和算に挑戦

平成18年度出題問題③[上級問題]&解答例

 直角三角形の中に図のように大中小の三つの円が接しています。
 大円の直径が18cm、中円の直径が16cm、小円の直径が9cmの時、「勾」の長さを求めなさい。
※右の図は、見やすいように実際の長さの割合を変えて示しています。
※弘化5(1848)年に玉崎神社(奥州市江刺区)に奉納された算額の問題です。

審査員講評

 上級へは305名の方々が解答を寄せられ解答総数は330通で大多数が1通の解答でしたが、複数解答の方も18名ありその内6通、4通、3通解答された方が各1名で残りは2通の解答でした。330通の解答の中で正答は280通、誤答が50通(答のみ正しいのは12通)で正答率は84.8%であります。応募数が第3回(90通)の3.7倍、第4回(72通)の4.6倍という激増ぶりに採点者一同嬉しい悲鳴を上げながらの、採点・点検となりました。
 上級問題の解答では、出題者の意図(高校生以上向け)とは想定外の中学生の正解者があったことにも驚かされました。三角形の相似比とピタゴラスの定理を用いたものです。かなりの部分がこの平面図形的方法による解答でしたが、中には座標を使用したものや、その両方を用いたもの、また三角関数を使用したもの、ベクトルで計算したものなどがありました。誤答の中では、原寸大の作図をし実測したものもありましたが残念ながら証明のないものは誤答となります。
 模範解答や各賞の選定には、何れも甲乙付け難く、出来るだけ簡潔で、インパクトが強いものを選定いたしましたが、既年度に受賞されている方は除かせていただきました。和算家風の解答もあり、採点には苦労いたしました。解答集では「和算編」に収録させていただきました。
 皆様方の熱意・根気と出来たときの喜びを解答のそばに書かれた所感等に感じながら採点を終わらせていただきます。今年度も有り難うございました。

(古玉 晃、瀬川光政、三田信一)

 

解答例

【解答例1】

【解答例2】



解説

実際に、清水寺に奉納された算額には、次のように書かれています。

 この算額は、奥州市江刺区の玉崎駒形神社に弘化5年(1848)3月17日に奉納されたもので、村人たちが5題の問題を載せています。この問題は、その最初のものですが、文字が消えかかり判読できない部分があります。
 算額の問題は、『算法新書』にありますので、『算法新書』により和算家の説き方をみてみましょう。

 この問題は、中級問題と同じ『算法新書』巻の二の「容術」の項にあり、25問のうちの20問めにあります。

 

 

問題 勾(こう)股(こ)(直角三角形)の中に図のように大中小の3円を容れる。大円の直径が18寸、中円の直径が16寸、小円の直径が9寸のとき、勾(直角三角形の短辺)は、いくらか

答え 31寸

 中円の直径に小円の直径をかけ、ルートに開き、中円と小円の直径の差の半分を加え、大円の直径をかけ、大円と小円の直径の差で割る。つまり、

図解 解 第7術の比例によって中円の直径に小円の直径をかけ、平方に開いて「子」を得る。中円の直径と小円の直径の差の半分(中円と小円の半径の差)「丑」とする。「子」を加えて子丑の和とする。また「寅」「卯」の和とする。大円の直径と小円の直径の差の半分(大円と小円の半径の差)を「寅」とする。勾は「巳」と大円の半径の輪である。これにより比例式をつくって解く。

 第7術の比例によってとありますが、左の図が第7術です。これは、直線上に互いに接する二つの円があるとき、「子」の部分の長さは、双方の直径をかけた、その平方根に一致することを示しています。
 問題ではこれを小円と中円に利用し「子」の長さを求めています。
現代風の記号に置き換えながらみてみると



 

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