関係者の皆さんのおかげと感謝しています。

青木俊明・県南広域振興局一関総合支局長

青木俊明・県南広域振興局一関総合支局長

青木俊明さん

岩手県県南広域振興局一関総合支局長

昭和51年岩手県入庁。環境生活部資源エネルギー総括課長などを経て20年から現職

県は宮城県沖地震だけでなく内陸地震も想定し、防災訓練、建物の耐震化など地域防災計画に基づき着々と準備を進めていました。民間の力も借りる必要があると建設業協会、獣医師会など各業界と災害時応援協定を締結していたので、それらが地震発生直後からの迅速な対応につながったと思います。
応急復旧工事は、土砂ダムなど大規模な現場は国へ要望し国土交通省の直轄に。県は治山工事などを重点的に行ったことで、これらが早期の避難勧告解除につながったと考えます。
想定外だったのは各種視察団への対応。1週間に9団体が来るなど忙殺されましたが、国の財政支援につなげていただくために大切なことだととらえています。
観光産業は、県南だけでなく、県内全体が風評被害を受けました。県として「がんばろう!岩手」キャンペーンでアピールを続けています。

山本聡・岩手河川国道事務所長

山本聡・岩手河川国道事務所長

山本聡さん

国土交通省岩手河川国道事務所長

昭和55年建設省入省。国土交通省土地・水資源局水資源部水資源調査室長を経て19年から現職

国土交通省は大規模災害に対応しようと20年5月、緊急災害対策派遣隊(TEC―FORCE)を創設し、先の地震が初めての出動となりました。各地の災害を経験した各分野の専門家延べ1500人が集まりました。
国直轄で行った市野々原地内の土砂ダムの仮排水路掘削では地元の建設業協会と契約。重機を搬入し24時間体制で掘削し半月で仮排水路を通しました。当初は重機搬入に時間がかかると考え工期1カ月と想定しましたが、地元をよく知っている建設業者と、用地関係者の理解ですぐに重機搬入ができ、工事を迅速に進めることができました。

宿輪智浩・IBC岩手放送報道局報道部主事

宿輪智浩・IBC岩手放送報道局報道部主事

宿輪智浩さん

IBC岩手放送報道局報道部主事

平成9年IBC岩手放送入社。岩手山噴火危機など災害報道に携わる。現在は県政担当

岩手・宮城内陸地震では、本寺小避難所に各メディアの取材が集中。疲れている避難住民への取材がメディアスクラム、集団的加熱取材の問題を投げかけました。
マスコミは被災者の声を外に向かって訴えるために避難所を取材したいし、要人の来訪もあるのでどうしても集中してしまいます。不要なトラブルを生まないためには窓口が必要。新潟県中越地震などでも取材トラブルは起こりました。災害時でなく、平常時にルールを作ることはできるので、今後行っていきたいです。
今回の地震では、祭畤大橋落下や山間部の大規模な土砂崩れなどのインパクトが強かったため、同じ映像が繰り返し報道されました。そのせいで、地域全体がものすごい被害であるかのような印象を与えたと思います。被害だけでなく、ここは大丈夫だという安全情報も意識して伝える必要性が、メディアとしての課題と考えています。

齋藤

各機関の皆さんの頑張る様子をお聞きできました。続けまして、今回の災害を経験し、何を学んだのか、何が課題かをお聞きします。

佐藤

災害時は通信途絶 連絡手段の確保が課題

今回は中山間地で通信や交通が遮断されましたが、突然の大規模災害では、市街地においても交通や通信が不通になるはず。災害対策本部との連絡が取れない時は住民が集まって行動し、助け合いながら救助を待つのがいいと思います。
本部との連絡が肝要。携帯電話の感度にはばらつきがあるので、衛星電話の配備も考えていただきたい。ヘリコプター発着所の整備も、地域ごとに考えていく必要性があると思います。

箱石

まだ足りない消防団員 地域の理解がぜひ必要
当市は合併により、県内一広い市になりました。しかし消防団員は定員割れの状態。この市域を守るのにはもっと団員が必要です。職場の理解がなく、団員であることを会社に言えない団員もいると聞きます。企業にも、地域の安全を守る消防団の活動を理解していただきたい。
また、消防団への情報伝達方法についても、市全体の中でもっと考えていただければ。
団員は自分の家庭を後回しにして、地域の安全のために活動しています。使命感を持って頑張っている団員の活動に、ご理解とご協力をお願いします。

宿輪

行政とメディアの連携 平時から築くこと大切

災害の記憶の風化は早いもの。一関は防災活動が盛んとの印象を受けていますが、この機会に、さらに地域防災力向上を目指してはどうでしょうか。
行政の皆さんに対しては、マスコミへの取材対応で、本業に支障が出たのではないかと感じています。平時にメディアと行政、産業界との連携の場を作っていければ。ITを活用し、メディアと自治体の間で情報共有できる仕組みを考えてもいいと思います。

齋藤

岩手山危機の時に感じたのが、正しい情報を伝えるために必要なことは、まずメディアにきちんと理解してもらうこと。マスコミと行政は緊張関係も大切ですが、安全を守るためにはスクラムを組まなければなりません。建設的な批判も含めて、共通認識を持つことが重要です。

坂本

各組織での情報共有 すばやい対応のカギ

大災害に向けた今回の教訓は、市だけの災害対策本部ということでなく、県、国、ライフラインにかかわる企業などにも入っていただく必要があるということ。情報を共有することが大切で、今回はそのあたりが比較的スムーズに進みました。何か課題があればどうすればいいか、各機関に持ち帰って検討してもらい、すぐに対応していただきました。
今後は、被災者の生活再建を最優先にしなければなりません。これは被災者の気持ちを理解した上で事業を進めなければなりませんが、職員に徹底したもののうまく伝わらない部分もあったので、今後に生かしていきたいです。
また、自主防災組織も重要です。自分たちで、災害の時どんな行動を取ることができるかみんなで話し合い、できることから進めていくことを大切にしたいですね。
地震はどこで起きるかわかりません。生活が多様化し、特に市街地ではどこに誰がいるかわからない社会です。
被災時の安全確認をどのように行えばいいか、プライバシーが叫ばれる中、悩んでいるところです。
災害時の通信手段は重要ですが、衛星携帯電話は値段が高く、使い方も難しいのが課題。それよりも携帯電話の不感地帯をなくすのが大切だと考えています。当市は地域イントラネット事業により、携帯電話不感地帯の解消に取り組んでいます。ただし携帯電話は混雑し、つながらないことがあるので、これらについて改善されれば助かります。

齋藤

携帯電話だけでなく、複数の情報伝達ルートで補完し合えるシステムが構築できればと思います。

青木

計画に基づいた準備 災害時の迅速な対応に

行政は、国・県・市とそれぞれ役割分担がありますが、地域の方々にとっては関係ありません。どこに相談していいのかわからないとの声をいただいています。
今後は、坂本副市長の話の通り、市と連携して情報の一元化を行うことで、ワンストップの対応を行う必要があります。

山本

地域防災力の高い一関 この教訓を引き継いで

現在、市野々原の仮排水路を100年に一度の大雨にも耐えられるものにするため拡幅工事中です。今年度からは栗駒山系の砂防工事に着手しています。一関市街地の磐井川堤防改修についても着手しているので、この3点で磐井川流域の安全度を飛躍的に高めていきます。
テックフォースのレベルアップに向けての課題は、全国から派遣された隊員であるため地理に不案内なこと。的確な活動のためには地元との連絡調整をもっと密にする必要があります。
一関は全国的に見ても防災力の高い地域だと評価されています。今回二次災害に遭わずにすんだのは、地域の皆さんの防災力の高さのおかげ。後世に引き継いでいただきたいですね。

齋藤

本日参加していただいた皆さんも、改めて地域の安全を自分たちで守っていこうと確認できたかと思います。パネリストの皆さん、時間不足の中ありがとうございました。
次に災害が起きたとしても、今回の被災経験が暮らしの安全確保に生かされるよう、われわれも力を合わせ、被災者の皆さんの役に立つフォローを行っていくという決意を新たにしました。
本日はありがとうございました。 


▼パネルディスカッションの席上、新潟県中越地震で大きな被害を受けた旧山古志村の住民の皆さんから市に送られた「震災からの復興の道のりは長いですが、勇気を持って一緒に挑戦していきましょう」とのメッセージが坂本副市長から披露されました。

パネルディスカッションの席上、新潟県中越地震で大きな被害を受けた旧山古志村の住民の皆さんから市に送られた「震災からの復興の道のりは長いですが、勇気を持って一緒に挑戦していきましょう」とのメッセージが坂本副市長から披露されました

▼防災フォーラム会場内では防災指導車による地震体験も行われました。関東大震災と同じ震度7の揺れを体験した来場者。何かにつかまるものがないと倒れるほどの激しい揺れでした。

防災フォーラム会場内では防災指導車による地震体験も行われました。関東大震災と同じ震度7の揺れを体験した来場者。何かにつかまるものがないと倒れるほどの激しい揺れでした。

▼「一関市内の被災と復旧状況」をテーマに一ノ関駅東口市民交流センター、市役所などで行われた岩手・宮城内陸地震関連パネル展。市、県、国などが提供した資料を見学した来場者は、改めて被害の大きさを感じていました(写真は6月14日、一関文化センター小ホール)

「一関市内の被災と復旧状況」をテーマに一ノ関駅東口市民交流センター、市役所などで行われた岩手・宮城内陸地震関連パネル展。市、県、国などが提供した資料を見学した来場者は、改めて被害の大きさを感じていました

避難勧告を解除

市は6月12日正午、厳美町字市野々原地内の2世帯12人と同字柧木立地内の1世帯2人への避難勧告を解除しました。
家屋裏山の治山工事が進み、安全が確保されたことから、市災害警戒本部が決定したものです。
安全は確保されたものの、3世帯ともに自宅に大きな被害を受けているため当面は市野々原地内の2世帯は復興支援住宅で、柧木立地内の1世帯は自宅敷地内の別の建物で生活を続けています。

(広報いちのせき 平成21年7月1日号)