館蔵品

算法新書さんぽうしんしょ

算法新書

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 長谷川寛閲 千葉胤秀編 
 板本 縦24.8cm 横17.8cm
 文政13年(1830)刊


 千葉胤秀が編集し、文政13(1830)年に出版された和算の教科書です。
 首巻と巻1~5からなり、厚さ4cmほどの大冊です。胤秀が学んだ江戸の長谷川寛の数学道場から出版されました。好評を得て、明治になっても版を重ね、幕末期から明治期にかけてのベストセラーといわれます。
 数の数え方やそろばんなどの初歩中の初歩からはじまり、代数、幾何、最終的には和算の最高の術といわれる円理の方法まで、独学でも学べるようにわかりやすく書いています。円理の公式を発表した著書は他にもありますが、その公式を作り出す方法を分かりやすく述べたものは、この書だけと言われています。
 江戸初期に初版が刊行され人気の高かった和算書に『塵劫記(じんこうき)』があります。この本には、挿し絵やパズルが織り込まれていますが、『算法新書』にはこの種の楽しませる趣向はありません。『算法新書』は、『塵劫記』では満足しない人々が増えてきたため、彼らの要請に答えるべく編まれたものでしょう。逆に、保守的な和算家の間からは、秘伝を公開したとして非難をうけたようです。
 巻末には、胤秀の門人52名の考えた問題と解法がのせられています。『算法新書』の普及とともに、全国に胤秀門下のレベルの高さをしらしめました。
 この本には、長谷川寛(ひろし)閲、千葉胤秀編と示されていますが、実際の著者は長谷川寛とするみかたもあります。巻三にひとつの問題があります。この問題は、長谷川門下の遊歴和算家山口和の道中日記の記載から、文政元年(1818)に、胤秀が老松(現花泉町)の自宅に山口和を招いた時に話題となったものと考えられます。また、『算法新書』より先立つこと10年前に数学道場から刊行された『算法変形指南』にも胤秀が解答し掲載されており、いわば13年前から温めていた胤秀こだわりの問題です。このように『算法新書』には胤秀の主体性が随所にみられます。

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