みんなの思いが集約され、出来上がった3部合唱の楽譜

第3楽章
みんなで一緒に歌いたかった「道標」
亡き仲間の思いを引き継ぐ女声3部合唱
まっすぐな思いと優しい心が最上の時間を紡ぎ出す
夢をかなえることが
できないまま他界した仲間

千厩小学校PTAコーラス(中澤和子代表)は、同校PTAやPTA出身者で構成された女声3部合唱のコーラスグループ。
今年、結成19年目を迎えた。
練習は千厩勤労福祉センターで月3、4回ほど。
それぞれ忙しい年代だけに、全員がそろうことはなかなかないが、「歌って踊れるコーラス隊」を目指し、和気あいあいと歌っている。

今年のサマーコンサートには13人が出演。
福山雅治さんの「道標」とDREAMS COMETRUE(ドリームズ・カム・トゥルー)の「未来予想図Ⅱ」の2曲を披露した。
どちらも大切な人を歌ったメッセージソング。
中でも「道標」は、どうしても歌いたい、歌わなければならない一曲だった。

11年11月、メンバーの千葉聡子さんが55歳の若さで他界。
すい臓がんだった。
ソプラノを担当する聡子さんが生前、歌詞を気に入り、歌いたいと言っていた曲、それが「道標」だった。

しかし、コーラス版の楽譜は市販されてなく、聡子さんは、福山さんに「コーラス版の楽譜を作ってください」とファンレターを出した。
そんな矢先、病気が発覚。
10年7月のサマーコンサートを最後に、ステージに立つことはできなくなった。

「亡くなる直前までメールでやりとりしていました」という同じソプラノの小野寺知恵さん。
「治ったら必ず歌おうね」と回復を信じた。
しかし、願いは届かず、夢をかなえることができないまま、聡子さんは息を引き取った。
励まし続け、最後まで回復を信じた知恵さんの気持ちは、崩れ落ちた。

聡子さんの夢をかなえたい
みんなで道標を歌おう

知恵さんと同じく、悲痛な思いで火葬に参列したメゾソプラノの千葉久江さん。
聡子さんの気持ちを引き継がなければいけないと思った。

「道標を歌おう」

久江さんはすぐに指導者の鈴木庸子さんに提案。
庸子さんは、弾き語りの楽譜を探して、手に入れた。
それをベースに3部合唱の譜を自分たちで作ろうと決めた。
伴奏の小菅かな江さんは「みんながどんなふうに歌いたいのか、気持ちが伝わるような音を作りましょう」と提案。
メンバー全員の思いを聴いた。
「歌詞の中で一番好きな言葉は」「一番思いを込めたい言葉は」「訴えたい言葉は」「この曲から見える色は」「においは」「イメージは」―。
みんな聡子さんを思いながら、「自分なら」「聡子さんなら」と考えた。

仲間の思いを含ませたかったというかな江さん。
驚いたことに、メンバーみんなの意見は、ほぼ一致していたという。
男声の曲だけに、キーが合わず、変調して演奏しなければならなかった。
仕事の合間に編曲し、2カ月後、ついに3部合唱の譜面が出来上がった。
かな江さんのピアノに歌を合わせたとき、久江さんは「こうして歌いたかったのかな」と聡子さんの気持ちと重なり、涙が止まらなかった。
メンバーの思いは一つだった。
「みんなで聡子さんに歌を届けたい」。
その一心で練習に打ち込んだ。

こうして迎えたコンサート当日。
黒を基調にしたそろいの衣装で登場した千厩小PTAコーラスは、息もぴったりの振り付けと優しいハーモニーで会場を包み込んだ。
割れんばかりの拍手に、知恵さんと久江さんは「聡子さんと一緒に歌った」ときっぱり。
充実感でいっぱいだった。

「生きること」を伝えるメッセージソング「道標」。
聡子さんは、「こんなふうに生きていきたい」という自身の生き方と歌詞をリンクさせて歌いたかったのかもしれない。

聡子さんの夫 大光寺住職
千葉正道さん 58 千厩町千厩

千葉正道さん
妻は、千厩小PTAコーラス結成と同時に参加。
いつでも手を抜かず、真剣に取り組む誠実さがあり、録音してきたカセットテープに合わせて練習する姿をよく見ました。

コーラスが楽しかったようで、しっかり家のことと両立させて、休まず練習に行きました。
ご詠歌を教えるなど、普段は、年配の方と接することが多かったので、同年代の方々と一緒に子供の話などをすることも楽しかったのだと思います。

私は、務めのため、妻のコンサートを直接見ることはありませんでしたが、よく撮影したビデオを見せてもらいました。

練習に出掛ける前のはつらつとした姿を懐かしく思います。

これからも一緒に歌い続けます

小野寺知恵さん、千葉久江さん
小野寺知恵さん 50 千厩町千厩
千葉久江さん 47 千厩町千厩

聡子さんは、穏やかで、いざという時、頼れるお姉さん的存在でした。
いつも、(コーラスに)いることが当たり前で、振り付けも楽しんでました。
一生懸命で、まじめで、みんなで長くコーラスを続けていきたいという気持ちが人一倍強い人でした。
私たちはこれからも聡子さんと一緒に歌っていきます。

1在りし日の聡子さん2ステージを終え、充実感でいっぱいの千厩小PTAコーラスの皆さん3サマーコンサートでは、「道標」と「未来予想図Ⅱ」を歌った
4ピアノを弾く伴奏のかな江さん5生前、聡子さんがかなえることのできなかった夢は、みんなの手で実現された6_「あなたの笑顔 それは道標」。聡子さんはこれまでも、これからも、ずっと、メンバーの心の中で生き続ける
1_在りし日の聡子さん。穏やかで優しい人柄が偲ばれる
2_ステージを終え、充実感でいっぱいの千厩小PTAコーラスの皆さん
3_サマーコンサートでは、「道標」と「未来予想図Ⅱ」を歌った。このうち「道標」は、シンガーソングライターの福山雅治さんが祖母を思って作った曲。日本テレビ系「NEWS ZERO」の2011年エンディングテーマにもなった
4_ピアノを弾く伴奏のかな江さん
5_生前、聡子さんがかなえることのできなかった夢は、みんなの手で実現された
6_「あなたの笑顔 それは道標」。聡子さんはこれまでも、これからも、ずっと、メンバーの心の中で生き続ける

広報いちのせき「I-style」8月1日号