小菅正晴教育長が令和5年2月21日、令和5年一関市議会定例会第102回2月通常会議で述べた教育行政施策の要旨をお知らせします。

1.はじめに

◆今日の教育を取り巻く社会環境は、急激に変化してきております。市内の人口減少は進行しておりますが、学校を見ると、今年度の中学3年生は887人、小学1年生は735人であり、子どもにおいてより顕著に現れてきております。そのような中で、令和5年度には統廃合により、小中学校数が現在の43校から35校に変化します。

 

 この子ども減少の時代にあって、世の中をたくましく生き、地域の未来を切り開く人材の育成は一層重要であり、その使命を教育は担っております。環境や平和など地球的規模の視点で求められる持続可能な社会に向けた考え方、キャリア教育や文化財保護活用など地域にどう関わりどう貢献していくのかの姿勢、特別支援や不登校への多様性を踏まえた個別最適な学びなど、教育の質の向上が一層求められてきております。

 これらの教育への社会的要請に応え、一関の持続的な発展を支えていくために、子どもたちがふるさと一関に誇りと愛着を持ち、知徳体の資質を兼ね備えた地域を支える人間に成長するよう、生涯学習の機会を充実させながら、教育行政を推進してまいります。 

2.重点的に取り組む施策(重点プロジェクト等)

◆教育振興基本計画後期事業計画の3年目となる令和5年度は、計画の目標に掲げた「学びの風土を礎に 心豊かにたくましく 郷土の誇りを未来につなぐ 一関の人づくり」、この実現に向けて、四つのプロジェクトを重点としながら、引き続き計画を着実に推進してまいります。

 それでは、四つの重点プロジェクトから、申し上げます。

(1) ことばを大切にする教育プロジェクト

◆一つ目は、「ことばと読書」、「ことばの響き」、「ことばの先人」を柱として、子どもたちに、語彙の豊かさ、ことばの感性、心の豊かさを育むことを目指す「ことばを大切にする教育プロジェク ト」であります。

 「ことばと読書」については、公立図書館との連携を図りながら学校図書館システムの活用を進め、読書の楽しさにふれさせてまいります。

 「ことばの響き」について幼稚園等では、「ことばの時間」に響きやリズムのよい詩や諺、絵本の読み聞かせなどに楽しみながら触れさせてまいります。

 小学校では、市が独自に作成した「ことばのテキスト『言海』」を用いて、音読・素読に取り組み、一層の質の向上を目指しながら、ことばの感性を高めてまいります。

 「ことばの先人」については、「ことばのテキスト『言海』」の先人ページを取り上げること、また、博物館学芸員が小中学校において、ことばを通じて人々に大きく影響を与えた先人を学ぶ授業を行うことにより、郷土の歴史に対する理解を深め、郷土への誇りを育んでまいります。

 

(2) グローバル人材育成プロジェクト

◆二つ目は、グローバル化していく現代社会に対応できる人材の育成を目指す「グローバル人材育成プロジェクト」であります。

 キャリア教育については、「地域に学び、地域で育てる」という視点に立って、全ての中学2年生が5日間の社会体験学習に取り組んでまいります。

 また、中学生最先端科学体験研修や小中学生を対象とした英語の森キャンプの実施、外国語指導助手(ALT)の派遣などを進めてまいります。加えて、英語検定料補助を通して、英語の力を高めようとする中学校生徒の意欲を支援します。

 さらに、GIGAスクール構想に基づき導入した1人1台タブレットの有効活用を推進するとともに、統合型校務支援システムを導入し、学校のICT環境を充実させます。
そして、本市教育の特色でもある、小学校での「ことば」の学び、中学校での社会体験学習での学びを通して、グローバル化する社会にあっても、故郷に根づくアイデンティティを大切にする教育を展開してまいります。 

(3) 学校と地域の協働推進プロジェクト

◆三つ目は、地域とともに歩む学校を目指す「学校と地域の協働推進プロジェクト」であります。

 学校からは、学校の情報や活動の様子をホームページ等で発信するとともに、学校運営に保護者や地域住民が関わるなど、地域社会全体で子どもたちの健やかな成長を育む取組を進めてまいります。

 なお、令和4年度から既に市内9校に学校運営支援協議会、いわゆるコミュニティ・スクールを設置し、育てたい子ども像を地域と共有し、学校の支援に向けて協働しておりますが、今後、令和6年度までに市内全ての小・中学校において設置する予定であります。

 

(4) 世界遺産拡張登録推進プロジェクト

四つ目は、骨寺村荘園遺跡の世界文化遺産拡張登録を目指す「世界遺産拡張登録推進プロジェクト」であります。

 これまで拡張登録の実現に向け、研究者など専門家の助言をいただきながら、構成資産となるよう取組を進めてまいりました。今後、文化庁に提出する推薦書素案への構成資産の取扱いについて、県・関係市町と連携して協議を続け、方向性を確定してまいります。

 また、重要文化的景観「一関本寺の農村景観」の保全活用に地域住民と協働で取り組むとともに、現在、市長が会長を務める全国文化的景観地区連絡協議会の総会並びに大会が令和5年度に一関市で開催されることから、その成功に向けて取り組んでまいります。

 

(5) 教育環境の充実

そのほか、児童生徒数の推移や学校施設の老朽化の状況などを踏まえ、より良い教育環境の確保のため、学校規模の適正化を進めております。

 令和5年4月には、花泉地域の6つの小学校が統合し、新たな花泉小学校が、大東地域の3つの中学校が統合し、新たな大東中学校が開校します。また、藤沢地域では、新沼小学校が閉校し、藤沢小学校に統合します。

 花泉小学校については、新しい校舎と屋内運動場が完成したところですが、引き続きプール建設と屋外環境整備工事の完了に向けて工事を進めてまいります。

 大東中学校についても、引き続き校舎の改修と増築工事を進めてまいります。

 一関小学校については、場所は現在の敷地に新校舎を建設することとし、その構造などについては引き続き具体的な検討を進めてまいります。

 また、校舎等の照明のLED化を計画的に進めてまいります。

 他の地域においても、今後の児童生徒数の推計などを示しながら、地域の方々や保護者等とともに、学校規模の適正化を考えてまいります。

 

 

 以上は、令和5年度において特に重点的に取り組む内容ですが、新型コロナウイルス感染症の感染状況などに配慮しながら、事業の実施を判断してまいりたいと考えているところです。

 以降については教育行政の具体的な施策について、教育振興基本計画に定める施策の基本方向に沿って申し上げます。

3.教育行政の具体的な施策

1.社会を生き抜く力を育む学校教育の充実
 一つ目に「社会を生き抜く力を育む学校教育の充実」について申し上げます。
(1) 確かな学力の育成

◆確かな学力の育成については、算数・数学を重点教科に位置づけ、学習支援員の配置による指導を行うほか、基礎計算力、集中力を高めるために、「隂山メソッド」の百ます計算を取り入れるなど、児童生徒の基礎学力の向上を図ってまいります。

 また、これら基礎学力を土台として、授業とは別に、算数・数学の面白さに触れさせたり、アートワークショップを通じて個性を輝かせたりするなど、学びを深める事業にも取り組んでまいります。

(2) 豊かな心の育成

◆豊かな心の育成については、あらゆる教育活動の土台となるものであり、人としての在り方、考え方を常に意識させ指導にあたってまいります。その中心となる道徳教育においては、新学習指導要領に示されている「考える道徳・議論する道徳」を推進してまいります。
このほか、積極的に自然体験、社会体験活動を取り入れ、SDGsの理念とも関連させながら、福祉やボランティア活動などを通して社会に関わる心構えや姿勢を培ってまいります。

(3) 健やかな体の育成

健やかな体の育成については、保健面からは、児童生徒がバランスの取れた食事や規則正しい生活など、望ましい生活習慣について考え、実践していく取組を推進してまいります。

 運動面からは、体育授業の充実のほか、家庭と協力しながら1日60分以上の運動、いわゆる「60(ろくまる)運動」など、日常的に運動の機会を確保する取組を推進してまいります。

 中学校の部活動については、引き続き各学校では平日週1日と日曜日を休養日に設定し、健康や生活とのバランスにも配慮した活動を推進してまいります。

 

(4) 学校給食

学校給食については、安全・安心な給食の安定した提供に努めるとともに、食材費の高騰に対応しながら、できる限り地場産品や郷土食の提供を行うほか、望ましい食習慣の形成に向けた食育指導を充実してまいります。

(5) 社会の変化に応じた教育

◆社会の変化に応じた教育については、職業観・勤労観の育成を図りつつ、地域を知り、地域の方々から学ぶキャリア教育を、発達段階に応じて推進してまいります。

 また、児童生徒1人1台タブレットなどのICTを効果的に活用した授業を展開し、学力の定着や、情報活用能力を育成してまいります。そのために、ICT指導員やICTサポーターを中心に、教員のICT機器活用能力の向上を図ってまいります。
さらに、小学校高学年を対象とする「いちのせきITキッズ育成プロジェクト」事業を展開し、ICTに関する知識及び技能を身に付け、自分の進路選択や地域社会にいかすことのできる人材の育成を進めてまいります。

 

(6) 特別支援教育

特別支援教育については、支援を要する子どもが増加傾向にあることから、特別支援に関する研修を充実させるとともに、就学相談体制の充実を図り、小中学校には学校サポーターを配置し、一人ひとりに応じた支援を充実してまいります。

(7) 不登校対応

◆不登校については、年間30日以上の欠席である不登校児童生徒の割合が本市も全国も年々増加し、その理由や背景は複雑化しております。各学校では家庭との連携を緊密にし、「絆づくり・居場所づくり」で新たな不登校児童生徒を出さないことを重点に取組を進めてまいります。

 また、別室登校、タブレットの活用、適応支援教室「たんぽぽ広場」における学習支援と交流体験活動など学習の場を多様に設置してまいります。

 

(8) いじめ対策

いじめへの対策については、各学校で策定した「いじめ防止基本方針」に基づき組織的に対応し、いじめの早期発見・早期対応・未然防止に努め、関係機関との情報共有や連携を強化してまいります。

(9) 幼稚園

幼稚園については、幼稚園教育要領で重点とされている「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」を念頭に、小学校との連携を密接にし、就学前教育を充実してまいります。

 なお、現在8つの施設がある一関市立幼稚園については、より効果的で効率的な教育環境を整えるため、一関地域の7つの幼稚園を令和5年4月から3園に集約することとしております。
また、大東地域の摺沢幼稚園についても、近接する摺沢保育園との統合による認定こども園化を計画しております。
開園当初は現在の摺沢保育園を活用することとし、令和6年度中に現在の摺沢幼稚園を増改築し、令和7年度から移転を計画しているところです。
なお、幼稚園の担当部署は健康こども部に組織再編され、事務を補助執行することとなりますが、教育研究内容については引き続き教育委員会も連携し所掌してまいります。

(10) 学校安全

学校安全については、放射性物質による汚染対策として、引き続き、学校施設や地場産食材等の放射線量を測定してまいります。

 また、地域ボランティア等の見守り活動の協力をいただきながら、登下校時における児童生徒の安全を確保するとともに、災害等の緊急時における行動について指導してまいります。 

(11) 教職員の働き方改革

教職員の働き方改革については、業務内容の見直しや勤務時間を意識した働き方を進めるなど長時間勤務の是正を図り、授業研究や授業準備、個別指導のための時間など、教員が子供と向き合える時間を確保するとともに、教職員がワークライフバランスを意識し、いきいきと仕事に向かうことができるよう改善を進めてまいります。

 また、統合型校務支援システムの令和6年度からの運用に向けて、準備を進めてまいります。

2.ともに学び、まちとひとをつくる社会教育の推進
二つ目に「ともに学び、まちとひとをつくる社会教育の推進」について申し上げます。 
(1) 社会教育

社会教育については、市民が生涯にわたって自ら学ぶことができるよう、ニーズに対応した市民センター等での講座を企画するなど、多様な学習機会を提供してまいります。

 また、市民センターでは、令和4年度から社会の変化に応じて必要な現代的課題について、テーマに沿った共通取組を実施することとしており、令和5年度は家庭における児童生徒のインターネット利用についてのテーマを設け、取り組んでまいります。
さらに、これらの取組や地域づくり活動にいかすため、指定管理を行っている市民センターの職員が社会教育主事講習を受講する際の費用等について支援してまいります。

(2) 家庭教育

家庭教育については、家庭での教育やしつけなどを通して子どものモラルの土台が育まれるものであることから、「いちのせきの家庭教育10か条」の普及を図り、教育の原点である家庭教育を支援してまいります。

 また、昨今スマートフォンやゲーム機などの通信機器の利用については、依存やトラブルなどの弊害が多く見られることから、小学生では午後8時以降、中学生では午後9時以降にはそれらを居間に置いて使わない運動(居間8(イマハチ)ルール、居間9(イマキュウ)ルール)を子ども、家庭、学校と協力して進めてまいります。

(3) 図書館

図書館については、市全体の貸出冊数が県内市町村で最多となっており、多くの方々に利用されているところであります。

 今後も、図書館サービスの向上に努めるとともに、電子書籍やオンラインデータベースなどによる読書環境のさらなる充実に努め、市民が集う地域の情報拠点としての役割を一層高めてまいります。

 また、デザイナー・造本作家の駒形克己さんのワークショップを各地域で開催するほか、市内8館が地域の特色をいかした運営を進めるとともに、学校図書館への支援や、乳幼児に対する読み聞かせの実施、移動図書館など、館外サービスにも引き続き取り組んでまいります。         

(4) 博物館

博物館については、市民はもとより、周辺市町村をはじめとして全国各地からの入館者もあるなど当地方における歴史や文化に対する関心が高まっていることから、更なる運営の充実に努めてまいります。

 令和5年度は企画展として生誕100年を迎える一関ゆかりの版画家・洋画家の福井良之助の作品の展示や関連行事の開催のほか、テーマ展や各種講座、体験学習など事業の充実に努めてまいります。
併せて、民俗資料館、芦東山記念館、石と賢治のミュージアム及び大籠キリシタン殉教公園についても、企画・展示の充実を図るなど、身近な場所で地域の歴史・文化が学べる場を提供してまいります。

3.誇りと愛着を醸成する文化の継承
三つ目に「誇りと愛着を醸成する文化の継承」について申し上げます。 
(1) 文化財の保護    

文化財については、歴史や文化の調査研究を進めるとともに、修繕や保護活動への助成等により、地域の文化財を良好な形で後世に伝えてまいります。
また、市の広報誌などを活用した情報発信や標柱解説板整備を継続的に行い、地域の財産である文化財への理解促進と保護意識の啓発に努めてまいります。

(2) 地域文化の伝承

◆地域文化の伝承については、民俗芸能の調査研究を進めるとともに、後継者育成支援や活動状況の映像記録、保存を継続的に行い、継承活動を支援してまいります。

4.おわりに   

 以上、令和5年度の教育行政施策の概要を申し上げましたが、これらは、一関市教育振興基本計画後期事業計画に基づいて計画的に進めるものであります。
現在進めている施策や業務については、スクラップアンドビルドの原則に立ち、より効果的で真に必要なものに精選していく、不断の見直しの視点も大切にしてまいります。なお、教育委員会の所在地については、現在の本庁舎内から花泉支所内に変わりますが、学校や他部署等との連携などをできるだけ早く軌道に乗せ、一層効率的な業務推進に努めてまいります。

 また、各施策の推進にあたっては、学校、家庭、地域、企業、行政が共通理解のもと、当市の教育行政に携わる全ての関係者の連携・協働が必要であります。

 教育委員会といたしましては、地域資源をいかした教育行政施策を進め、郷土の誇りを未来に引き継ぎ、新たな創造を加えてまいりたいと考えておりますので、議員各位並びに市民、教育関係者の皆さまのご理解、ご協力、ご指導を心からお願い申し上げます。