03 活力 地域を再生したコミュニティー

本寺が揺れた。中世から続く景観の保全か、圃場整備による営農の推進か。
地域の将来を巡って対立、繰り返した激論、そして苦渋の決断。
本質を求めて前に進んだ地域づくりの舞台裏を追った。

景観保全と営農推進。相反する二つのうち、本寺の人々は、景観を守ることを選んだ。

本寺地区では過去3回ほど圃場整備に取り組む動きがあったが、自己負担率の高さなどがブレーキになって頓挫した。

その後、補助率が高く自己負担が少ない中山間地域総合整備事業などが創設され、事業採択に向け準備を進めていた。
しかし、骨寺村絵図が国の重要文化財に指定され、遺跡調査が必要になったことで、中断を余儀なくされた。

圃場整備と遺跡保存の調整を目的に発足した「骨寺荘園遺跡調査整備指導委員会」。
委員長を務めた国学院大の吉田教授は「中世から続く本寺の景観を保全すべきだ。特に用水路は残したい」と見解を示した。

これに対し、生産性・効率性の向上を望む住民たちは猛反発。
景観保全と圃場整備を巡って真っ向から対立した。
激論を繰り返した末、骨寺荘園跡地が平泉の文化遺産の核心地域候補であるなどの理由から導き出された結論は景観保全。
苦渋の決断だった。

本寺地区地域づくり推進協議会(佐藤勲会長)は04年、懸案事項の圃場整備と世界遺産登録をも視野に入れた地域づくりを模索するために発足された。
▼地域おこし▼地域営農▼景観▼女性―の4部会を設け、活動している。

国内で初めて、農地の世界遺産登録を目指した道のりは平坦ではなかった。
過去に経験したことのない難題が山積する中、手探り状態で進まざるを得ず、協議会も市も紆余曲折を余儀なくされた。

協議会は年間70~80回もの会合を重ねながら、一つ一つの課題を克服。
険しい道のりを地域の絆で前に進んだ。

一歩進むたびに意識は統一された。一段上るたびに実践力はついた。
こうして、田植えや稲刈り体験など、多くのイベントを自ら成功させるまでに成長した。

骨寺村荘園収穫祭(本寺地区地域づくり推進協議会主催)は11月6日、骨寺村荘園交流館「若神子亭(わかみこてい)」で開かれた。
朝から雨が降ったり、やんだりのあいにくの天候となったが、県内外から訪れた多くの観光客らは、多彩な催しや食を通して地元の人たちと交流を深めた。

収穫祭は初めての取り組み。
会場では熱々の芋の子汁や甘酒が振る舞われたほか、▼本寺地区で収穫された農産物▼手作りの漬け物・総菜▼骨寺村荘園米のおにぎり▼南部一郎カボチャを使用した果報団子―などが販売され、大勢の人で賑わった。

交流館南側の広場では、県立一関二高音楽部のコンサートが行われた。
静かな里山に響きわたる美しいハーモニーは、本寺の景観と相まって、日本昔話の世界をほうふつとさせる時間と空間を創り出した。

午後はきねと臼を使った昔ながらの餅つきが行われた。
「よいしょ、よいしょ」の掛け声に合わせてついた餅は、あんこ餅と納豆餅にして振る舞われ、好評を博した。

同協議会事務局次長で骨寺村荘園交流館の五十嵐正一館長は「初めての開催にもかかわらず、地元はもとより他県からも多くの人に来てもらった。
骨寺荘園という一面だけでなく本寺の本質をPRする機会になった。
来年以降も続けていきたい」と意欲を見せている。

昔ながらのきねと臼を使ったもちつきイベント。
(1)昔ながらのきねと臼を使ったもちつきイベント。きねでついた来場者は大はしゃぎ

つきたての餅は、あんこ餅と納豆餅にして振る舞われた
(2)つきたての餅は、あんこ餅と納豆餅にして振る舞われた

雨天にもかかわらず、大勢の人でにぎわった販売ブースには本寺産の新鮮野菜や手作り加工品などがずらり
(3)(4)販売ブースには本寺産の新鮮野菜や手作り加工品などがずらり。
雨天にもかかわらず、大勢の人でにぎわった

会場入り口付近に設けられたかがり火
(5)会場入り口付近に設けられたかがり火

特産品の南部一郎カボチャ
(6)特産品の南部一郎カボチャ。カボチャペーストを使った果報団子も販売された

地元食材をふんだんに使った熱々の芋の子汁は大人気
(7)地元食材をふんだんに使った熱々の芋の子汁は大人気

広場で開かれた一関二高音楽部のコンサート
(8)広場で開かれた一関二高音楽部のコンサート。
この空間、この時間にしか聞くことのできない透明感ある美しい歌声は、集まった多くの人を魅了。
「ふるさと」や「愛燦燦」「世界が一つになるまで」など全10曲を歌った

五十嵐正一さん骨寺村荘園交流館長 五十嵐正一さん

雨にもかかわらず約千人もの人が来てくれた。地元で取れた食材や手作りの加工品が大変好評だった。
「振る舞い」が目的のイベント。市内外から来てくれた人をもてなすことができて満足だ。

松村謙一さん東京都杉並区から参加した 松村謙一さん 53 歳 会社員

仕事で岩手に来た。須川に行く途中、ここで食べたおにぎりの味が忘れられなくて、また寄った。
縁起物の果報団子が当たり感激した。都会にはないのどかな景色がいい。また来たい。

佐々木宏幸さん宮城県気仙沼市から参加した 佐々木宏幸さん 59 歳

妻(さえ子さん)と息子(俊さん)と温泉の帰りに立ち寄った。皆さん笑顔で迎えてくれたのがうれしかった。
本寺は活気がある。おにぎりがおいしかったので荘園米を買った。早く食べたい。

村上博恵さん県立一関二高音楽部顧問 村上博恵さん 教諭

初めての野外。よく声が出た。
本寺の皆さんが温かく迎えてくれたことに、傘を差しながら聞いてくれたことに生徒たちは感動していた。
地域の皆さんに支えられて歌えることがとてもうれしい。

骨寺村荘園交流館「若神子亭」

一関市厳美町字若神子241-2
食堂 11:00~15:00/産直 9:00~16:00
Tel & Fax 0191・33・5022
http://www.honedera.jp/

(広報いちのせき23年12月1日号)