骨寺村荘園遺跡「世界的に見ても比類のない価値」

「世界遺産を生かしたまちづくり」をテーマに行われたパネルディスカッションでは5人のパネリストが国内外での事例をもとに「平泉の文化遺産」の世界遺産登録に向けて必要なことが話し合われました

 中尊寺金色堂、毛越寺庭園、そして本市の骨寺村荘園遺跡(ほねでらむらしょうえんいせき)など「平泉の文化遺産」の平成20年の世界文化遺産登録を目指して、さまざまな取り組みが進められています。「平泉の文化遺産」国際専門家会議は6月8日から11日まで、ベリーノホテル一関を主会場に行われ、講演や現地調査、事例報告、公開フォーラムなどを通じて「平泉の文化遺産」の顕著な普遍的価値と保存管理のあり方について国際的な共通認識が確認されました。公開フォーラムの模様を中心に、会議で論議された平泉の文化遺産の意義などについてお知らせします。

 

 会議は文化庁、岩手県、一関市、奥州市、平泉町が主催。世界遺産条約では、資産の推薦にあたり、類似した世界遺産やそのほかの資産と比較検討を行い、その顕著な普遍的価値を証明することが求められています。そこで▽仏教的理念に基づいて形成された都市遺跡の普遍的価値▽浄土庭園および農耕地の文化的景観にかかる普遍的価値▽都市遺跡の保存管理の3点を協議し、7月に文化庁に提出する世界遺産登録推薦書の中身に反映させることがこの会議の狙いです。
 参加者は、国際記念物遺跡会議(ICOMOS、イコモス)オランダ委員会委員のロバート・デ・ヨング氏、ソウル大学教授の黄琪源(ファン・キーウォン)氏、中国社会科学院考古学研究所教授の唐際根(タン・ジーゲン)氏をはじめ、「平泉の文化遺産」世界遺産登録推薦書作成委員会の工藤雅樹委員長など17人。
 会議は8日の工藤委員長、ロバート氏の基調講演でスタート。2日目の9日は雨の中、中尊寺、毛越寺、柳之御所のほか、本市の骨寺村荘園遺跡など世界遺産の中核となるコアゾーンを現地視察。3日目の10日は世界遺産の国内事例報告と課題を話し合うミーティング、最終日の11日は一般公開による世界遺産フォーラムが行われた後、取りまとめのミーティングと記者会見が行われました。

現地視察で骨寺村荘園遺跡を訪れた会議参加者

世界遺産フォーラム開催

 最終日のフォーラムでは、講演や事例紹介、パネルディスカッションで国内外の事例をもとに平泉の文化遺産をどのように守り伝えていくかについて意見が交わされ、聴講した340人は平泉の文化遺産の価値をあらためて認識していました。
 「世界遺産を取り巻く諸課題」をテーマに講演したロバート氏は、世界遺産登録に必要な条件を「顕著な普遍的価値を持ち、本物の芸術的・歴史的価値である真実性」と挙げ、「世界遺産に登録されることがゴールではない。永続的にフォローアップを行い、遺産の真正性を保持し続けなければならない」と訴えました。
 「世界遺産を活かしたまちづくり」をテーマに行われたパネルディスカッションは、東京大学大学院教授の西村幸夫(ゆきお)氏をコーディネーターに、唐氏、黄氏、和歌山県文化遺産課の小田誠太郎氏、島根県大田市石見銀山課の遠藤浩巳(ひろみ)氏、「平泉の文化遺産」世界遺産登録推薦書作成委員で平泉郷土館館長の大矢邦宣(くにのぶ)氏の5人がパネリストを務めました。
 黄氏は韓国での事例から「工業化などが進む中遺産周辺の景観を守っていくためには景観法の整備などが不可欠。利害関係者による協議も重要」と報告。
 唐氏は「遺跡の保存と観光の両立は、難しいが重要な問題。殷(いん)王朝の遺跡にかかわっているが、一般に向け遺跡の保護の重要性をアピールすることが大切。中国では小学校の教科書に甲骨文字について触れており、小さいうちから遺産にかかわる機会を作ることが重要」と話しました。
 大矢氏は平泉の文化遺産の特徴を「多くの観光客にとって印象的なのは、松尾芭蕉も眺めた『高舘からの北上川の眺め』。寺社や遺跡だけでなく平泉の広い空間が『現世の浄土』であることを住民が理解することが重要で、皆が菩薩(ぼさつ)の気持ちで世界遺産登録に向けて取り組むことが必要」と訴えました。
 また、平泉の文化遺産について学んでいる「ときめき世界遺産塾」ジュニアリーダーの高校生2人による活動報告も行われました。一関一高3年の荻荘瑶子(ようこ)さんは骨寺村荘園遺跡について「絵図入りの案内板を設置して、訪れた人が現在の景観が絵図と同じだとわかる工夫を」と提言。「無量光院など現在建物がない遺跡はミニチュアを作ってはどうか。わたしたちが正しく理解することが保存への一歩」と報告しました。一関二高3年の浅井希恵(きえ)さんは、平泉をはじめ京都、鎌倉などの寺院や史跡を見学したこと、発掘体験など塾の活動を映像で発表しました。

 

イコモスオランダ委員会委員のロバート・デ・ヨング氏「世界遺産登録は始まり。永続的なフォローアップで遺産の保持を。」

 

 コーディネーターを務めた東京大学大学院教授の西村幸夫氏

 

  

「行政はしっかりした指針を、住民は遺産に誇りを持ち、両者が一体となり進んで。」

 

 

 

世界遺産塾ジュニアリーダーの荻荘瑶子さんもフォーラムで報告「わたしたちが平泉文化を正しく理解することが保存への第一歩。」

 

中国社会科学院考古学研究所教授のタン・ジーゲン氏

 

 

「保存と観光の両立や、教育で遺産の保存意義をPRすることが重要。」

 

 

  

平泉郷土館館長で盛岡大学教授の大矢邦宣氏「平泉は『現世の浄土』。住民がそのことを理解し登録に向けた取り組みを。」

340人が公開フォーラムを熱心に聴講

「平泉の文化遺産」の評価

 4日間の会議により、顕著な普遍的価値と保存管理に関して、次のように結論づけられました。
 「平泉の文化遺産」の価値評価は▽浄土思想に基づき自然と一体となった都市と文化的景観を構成している▽寺院建築や庭園など歴史的な発展の過程を明瞭(めいりょう)に示し貴重▽骨寺村荘園遺跡は14世紀に描かれた絵図史料との照合が可能で、世界的に見ても比類のない価値を持つ▽平泉の精神的な基調を成した浄土思想に基づく文化的伝統などが今日においても確実に継承されている、によって証明されており、現時点では「極めて重要な遺産であることが推定される」とされました。また、保存管理については▽包括的な大綱と具体的な計画が必要▽地方行政の適切な推進体制と国の適切な支援体制が不可欠とされました。

今後のスケジュールは

 「平泉の文化遺産」は13年4月、世界遺産暫定リストに登載され、登録を目指して各種事業を進めてきました。今後のスケジュールとしては、▽県・市町村から国に推薦書類を提出(18年7月)▽国からユネスコに推薦書提出(19年2月)▽専門機関による現地調査(19年7月ごろ)と見込んでいます。順調に進めば、20年7月ごろに世界遺産委員会での審議・登録決定となります。

 

世界遺産講演会を開催~骨寺村荘園遺跡の価値について~

 骨寺村荘園遺跡の歴史と価値の側面から東北学院大学の大石名誉教授が、また重要文化的景観としての側面から日本イコモス国内委員会事務局の矢野事務局長が講演します。多数の参加をお待ちしています。

・日時…7月15日(土)13:00~16:00

・会場…一関文化センター中ホール

・入場料…無料

問い合わせ先
骨寺荘園室 TEL0191-21-2111(内線8470・8471)

(広報いちのせき 平成18年7月1日号)