勝部修市長勝部修市長は、第42回市議会定例会で25年度の施政方針を示しました。
25年度当初予算の総額は、712億400万円、前年度比1%の増。17年の合併以降最大だった24年を上回る積極型予算です。
この予算を「未来へ着実に前進する予算」と位置づけ、確かな一歩を踏み出しました。
 

重点施策(1) 

東日本大震災からの復旧復興

一関市は、東日本大震災で大きな地震被害を受けました。
今なお住宅再建はままならず、仮設住宅での生活を余儀なくされている人たちがいます。まずは、一関市自身の復旧復興を進め、その上で、隣接する陸前高田市や気仙沼市への後方支援を継続します。
 

放射線対策は、空間線量のモニタリング、除染、農林業生産基盤の再生など総合的な取り組みが必要であり、放射線量推移の把握、学校給食食材の放射性物質の測定などを引き続き行って、市民の皆さんの不安解消に努めます。
除染は、除染実施計画に基づき、放射線影響の低減に向けた取り組みを確実に進めます。

農林産物の安全を守り、産地の信頼を回復するため、汚染された牧草・稲わら・堆肥(たいひ)・ほだ木の一時保管と処分を進めるほか、放射性物質を測定し、食の安全安心を発信しながら、国、県、関係団体と連携して風評被害対策に一層努めます。
中でも原木しいたけの生産は、産地崩壊の危機に直面していると認識しており、原木の確保や種コマの助成により生産意欲の向上と産地再生に全力で取り組みます。
 

国や県が実施すべき対策については、本市の実態を踏まえ、言うべきことをしっかりと伝えます。
東京電力には、迅速かつ十分な損害賠償を確実に行うよう求め、一日も早い農家の再建と経営の安定が実現できるよう、強く申し入れます。
 

一刻も早く3・11以前の状態に復旧し、さらなる復興に結び付ける取り組みを進めなければなりません。
震災から2年経った今なお、汚染された稲わら、牧草、ほだ木が積まれた環境の中で、生産意欲を失いかけている農の皆さんの心情を思うと胸が張り裂ける思いです。
農家の皆さん、希望を捨てず、一関の農業発展のため、共に頑張りましょう 

 

 災害に強いまちづくり

東日本大震災の経験を踏まえ、見直した「地域防災計画」の実効性を高めるため、大規模災害に備えた訓練などを通じて自主防災組織の支援と市民の防災意識の高揚を図ります。
 

市内全域に防災情報を一斉伝達できる「防災行政情報システム」を整備するとともに、コミュニティFMを活用した防災情報の提供に努めます。また、被災住宅の早期復興を支援するため、住宅再建および宅地復旧工事への助成を継続します。
 

一関遊水地事業は、小堤と磐井川堤防の整備を促進するとともに、狭隘(きょうあい)地区の安全確保を図ります。治水事業とまちづくりとの整合を図りながら、地域コミュニティの維持に取り組みます。
 

さらに、JR磐井川鉄橋架け替えの早期協議開始を要望します。

 重点施策(2)

国際リニアコライダーの実現

国際リニアコライダーの完成予想図
国際リニアコライダーの完成予想図 提供:©Ray.Hori / KEK

国際リニアコライダー(ILC)は、本市を含む北上高地と九州・脊振(せふり)山地の二カ所が国内候補地に挙げられています。
 

私は、このプロジェクトを東日本大震災からの「復興のシンボル」として位置付けるだけでなく、国土の均衡ある発展から遅れてきた東北にこそ、国際リニアコライダーを実現させるべきであると認識しており、世界に向けて東北が飛躍する絶好のチャンスであると捉えています。
 

ぜひこのプロジェクトを実現して「世界と日本の多様な文化が出会うまち」「人類の夢が実現する科学のまち」「世界が集い世界に羽ばたくまち」を築きたいと考えています。
そのため岩手県、東北経済連合会、東北大学など関係機関と連携しながら「一関市学術研究都市構想」を具体化します。
中学生の筑波研究学園都市への派遣事業も引き続き実施します。

重点施策(3)

:中東北の拠点都市一関の形成

私は、「中東北の拠点都市一関」の形成を政策の柱に、子育て支援、雇用対策や産業振興などに努めてきました。
住みよいまち、安心して暮らせるまちをつくるための施策を一つ一つ積み上げることが、中東北の拠点都市としての基礎づくりにつながっていくと考えています。

高齢社会への対応

地方の大きな課題の一つは、高齢化社会への対応です。
人口減少と高齢化が進行する中、行政サービスのあり方を時代に合ったものに変えていくことが求められており、まちづくりを根本から見直す機会であると認識して対処します。
問題を先送りすることなく、産業、文化、都市整備、あるいは地域コミュニティのあり方など、今、何をすべきかについて多角的に検討します。
一関地区広域行政組合と共に介護サービスの基盤整備や地域包括支援センターを核とした地域包括ケア体制の構築を進めるほか、高齢者の孤立防止や認知症対策などに関係機関と連携して取り組みます。
 

さらに、高齢者が住み慣れた地域で自立した生活を送ることができるよう、生きがいづくりや健康づくり活動を支援するとともに、新たにシニア活動プラザを設置して、シニア世代の社会参加・社会貢献活動を積極的に推進します。

人口減少への対策

高齢化社会への対応と共に人口減少への対策に取り組みます。
急激な人口減少に伴う地域社会の活力低下が危惧されています。
新たな人材を地域に受け入れ、地域の活性化を図ることが必要です。
本市への移住や定住を促す移住定住環境整備事業に取り組むとともに、空き家の実態調査を進め、その対応や活用のあり方などを検討します。さらに、「婚活」を支援して定住を促進します。

子育て環境づくり

住みよいまち、安心して暮らせるまちをつくるためには、安心して子供を育てられる環境が必要です。
 

小学生の医療費無料化、子宮頸がん予防ワクチンなどの全額公費助成、第3子以降の保育料無料化などに加え、全ての所得階層で保育園保育料を減額し、子育て世代の経済的負担を軽減したところです。
 

八幡町・あおば統合保育園の新築工事に取り組むほか、私立保育園や認定こども園となる私立幼稚園の新築・改築を支援します。放課後児童対策は、中里小学校の「こばとクラブ」の新築など、放課後の留守家庭児童の健全育成に努めます。
乳幼児健康診査、発達支援相談、臨床心理士による相談体制を継続して総合的に支援します。

都市基盤の整備

まちづくりには、道路や上下水道などの都市基盤の整備が必要です。
 

国道4号の安全対策を図るとともに、復興支援道路に位置付けられた国道284号、342号および343号の急カーブ、急勾配や狭隘(きょうあい)部の解消を目指し、道路ネットワークの強化を図ります。市道は、医療、消防、工業団地などの基幹施設と地域を結ぶ重要な路線として、清水原一関線などの整備を推進します。
また、歩道の設置も進めます。
 

水道事業は、舞川簡易水道、興田・猿沢簡易水道など8地区の簡易水道を拡張し、水道未普及地域の解消を図ります。
また、上巻浄水場を整備するほか、老朽施設を改修・更新して安全な水の安定供給に努めます。
 

公共下水道事業は、管路の整備を推進しながら一関、花泉、千厩地域の供用区域を拡大し、快適な生活環境の向上に努めます。
また、下水道未接続世帯への普及啓発を図りながら、合併処理浄化槽の整備を進め、水洗化を促進するなど、これら都市基盤施設の維持管理にも努めます。

 雇用対策

雇用する側、雇用される側、それを支援する側、それぞれへの支援が必要です。
昨年、新規高卒者の就職率が100%を達成しました。
引き続き「ジョブカフェ一関」などの関係機関と連携し、若者の地元への就職と職場定着に取り組みます。
 

震災の復旧・復興への対応や支援に係る事業を中心とした「緊急雇用創出事業」を実施して、雇用の場の確保と地域で働く人材の育成を支援します。
工業団地のリース制度や立地企業の設備投資に対する助成措置などにより、積極的な誘致活動を展開します。
操業開始時の新規採用者の人材育成を支援するフォローアップに努め、ものづくり人材の集積を図ります。

新入社員基礎力向上セミナー
新入社員基礎力向上セミナー

分野別の主な施策
農業の振興

米、畜産、園芸作物など、当地方の多彩な農産物は、全国に誇れる品質の高さが魅力です。
生産体制の強化と担い手の育成を図りながら、農産物の高付加価値化と販路拡大による6次産業化を進めるなど、所得向上に向けた取り組みで農業、農村の振興に努めます。
 

一関産が全国に通用するブランドになるよう「地産外商」にも取り組むなど、本市の物産や観光資源のブランド力を高めて全国に売り込みます。
併せて、首都圏の消費者ニーズを的確に捉えた情報発信と販路拡大を進め、一関ファンの拡大に努めます。

観光の振興

一関地方の豊かな自然、歴史や文化は、私たち市民の誇りであり、何ものにも代え難い貴重な観光資源です。
歴史と伝統ある「餅」文化は、24年度に「中東北ご当地もちサミット」を開催し、若い世代を含む多くの人々にその魅力を再認識してもらうことができました。
25年度も各種PRイベントなどを通じ、全国に情報発信します。
 

また、「一関・平泉バルーンフェスティバル」も継続して開催します。

人材の育成

地域の発展には、▼産業を支え、地域をリードする人材▼新たな文化を創造し、次代を担っていく人材―を、このまちに育てることが必要です。
 

一関の未来を担う子供たちの勤労観や職業観を養いながら、社会人としての基礎を身に付けられるよう、キャリア教育に取り組みます。
 

学校施設の整備は、東山地域統合小学校と磐井中学校の整備を進めるほか、山目小学校、東山中学校の校舎改築や藤沢中学校屋内運動場の耐震補強工事などを進めます。
 

社会教育施設は、一関、花泉両図書館を整備し読書環境の充実を図るほか、永井公民館の改築を進めます。

保健・福祉・医療の充実

全ての市民が、健康で心豊かに自立した生活を送るためには、保健・福祉・医療の連携と強化が重要です。
市民の自主的な健康づくりや健全な食生活のあり方について意識の啓発を図ります。
 

26年度のオープンを目指し、健康づくりの拠点「一関保健センター」の建設に着工します。
 

地域医療は、医師修学資金貸付事業を継続するほか、地域医療・介護連携推進事業を実施します。
市民フォーラムなどで医療機関の適切な受診のあり方をPRしながら医師の負担軽減を図り、医療機関、市民、行政、それぞれの役割や連携を強化し、地域医療体制の充実を図ります。
 

国民健康保険は、税率等の改正で円滑な保険給付に必要な税収の確保を図るとともに、特定健康診査や特定保健指導の推進、各種制度の周知を図るなど、健全な運営に努めます。
 

障がいのある人たちには、相談支援事業所の増設やサービス等利用計画の作成などを支援し、きめ細やかな相談支援体制の充実を図ります。

協働によるまちづくり

まちの輝き、地域の魅力を増すために市民主体の地域づくりと市民と行政の協働によるまちづくりが欠かせません。
地域の特色を生かした活動ができるよう、地域協働体強化推進事業に取り組み、地域づくり活動の主体となる地域協働体の強化を図ります。
 

地域住民と行政が創意工夫しながら地域を元気にするいちのせき元気な地域づくり事業を実施するほか、地域おこし事業などにより地域コミュニティの活性化を図るなど、「協働推進アクションプラン」の着実な実施に努めます。
 

4月オープンの「なのはなプラザ」の積極的な利用を促進し、市民活動を支援します。

一関・平泉バルーンフェスティバル
一関・平泉バルーンフェスティバル

環境対策への取り組み

住宅用太陽光発電システム、太陽熱利用機器、高効率給湯器の設置を支援し、地球温暖化対策への取り組みを促進します。
公共施設への太陽光発電システムの導入、防犯灯・道路照明灯・商店街街路灯などのLED化を進め、新エネルギー・省エネルギーの取り組みを推進します。
 

さらに、市民が主体的に取り組む景観まちづくり活動への支援を行います。

 世界遺産を意識した地域づくり

平泉の玄関口として、引き続き情報を発信します。
骨寺村荘園遺跡の世界遺産拡張登録に向け、骨寺村荘園遺跡指導委員会の指導助言を踏まえ、骨寺堂跡の確認調査と梅木田遺跡の全面調査などを実施します。
 

4月に展示棟がオープンする骨寺村荘園交流館を中心に、骨寺村荘園の価値と魅力を発信し、都市と農村の交流を一層推進します。
 

さらに、平泉ナンバーの実現に向けた運動を強力に進め、これに先立ち、原動機付自転車などのオリジナルナンバープレートの交付を行います。

4月オープンの骨寺村荘園交流館展示棟
4月オープンの骨寺村荘園交流館展示棟

市政運営の基本

各分野の施策は、「一関市総合計画後期基本計画」に基づき着実に推進していきます。
施策の展開に当たっては、市民の皆さんの積極的な市政への参加をいただきながら、中東北の拠点都市形成に向けたまちづくりに取り組みます。
 

本市の財政状況は、少子高齢化の進行や人口減少などにより、厳しさを増していくと見込まれます。財政の健全化を図り、持続可能な行財政基盤を確立するため、知恵と工夫を結集して、思い切った体質改善を図ります。
また、市民ニーズや行政課題に的確に対応できるよう、25年度に組織機構を見直し、第2次行政改革大綱と集中改革プランに基づいた行政改革に継続して取り組みます。
 

藤沢町と合併して1年半。共にまちづくりに取り組んできました。
今後も、藤沢地域がこれまで築いてきた歴史や地域づくりの資源を大切にし、それを市全体の資源に結集しながら新たなまちづくりに取り組みます。
 

さらに、両磐圏域全体の生活機能の確保に向け、「定住自立圏構想」の策定に着手するとともに、産業経済や教育文化の交流連携など圏域を越えた広域行政の推進に取り組みます。
 

私は、市民皆さんの声を市政に反映させるために、現場での視点が大切だと認識しており、市長就任以来、移動市長室などを通じて、地域の皆さんとの対話を深めてきました。
 

宮沢賢治は「雨ニモ負ケズ」の中で「東ニ病気ノコドモアレバ行ッテ看病シテヤリ」「西ニツカレタ母アレバ行ッテソノ稲ノ束ヲ負ヒ」と、東西南北の全てに「行って」行動を起こすことを謳(うた)っています。
現場主義、現地主義の大切さを教えてくれているものと受け止めています。
 

引き続き現場主義と現地主義を念頭に置いて、現場から市政を見ることを心掛けます。

地域を元気にするいちのせき元気な地域づくり事業
地域を元気にするいちのせき元気な地域づくり事業

おわりに

国際リニアコライダーの実現は、私にとって20年来の念願です。
世界中の研究者の英知を集め、人類の夢を実現する国際プロジェクトで、日本が学術研究分野で国際貢献できる数少ないプロジェクトでもあります。
 

国内建設候補地は、今夏、決定します。私は、世界に一つだけの実験研究施設を東北に、一関に実現させたいと強く願っています。
 

しかし、それは、一関市だけで成し得るものではありません。県境を越えた周辺自治体と連携し、広域的な受け入れ環境を整えなければなりません。
現在進めている「中東北の拠点都市一関」を目指す取り組みを、より具体的なものにして、中東北を「世界の人々から親しみをもたれる地域」に、「世界の人々から信頼される地域」にしていくことが必要だと考えています。
東北が置かれてきた歴史を一変させる強い信念を持ち、全身全霊でこのプロジェクトの実現に取り組みます。
 

市民が、真の豊かさを実感できる地域社会を形成するために、希望を持って邁進(まいしん)することが、今、最も重要です。新しい夢を持つことを忘れず、また、その夢を実現するために腰を据え、市政運営に最善を尽くす覚悟です。
 

議員各位ならびに市民の皆さまのご理解とご協力を心からお願い申し上げます。

広報いちのせき「I-Style」 平成25年4月15日号