館蔵品

黄衣女性

黄衣女性

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 矢野茫土 やのぼうど(1901年~1995年)
 1980年代、紙、岩彩、金箔、17.3×12.4cm
 

 大文字の火を背に、黄色の和服をまとった舞妓(まいこ)が遠くを見つめています。華やかな髪飾りをつけ、銀のかんざしを差したその姿は青みを帯びた暗がりから浮かび上がり、おしろいの香りが漂ってくるようにさえ感じられます。
 独特の世界を醸し出すこの日本画は、詩人・矢野文夫(やの ふみお)が茫土の(ぼうど)の雅号で描いた作品です。舞妓は、富士山や桜、身辺の器物等と共に、矢野の好んだモチーフの一つでした。
 戦前から戦後を通じ、文学と美術の領域で広く活動の場をもった矢野は、肩書きも多いです。詩人のほかに小説家、戯曲家、美術評論家、美術雑誌の編集長、そして日本画家です。さまざまな側面を持つ業績の中でも、十九世紀屈指の詩人ボードレールの『悪の華』の本邦初の完訳と、洋画家・長谷川利行の人間像に迫る伝記・小説を著したことは特筆に価するでしょう。彼は長谷川を「生涯の盟友として」その芸術を称賛し、長谷川の死後はいわば生き証人として、世にその真価を認めさせる役割を果たしました。
 矢野が一関に住んだのは、旧制一関中学校時代の十五歳から二十歳代初めまでの数年です。しかし彼は本籍地を一関市として、著書の中でもそう明示しています。矢野にとっての一関は、七十年にもわたる創作の礎を築いた場所として、特別な思いがあったのではないでしょうか。

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