熱く燃えたぎる熱は、絶対に伝わる
作品を語る表情はまさにアーティスト

菊地志保さん
病を抱えながらも、絵と向き合うことで心が強くなる
菊地志保さん Kikuchi Shiho 30 心情画家 藤沢町徳田

「なんで私よりうまいんだろう」

幼稚園の頃、絵が上手い友達にヤキモチを焼いた。
絵が好きだったから、友達の色遣いに嫉妬した。
一番になりたかった。

「心情画」を描く画家菊地志保さん(30)=藤沢町徳田=。
本格的に絵を始めたのは高2のとき。
デッサンなどの基礎を学ぶため、画家小野寺良剛さん=五十人町=のアトリエに通った。
高校卒業後は東京のメタルクラフト専門学校でジュエリーのデザインや製造を学び、その仕事に就いた。

6年前、熱が出て、だるい日が続くようになった。
病院を何軒も回ったが原因は不明。
2年後、ようやく「慢性疲労症候群」と告げられた。
ストレスが原因ともいわれ、環境を変えるために帰省した。
しかし、常に感じる鈍痛は止むことなく、寒くなると激しい痛みに襲われる。
また、持病の卵巣のう腫の再検査で腫瘍を発見。
「前癌病変」と診断された。

9月に手術が決まった。
それまで、何をすればいいか―真っ先に浮かんだのが絵だった。
落ち込まず、生き生きと過ごしたい。
そのためにも個展を開くことを決意した。
情熱が一気によみがえった。

3年前にも個展を開いた。
当時は満足だった。
だが「今思うと甘かった」と振り返る。
先生の指導を受けながら描いた作品は、先生の見方でしかないことに気付いた。
描いた作品はどれも玄人受けを狙ったものばかり。
自分が目指す世界ではなかった。

殻から抜け出して、思いのままに描いた。
「体調が悪いと集中力に欠ける。それでも描いた。体が痛くても楽しかった」。
千厩町の「ギャラリーひのや」(日野屋本店内)に飾られた4つの作品、一つ一つに志保さんの強烈な個性がにじみ出ている。

昔はマイナス志向だった。
人を避けて生きてきた。
学生時代は白黒の絵しか描かなかった。
だが、人と出会い、人とつながることの大切さに気付いた。
それから色を付けるようになった。
以来、志保さんが描く絵には、必ず「人」が登場する。

絵と向き合うと心が強くなる。
パズルのように一つでも抜けると心のバランスが崩れる。
絵は「生涯のパートナー」。
もう、離れられない。

大叔父は千厩町出身の画伯白石隆一。
その存在は大きいが、「同じくらいか、それを超えたい」ときっぱり。

次回の個展は、8月11日から20日まで藤沢文化センターで。
手術の前に、来観者から笑顔とパワーをもらう。

1千厩町千厩の「ギャラリーひのや」で開かれた個展2展示された作品の一つ「祈り」

1_千厩町千厩の「ギャラリーひのや」で開かれた個展。作品が飾られた空間には、優しく温かい時間が流れる
2_展示された作品の一つ「祈り」。強い思いは時空を超えるというメッセージをキャンバスで表現した

Profile

1982年生まれ。
絵は無心で描く。
24色の絵具を組み合わせてつくる色は無限大だ。
病を抱えるも、強い思いと祈りは叶えることができることを感じてほしいと個展を開く。
9人家族。藤沢町徳田在住。30歳

広報いちのせき「I-style」8月1日号