宇宙の起源に迫る超大型加速器「国際リニアコライダー」(ILC)について、国内研究者組織のILC立地評価会議は岩手県南部と宮城県北部にまたがる北上高地を国内候補地に選んだ。
東北の産学官が目指す最先端の国際研究拠点の誘致が、実現に向けて前進した。


(C)Rey.Hori/KEK

国内の研究者で組織する「ILC立地評価会議」(共同議長:山本均東北大学大学院教授、川越清以九州大学大学院教授)は8月23日、東京大学で、国際リニアコライダー(ILC)の建設候補地に本市を含む北上高地が最適と評価したと発表した。

一方、文部科学省がILCの学術的意義やILCを日本に実施することの国民および社会に対する意義などについて審議を依頼している「日本学術会議」は、ILCの学術的意義は認めるものの、国内の実施体制、経費の国際分担など不確定要素があり、現時点でILCの本格実施にゴーサインを出すには時期尚早との考えを示している。

今後は、政府がILCを国家プロジェクトに位置付け、ILCが早期に実現されるよう、これまで以上に関係機関の連携した取り組みが求められる。

ILC立地評価会議では、岩手県・宮城県にまたがる北上高地にILCを建設した場合(北上サイト)と福岡県・佐賀県にまたがる脊振(せふり)山地に建設した場合(脊振サイト)について、次の二つの観点から評価を行った。

  1.  加速器を含む実験施設本体を建設する上での技術的な観点(技術評価)
  2.  国際研究所をはじめとする研究施設が集積する中央キャンパスの立地およびその周辺の社会環境基盤の観点(社会環境基盤評価)

各評価結果の概要は次のとおりである。

1_技術評価
ILCを建設する上での各種法令等の許認可、施工上および運用上のリスク、工期・コストなどの面で、北上サイトは脊振サイトより大きな優位性がある。
具体的には、地形の違いから地上から地下へのアクセストンネルの長さが北上サイトは脊振サイトより短く、コスト、工期および地下水等の排水の面などで北上サイトが優位である。
なお、脊振サイトは、ダム湖や都市部の下を通過するため許認可等の手続きやコスト増に対するリスクが懸念される。

2_社会環境基盤評価
両サイトともILC立地に支障をもたらす可能性のある大きなリスクはない。

脊振サイトは、中央キャンパスが大都市圏に近く、生活環境として極めて高い利便性を持つ。
北上サイトは、中央キャンパスの拡張性、新幹線および大型商業施設が隣接する幹線道路での利便性に富む。

一方、外国からの長期滞在者に対するサポートの面では、両サイトとも国際化を飛躍的に進める必要がある。

以上のような評価の結果、ILC立地評価会議の全会一致により、「ILCの国内候補地として、北上サイトを最適と評価する」とされた。

ILCの国内候補地が北上高地に決定したのを受け、勝部修市長は同日、市役所で記者会見を開き、ILCに「長年携わってきた者として、この決定を大変うれしく思う。これまでご指導いただいた多くの皆さんに感謝申し上げたい。ILCは世界に一カ所だけ建設される超大型国際プロジェクト。世界の頭脳・文化が集まり、世界の財産となる。この地域には『平泉』というもう一つの世界の財産がある。この二つの世界の財産を岩手県南から宮城県北を含めたこのエリアのまちづくりに生かしたい」と述べた。

また、「現段階では、国内候補地に決まっただけで、ILCがすぐ実現するわけではない。政府が国家プロジェクトとして位置付け、ホスト国として手を挙げるための環境づくりをしていくことが重要。地元自治体としてどのような役割を果たせるのか、さまざまな機関と協力体制を築き、連携を深めながら取り組みたい」とも。
勝部市長は今回の発表を「次の段階に進めるという大きな意味を持つ」と評価しつつも、登山に例えれば「まだ登山口に立ったばかり」と、実現に向け、気を引き締めている。

市が企画振興部にILC推進室を設置

 千葉敏紀企画調整課長兼ILC推進室長と企画振興部内に新設されたILC推進室
千葉敏紀企画調整課長兼ILC推進室長と企画振興部内に新設されたILC推進室

 

市は、ILCの国内候補地に北上高地が決定したことを受け、8月26日付でILC推進室を設置した。

同推進室は、専任職員2人、兼務職員9人の11人体制で、都市基盤の整備や外国人研究者などの受入態勢についての調査検討、ILCの市民への周知、普及啓発などを行う。

勝部市長は、「ここからが本当のスタート。拙速にならないよう当面は淡々と受け入れ態勢を考えていく」と述べた。

同室設置に伴う人事異動は次のとおり。

【課長級】▽千葉敏紀(企画調整課長兼ILC推進室長)▽小野寺順子(企画振興部政策推進監兼ILC推進室次長)
【課長補佐級】▽藤倉忠光(企画調整課長補佐兼ILC推進室長補佐)
【係長級】▽佐藤正幸(企画調整課企画調整係長兼ILC推進室主査)▽千葉昌子(企画調整課男女共同参画推進係長兼ILC推進室主査)
【主任級】▽千葉邦雄(企画調整課主任主事兼ILC推進室主任主事)▽後藤治(ILC推進室主任主事)▽長坂明比古(同)
【主事級】▽小山貴史(企画調整課主事兼ILC推進室主事)▽菊地絵理子(同)▽菅原翔太(同)

「国際リニアコライダー」(ILC)

ILCは、「International Linear Collider」の略称。
全長30kmを超える直線の地下トンネルの中に設置される線形加速器で、トンネルの中央で電子と陽電子を衝突させる実験装置。
この装置で行う実験により、ビッグバン(宇宙を誕生の瞬間)の状態を再現させ、宇宙創成の謎、時間と空間の謎、質量の謎の解明などにつながることが期待されている。(リニアは「直線」、コライダーは「衝突加速器」の意味)
ILC立地評価会議が発表した国内候補地の評価結果については、ILC戦略会議のホームページでご覧になれます。
(アドレス http://ilc-str.jp/topics/2013/08231145/

 

 広報いちのせき「I-Style」 平成25年9月15日号