和算に挑戦

平成20年度出題問題③[上級問題]&解答例

 二等辺三角形ABCの辺AB上に点Dをとり、DとCを結んだところAD=DC=BC=1でした。
いま、△ADCの内接円をかいたとき、図の黒い部分の面積を求めて下さい。
※文久元年(1861)に熊野白山滝神社(一関市)に奉納された算額の問題です。

審査員講評

 上級問題の正答率は、昨年の65.8%から11.5%あがり、77.3%でした。今年の問題は計算が少し長くなるものの、考え方は割合に単純なので正答率が高くなったのではないでしょうか。図形の特徴をうまくつかんで、それを利用できた人がシンプルな解を示してくれました。特徴をしっかりつかむことで、相似、三平方の定理が利用でき、中学生でも解けることがわかりました。また高校の基礎知識で解答される方が多く、いろいろな世代の方がパズルを解くように楽しんでおられたのが印象的でした。
 三角関数を利用して解いた中学生でtan18°の値を半角の公式を用いて見事に導き出し、正解を得ていたのには感心しました。
 解答をみてみると、
  ①三角関数を利用したものは、tan18°、cos36°等の値は三角関数表を利用した人がほとんどでした。
  ②三平方の定理を用いて面積を上手に計算したもの。
  ③二等辺三角形に外接円を作り正五角形から面積を計算したもの。
 以上の3種類に大きく分類されました。
 正解としてまとめるまでに長い道のりをたどった人も多く、途中の数式変形で計算を誤り正しい答えに至らなかった答案が、やや多かったと思いました。
 解答の途中で2重根号がでてくるため、最後まできれいな答案を目指し、簡素化する努力がみられる答案が多かったのですが、複雑な形のままで、やめてしまった人もおられました。多分正答として、どこまでで止めればよいか迷ったのでしょう。
 答えの形は、三角関数の値を出さずにそのままで答えとしたもの、2重根号のある式で止め答えとしたもの、最後まで近似計算をして小数の近似値を答えとしたものの、3通りありました。どの形の答えでも正しければ正答としましたが、分母の根号は、できるだけ有理化して欲しいものです。
 初級、中級、上級問題を全部解いて応募した方の感想に「今年の問題は、上級問題より中級問題の方が難しかった」とありましたが、中級問題は直角三角形さえ見つけ出すことができれば、三平方の定理だけで解けるので、問題作成のときは特に異議なく出題された経緯があります。上級問題は、方針は簡単ですが、計算がやや面倒なので、これを上級にいたしました。しかし最初に書きましたように正答率が77.3%ですから、少し易しかったのかもしれません。来年度は、更に吟味して出題いたすつもりでおります。
 最後に挑戦者の皆様に心から敬意を表し、筆を置きます。

 

解答例

【解答例1】三角関数を用いた解


【解答例2】三角関数を用いない解


解説

 上級問題は一関市滝沢にある熊野白山滝神社に文久(ぶんきゅう)元年(1861)3月24日に菅原市左衛門、菅原勘五郎、千葉倉松の門人22名によって奉納された算額です。師匠の3人は千葉胤秀の門弟で、神社の近くの村の人で近隣の人々に和算を広めました。このため、熊野白山滝神社には5面もの算額が残っています。
 この算額は縦65cm、横375cmと大型で、岩手県でも最も長い算額です。上級問題は、その13番目にあり、阿部金太夫貞治が提出したものです。実際の算額には、次のように書かれています。

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