特集 子どもの安全

地域の“宝”を守るために

 「子ども」は何よりかけがえのない、わたしたちみんなの宝。
 近年、全国で子どもを狙った事件が発生し、市内でも不審者による声かけ事案などが報告されています。
 そのような中、地域の人たちが立ち上がり、学校や行政と連携しながら地域ぐるみで子どもを守ろうとする取り組みが進んでいます。
 ほんの少しでいいんです。それぞれの立場でできることを、今日から始めてみませんか。


門崎小では週2回、地区ごとに班を編成し全校で集団下校を行っています。そのほか、遠距離通学児童や家で1人で留守番をする児童は学校前の「児童クラブ」で過ごし、家族の迎えを待つなど、さまざまな方策で“すきのない”安全な登下校が行われるよう地域が連携しています ―この春門崎小に入学した川崎花子ちゃん。図工が大好きで、もうすぐ開かれる初めての運動会をとても楽しみにしています。 花子ちゃんは毎朝、学校まで約2.1キロメートルの道のりを、自分で選んだ茶色のランドセルを背負って元気に登校します。ランドセルには学校から借りた防犯ブザー。知らない人から話しかけられたり車に乗せられそうになったら、ブザーを鳴らしなさいと教わりました。集団登校の集合場所まで600メートルはおじいちゃんが車で送ってくれ、それから同じ班の7人で歩いて学校に向かいます。班長の渉君(5年)を先頭に、花子ちゃんは前から2番目。渉君のお母さんも毎朝一番後ろで歩きながら見守ってくれます。
 帰りは週3回、低学年の4人で集団下校。友達と別れ1人になる場所には、おばあちゃんが車で迎えに来てくれます。
 残り2回は全校集団下校の日。道路を渡る時は渉君が黄色い旗を掲げ、みんなが横に並び急いで渡ります。すぐ元の1列に戻って、朝よりは心なしかゆっくりの速さで歩きます。ついつい道端の花や虫に目が行って、列が乱れることも…渉君に注意されてしまいました―


 小学生を狙った凶悪犯罪が相次いだ平成18年。市内41の小学校では学校、PTA、地域、教育委員会が連携して子どもを犯罪から守る取り組みが進められています。
 門崎小学校(伊藤文男校長・児童95人)での実例を基に構成した上記。同小では子どもの安全を守るために、集団登校、集団下校、児童クラブでの児童の預かり、安全教室の実施、安全マップの作成など、さまざまな角度から取り組んでいます。

後を絶たない不審者出没

 18年、一関警察署管内では8件、千厩警察署管内では14件、子どもに対する声かけ事案などの不審者情報が寄せられました。19年に入ってからも数件発生しています。▽車に乗っていた男から、「乗らないか」と声をかけられた▽病院を聞くふりをして女子児童に声をかけ、その子が近づくと車内で下半身を露出―など、いずれも無視したり逃げたりして事なきを得ましたが、このような事案が誘拐など重大な事件の前兆となる可能性もあり、十分な注意が必要です。 

安全確保に指導員を配置

 市教育委員会は、学校や警察、関係機関と連携し、「地域のこどもは地域で守る」を合言葉に、子どもの安全を守るための取り組みを進めています。
 18年8月には、交通指導員や行政区長などの経験者5人を市地域学校安全指導員(スクールガード・リーダー)として委嘱しました。スクールガード・リーダーはオレンジ色のベストと帽子を身につけ、担当地域の小学校や通学路を巡回するとともに、地域内の見守りボランティアと学校とのパイプ役として活躍しています。
 教育委員会はそのほか、各学校へ▽防犯ブザーの貸与▽パトロール中を明示したマグネットシートの配布▽不審者情報の提供―などを行っています。また、市が「いわてモバイルメール」を利用して行っている携帯電話へのメール配信を活用して、不審者情報の提供も行っていきます。

今できることから行動を

 「本当は集団下校でなく、好きな友達と遊んで、道草しながら帰れる世の中であってほしい。しかし現実は命と安全が第一なので、地域の連携ですきのない体制づくりを目指しています」
 伊藤校長の言葉は、多くの人の意見を代弁しています。地域の大切な宝・子どもたちを守るために、それぞれの立場でできることを始めてみませんか。

事例1 萩荘小 安全支える“はぎっ子サポート”

はぎっ子サポートチームは、親しく言葉を交わしながら、子どもたちと学校を支える“サポーター”

 萩荘小学校(伊藤正幸校長・児童432人)には住宅街から歩いて通う児童、農村部に住み学校までの約10キロメートルをスクールバスで通う児童、とさまざまな環境の子どもたちが通っています。その子たちを守るのが、薄紅色の地に「はぎっ子サポートチーム」と白抜きされた腕章をつけた大人たちです。
 この「はぎっ子サポートチーム」が誕生したのは17年11月。地区の民生児童委員協議会に出席した伊藤校長が児童の安全対策について相談したところ、たちどころにさまざまな案が出されました。それらをもとに地区の▽健全育成推進協議会▽区長会▽防犯協会・民生児童委員協議会▽小・中学校PTA―の代表者が発起人となり、「はぎっ子サポートチーム」への登録を地区内全戸に配布した文書で呼びかけたのです。
 同チームは「気軽に参加できる」ものにしたいと代表や会則は設けないゆるやかな組織で、事務局の同小へ連絡すると、腕章と会員証が届けられる仕組み。現在の登録は80人余で、登下校時の見守りを中心に、▽犬の散歩をする人▽自転車に乗って通学路を巡回する人▽スクールバス下車時刻に合わせて近辺を車で巡回する人―など個人の事情に応じて活動しています。

心と安全両面をサポート

 同チームの活動開始以来、「チームの皆さんが安全面のサポートはもちろんのこと、児童の生活、心とあらゆる面のサポーターになってくれたことがうれしい」と伊藤校長。「○○君が水路に落ちて靴をぬらした、□□ちゃんと△△ちゃんがけんかしていたなどと教えられ、身近に接しているのがわかります。ほぼ毎日活動している方も20人はおられ、犯罪発生の大きな抑止力になっていると実感します」と感謝します。
 最近は小学生だけでなく中学生・高校生を巻き込んであいさつの気風が広がり、地域の明るい雰囲気を作る大きな原動力となっているといいます。
 市の交通指導員も務める平野勝さんは、同チームのリーダー的な存在。
 「子どもたちの防犯と交通安全のため、チームの皆さんで力を合わせて活動しています。冬場の寒さが身にこたえることもありますが、子どもたちとあいさつだけでなくいろいろな会話を交わす楽しみや、『ありがとう』の声が励みですね」
 ほとんど毎日の朝夕、通りに立ち子どもたちを見守り続ける平野さんです。

ほぼ毎日通りに立ち見守る平野勝さん

事例2 千厩小 “見守りリレー”で孫たちを守れ

無理のないペースで行うのが長続きの秘けつ。新町長生会では75歳以下の会員が交代で下校時に見守っています

 「将来の千厩を背負うかわいい孫たちを守るために―」と千厩町内の老人クラブが立ち上がったのは17年12月。市老人クラブ連合会千厩支部老人クラブ(金野肇支部長)が27の単位クラブに呼び掛け、小学生の下校時の見守り活動がスタートしました。会員が自宅の近所を見守ることから始め、現在は通学路を見守っています。

腰掛けて無理せず見守り

 「年寄りですから、無理しないのが長続きさせるコツ」と話すのは、同支部事務局長の加藤眞四男さん。時には腰掛けながら、家路につく子どもたちを見守ります。「道中ずっと付き添うのは体力が必要。そこでわたしたちはリレー方式で見守っています」と加藤さん。千厩小学校(菊池信一校長・児童430人)の校区の場合、新町長生会から本町長生会、夫婦石長生会とそれぞれのクラブが近くの通学路で安全を確認しています。
 「ありとあらゆる手段で、地域ぐるみで子どもたちを見守っていただいています。とてもありがたい」と感謝する菊池校長。千厩警察署地域課の担当者はほぼ毎日、通学路を自転車でパトロール。防犯協会防犯パトロール隊や老人クラブは下校時間帯に見守り。PTAは会員の全家庭に「千厩小学校PTA安全サポート」の腕章を配り、買い物、犬の散歩、車の運転など日常的に腕章を目に付かせてほしいと呼び掛け。学校では、防犯教室の実施、学区内の安全マップの作成、職員の見回り指導などを、それぞれ行っています。
 また、一関東地区防犯協会連合会と千厩警察署が連携して行っている「不審者情報等メール配信システム」のモデル校として18年6月から試験運用を開始。現在は同校以外も含めて約280人が利用しています。これまでも不審者情報が寄せられた際にはPTAにチラシで知らせてきた同校。「どう急いでも発生から配布までに3日はかかります」と菊池校長。メール配信システムはリアルタイムに情報を知らせることができる点でありがたいといいます。

感謝の気持ちを届けたい

 同校PTA広報部長で、PTA会報で子どもの安全に関する特集を組んだこともある畠山とき子さんは「親たちの世代は忙しく、実際に見守り活動をできる人は少ない。親の代わりに行ってくれている地域の方たちに、せめて感謝の気持ちを届けたい」と語ります。PTAは18年11月、防犯についてアンケートを実施。その中の保護者からのお礼の言葉を、老人クラブと防犯パトロール隊に届けました。
 5月11日の午後。千厩小近くの老人クラブ・新町長生会(白石安樹会長)では白石会長をはじめ中澤仁さん、佐藤寿夫さん、小野寺明さんが当番でした。横屋酒造前に立っていた4人は元気に家路につく子どもたちと「気をつけて帰ってね」「ありがとう。さようなら」などと言葉を交わしていました。「こんな小さな子どもたちに『ありがとう』なんて言われて…」と少し照れた様子で話す皆さん。町を通る人たちも老人クラブの活動を知っているので「こんにちは。ごくろうさまです」と声を掛けながら行き交っていました。

市老連千厩支部事務局長の加藤眞四男さん

専門家から

一関警察署生活安全課長佐々木秀行警部

 19年になってから、一関警察署管内では4件の声かけ事案が発生しています(5月10日現在)。いずれも無視したり逃げたりして事なきを得ていますが、安心はできません。
 保護者の皆さんは、▽通学路を点検する▽防犯ブザーなどを持たせる▽子どもの変化を見逃さない―などの点に注意しましょう。また、警察へ通報する場合は、声を掛けてきた不審者の▽顔▽服装▽車のナンバー―などを覚えておくことが必要です。これらの点を注意するよう、各家庭で子どもたちと話し合っておきましょう。
 見守り活動をしている方たちは、不審者と間違われないよう、腕章などを身につけ、それとわかる服装をお願いします。
 地域の交番と学校とは、密に情報を交換しています。不安なことがありましたら、気軽に交番に相談してください。

(広報いちのせき平成19年6月1日号)