教訓と教育の習慣化

藤沢小学校(高橋澄夫校長、児童235人)は6月12日、
防災頭巾を着用して避難訓練を行った。
東日本大震災の教訓を生かした同校の訓練と教育には災害時を生き抜く大きなヒントが隠されている。

地震を想定した藤沢小の避難訓練。全校児童が防災頭巾をかぶって屋外へ避難
地震を想定した藤沢小の避難訓練。全校児童が防災頭巾をかぶって屋外へ避難

防災を教育する。訓練を日常化する
平時の備えが有事に生きる

学校の日常に
防災意識を定着させる

午前中の業間に行われた訓練には、児童と教職員全員が参加した。
各学年とも担任の指示で一斉に防災頭巾を着用、机の下にもぐって身の安全を確保する。
揺れが収まると、2列縦隊で速やかに校庭に避難した。

初めて訓練に参加した1年の井上海斗君は「サイレンが鳴って怖かった。
すぐに頭巾をかぶりました」と緊張の面持ち。
高橋校長は「全員の避難が完了するまで3分30秒。いずれの学年も冷静で迅速に行動できたと思う」と評価した。

防災頭巾は今年3月、児童の安全を守るために同校とPTAが購入した。
いかなる時でもすぐに着用できるよう、児童の椅子に備え付けられている。
日常、目に触れる機会も多く、普段の生活の中で「地震―防災頭巾―安全確保」という意識が自然と身に付いている。

藤沢小学校1年 井上海斗君
藤沢小学校1年 井上海斗君

緊急時の適切な判断は
平常時の備えから

地震や台風など自然災害はいつ起こるかわからない。
災害が起きてから慌てても遅い。

前触れもなく発生する災害に、人は多かれ少なかれパニックに陥り、判断力が低減する。
平常時には適切な判断ができても、緊急時には一時的に思考停止状態(何から手を付けていいのかわからなくなる)となり、平常時の何分の一かの判断力しか保てないことは、過去のさまざまな緊急対応事例を見ても明らかだ。
緊急時の適切な判断と迅速な対応は、平常時の訓練と教育なくして成り立たず、普段から地道な備えをしてこそ危機管理体制は機能する。

自衛隊や消防レスキュー隊が、非常時に対応できるのは、日ごろの厳しい訓練と徹底した教育を受けているからこそだ。

藤沢小の避難訓練は、年3回を予定している。
1回目は地震を想定。
2回目は火災、3回目は不審者対策を含めた総合防災訓練だ。
休み時間に全校で行ったり、児童だけで避難したりと、その都度状況を変えて行い、非常時に備える。
「児童だけでなく教師の訓練にもなります」と高橋校長は表情を引き締める。

守られる暮らしから
自分で守る暮らしへ

海抜0メートル以下の地帯が国土の4分の1を占めるオランダ。
湖沼や運河などが多く、人々の暮らしは水と共にある。
そこに暮らす以上、「水から命を守る」ことは当然のことであり、なんと、5~15歳の90%が衣服を着たまま決められた距離を泳ぐ「着衣水泳」の試験を受けている。
命を守る着衣水泳の教育は、競泳よりも重視されている。

日本の学校が着衣水泳を取り入れたのは90年代から。
市内の赤荻小学校(菅原悦夫校長、児童356人)もその一つ。
同校周辺は、河川や農業用水路などが多く、水難事故を防ぐため全校で着衣水泳授業を実施している。
「自分の命は自分で守る」を合言葉に、水難体験を通して対処方法を学ばせている。

いざという時日本人は、「電気がつかない」「水が出ない」「携帯電話がつながらない」とおろおろしてしまう。
危機管理はリスクを回避するためにある。
着衣水泳などのように、日常の中に「非日常」を取り入れ、本来人間が持っている本当の強さを再生する教育や訓練を習慣化することが、危機対応能力を生み出す力になる。

起きてからでは遅い
「今、できること」から実行しよう

高橋澄夫校長藤沢小学校
高橋澄夫校長藤沢小学校
たかはし・すみお
1958年室根町折壁生まれ。
初任地は岩手町立川口小。02年4月藤沢小教頭。06年4月小梨小教頭。
09年4月から今年3月まで山田町立大浦小校長。
東日本大震災で大地震、大津波、大火を経験する。
今年4月から藤沢小校長。室根町在住、53歳

4月に藤沢小へ着任した。
震災発生時は、山田町の大浦小にいた。

高台にある大浦小は、津波の直接的被害はなく、震災直後から、避難所に指定されていた学校の管理者として、避難所運営に追われた。

普段は防潮堤に阻まれて見えないはずの波が、ゆっくり押し寄せてくる。
怖かった。
山田町は津波だけでなく、大規模な火災にも見舞われた。
夜になると空が真っ赤に染まり、あちらこちらからガスボンベが破裂する音が聞こえてきた。

地震発生時刻の2時46分頃、1・2年生はすでに下校。
3年生以上は下校直前だった。
幸いにも全校児童40人、全員が避難をして無事だった。

1カ月以上、避難所で生活した。
その中で感じたことは「自分の安全は、自分で守る」ということ。
そのために「今、できることは何かを考えて行動することが大事」だと子供たちに言い続けてきた。
藤沢小でも実践したい。

今後は、沿岸被災地から藤沢の雇用促進住宅に避難してきた人たちを学校行事に招待したい。
児童には、交流の中でたくさんの話を聴いてほしいし、「今、できること」を考えてほしい。子供たちに被災地を見せることも有効な手段の一つだと思っている。
児童、教職員一人一人の意識を高めること。
それが、学校の防災力につながる。

避難所の様子をまとめた記録集
大浦小臨時避難所の責任者として、高橋校長が11年3月11日から4月15 日まで避難所の様子をまとめた記録集。
50ページ以上にわたる冊子には、避難してきた人たちの様子や避難所での出来事が詳細に記されている

減災で人災をなくす、災害に強い暮らし方を

市の危機管理担当
藤倉忠光企画調整課長補佐
藤倉忠光企画調整課長補佐

災害を未然に防ぐ。
予防できない自然災害は減災する。
それが危機管理です。
そのためには、災害を意識した暮らし方が大事です。
市は各世帯に防災マップを配布しています。
まずは、避難所や災害時の心得などを確認してください。
危機管理の第一歩は意識改革。
行政や消防に「守られる」暮らしから、「自分で守る」暮らしへの転換が重要です。

広報いちのせき「I-Style」 平成24年7月15日号